再会と案内
無事に昇格試験の試験官という大任を果たした数日後、宿でのんびりしているとエレンちゃんから来客の知らせが入った。
「ん~、誰だろう?」
わざわざ宿にまで来るなんてそうそうないことだ。手紙ならそこそこあるんだけどね。しかも、変ににやにやしながらエレンちゃんが入ってきたし。
「まあいっか。とりあえず街行きの服に着替えてと」
「アスカ、でてく?」
「うん。ティタもついてくる? お客さんもいるけど」
「したまでいく」
久し振りにティタも休日を部屋でゆっくりしていたけど、たまの外出なので誘ってみた。ディースさんとの会話も結構進んでいるらしく、今では簡単な単語は話せるらしい。この前、言語をまとめてくれた冊子をもらったけど、説明はすごい勢いだったもんね。
「それじゃあ、お昼はミーシャさんに頼んどくね」
私は着替えを済ませて、ティタを抱えて下りる。受付のところへティタを置いたら来客の待つテーブルに行く。
「すみませ~ん。待たせてしまって……」
「い、いえ、久し振りです。先生」
「あれ? ロビン君」
「はい、ロビンです。約束通り町に来ました」
なんと私に会いに来たのはワインツ村で出会ったロビン君だった。
「へ~、そっか。矢とかはやっぱりその子が作ることになったんだ」
「はい。最初はばらつきがありましたけど、どんどん良くなってきてます」
「良かったね。これでみんな自分のことに集中できるね」
「はい。先生の……アスカさんのおかげです」
私たちにすぐエレンちゃんがジュースを持ってきてくれて、今は二人でテーブルに着いて話しをしてている。ただ、ジュースを持ってきた時のエレンちゃんの『ごゆっくり~』という言葉が気にかかった。
そして、さすがに村ならともかく、アルバで先生と呼ばれるのは恥ずかしいので、さっきから名前で呼んでもらえるようにロビン君にお願いしたのだ。
「そういえば村の人たちは?」
「村の人は狩りで捕らえた獲物の素材を売りに行ってます。他に仕入れもありますけど、僕はまだ見習いにもなっていないので、別行動が出来るんです。といっても、明日の昼には帰りますけどね」
「そうなんだ。じゃあ、今日は街を案内してあげる!」
「よろしくお願いします。それと、ギルドで冒険者登録したいので、一緒に行ってもらえますか?」
「いいよ。それじゃ、先に登録から片付けよう!」
「あっ、登録は後でいいですか。今は村の人もいるし、恥ずかしいので」
「恥ずかしい? よく分かんないけど、混んでない時間が良いんだね。それなら食事を済ませたら行こうね」
「ところでさっきからあの人形がずっとこちらを見てる気がするんですが……」
「人形? ああ、ティタのことね。ティタはゴーレムだよ。ティタどうしたの、ずっとこっちみて」
「そのにんげん、かんさつしてた」
「しゃ、しゃべった!?」
「ああ、うん。驚かせちゃった? ティタは喋れる珍しいゴーレムなんだ。このことは秘密ね」
しーっと指をロビン君の口元に当てる。
「は、はい。でも、ゴーレムが話すなんて初めて聞きました」
「でしょ? おかげで他の従魔とも話が出来るし、とってもいい子なんだよ」
「ちょっと話してもいいですか?」
「いいよ。ティタ、お話してあげて」
「うん」
ロビン君はティタに興味がわいたみたいで二、三言葉を交わした。でも、途中ですぐに慌ててこっちに戻ってきてしまった。
「どうしたの?」
「な、何でもないです」
「そう? 顔ちょっと赤いよ」
「大丈夫ですから」
「ティタ、変なこと言ってないよね?」
「うん、ふつうのこと」
「それならいいけど……」
ティタはティタで人間の常識にはまだ疎いから、変なことを言ってないといいけど。
「あら、アスカ。もうほとんどコップ空じゃない。お代わりいる?」
「大丈夫です、エステルさん。もうちょっとしたら街へ出ますから」
「そう? せっかく村からアスカを追いかけて来てくれたんだし、ちゃんと案内しなさいよ」
「へ? 村から追いかけてきた?」
「エレンが言ってたわよ。前に住んでた村の子なんでしょ? ヒューイさんたちみたいに二人で一緒に住むんじゃないの?」
「な、なんで、そんなことを……」
「エレンが嬉しそうに言ってたわよ『おねえちゃんは鈍い鈍いと思ってたけど、そりゃ相手がいれば鈍くもなるよね~って』その後に村から追いかけて来たって言ってたんだけど違うの?」
「違います! 私が住んでいたのはセエル村でロビン君はワインツ村に住んでるんです。村へ行った時に知り合ったんです!」
「なんだ、そうだったのね。それじゃあ、ライギルさんを止めてくるわ」
「止める? 何をですか?」
「話を信じちゃって、祝いごとだ~って料理を作り始めてたから」
「絶対、止めてきてください!」
私は念入りにエステルさんに頼む。宿で祝いごとなんてしたら、あっという間に真実として広まっちゃうよ。
「ごめんね。変な話になっちゃって」
「いえ、アスカさんとそういう風にみられるなんて光栄です」
「そんな~、私なんてどこにでもいる普通の女の子だよ」
「エレンちゃんに聞いたんです。僕と同い年なのに現在Cランクで弓だけじゃなくて魔法も使えて、細工も出来るすごい冒険者だって!」
よ、余計なことを……。一部事実なところがまた否定しにくい。
「そこまでじゃないよ。ロビン君もそのうちなれるって、多分」
「本当ですか? せめて弓ぐらいは同じぐらいになれるように頑張ります!」
ええ……そこは弓は私以上になりますじゃないんだ。エレンちゃんってばどんな話をしたんだろう。
「それより、そろそろ街へ行かない?」
私は残っていたジュースをぐいっと一気飲みすると、ロビン君に提案した。
「そうですね。まずはどこに案内してくれますか?」
「そうだね。この時間だとまだ空いてない店とかもあるし、ちょっと行くには遅い時間だけど、朝市を見に行こう」
今は十時過ぎ、店がちらほら開き始めるけど、まだまだ閉まっていたり開店準備中のところもある。市場以外では平然と店を開けるだけ開けて、入荷待ちで商品を並べてるなんて光景も当たり前だからね。
「じゃあ、いこっ!」
「はい」
ロビン君と一緒に宿を出ていざ市場へと向かう。
「はい、ここが市場です。朝市は主に肉とか野菜が多いかな? 魚もあるけど、基本的には昨日の分だから鮮度はあんまりかも」
「僕もたまにアルバ湖で釣りますけど、それだと味が落ちるのはどうするんですか?」
「知り合いの店に直接買ってもらったりしてるみたい。だから、市場には足の速い魚は並ばないよ」
「町だとそうなんですね。村だと釣ったらその日のうちに食べちゃうから」
「だよね。冒険者の人でたまに釣りをしてる人も見るけど、そういう人はお昼に食べちゃったり、お土産にその日の夕方には使ってるみたいだよ」
「へ~、あっ! このキノコ見たことあります」
「これはマファルキノコだね。干しても美味しいんだよ」
「そうなんですね。あっちは細工物ですか」
「うん。細工といっても各村の伝統的なものが多いね。普通の細工物は別に店があるから」
「じゃあ、ワインツ村の物だとこっちの方がいいんですね」
「そうだね。店も時間ごとに出せるし、そんなに高くないよ。私は出したことないけど」
「そうなんですか? じゃあ、普段はどこで売ってるんです?」
「知り合いのおじさんの店で売ってもらってるんだよ。後で見に行く?」
「はい!」
その後も二人で色々な店を見て回った。
「アスカちゃん、今日は彼氏と一緒かい?」
「違いますよ。友達を案内してるんです」
「ふぅ~ん。せっかくだし一本食っていきな」
「いいんですか? それじゃあ、遠慮なく」
途中で燻製屋のおじさんの店にも寄って肉串も食べられて、市場見学は大成功だった。
「あの串、美味しかったですね。村でも作れるかな?」
「どうだろう? 専用の魔道具で作ってるから難しいかも」
「そんなのがあるんですか? 街は色々ありますね」
「ま、まあね」
これは魔道具を私が作ったことは言わない方がよさそうだ。変な誤解をされそうだし。
「お昼までちょっと時間ありますね。どこか行きましょうか?」
「そうだね。ここからだと青果市場かな?」
「果物は別に売ってるんですか?」
「別ってこともないんだけど、それなりに日持ちするやつとか栽培されてるのは主にそっちかな」
「村と違って面白いです。村だと個別に売る店とかないですから」
まあ、ヘレンさんに聞いた話だと、大体物々交換だしね。お金は街へ繰り出した時に買ってきてもらうぐらいでしか使わないらしいし。
村だと食べ物が少なくなった時に、街へ買い出しに行かないといけないのがネックらしい。通販や代引きもないし、商人さえ寄り付かないんなら仕方ないよね。
「色々な果物があって面白かったです」
「何も買ってないけど良かったの?」
「はい。荷物はあまり持てませんし、予算も限られてますから」
当然のように村ではお小遣いなんてないし、順番に街へ行くのもお金の使い方を覚えるためが主らしい。せっかく街に来ても物が買えないなんて悲しいな。
「それじゃあ、ご飯にしましょう」
「はい。どこに行きますか?」
「よく利用する店があるから、そこに行こう。きっと驚くと思うから」
もちろん私が行く店とはフィアルさんのお店だ。やっぱりアルバに来たからには、あのパンを食べて欲しいもんね。
「こんにちは~」
「いらっしゃいませ! あら、アスカ様ですね。奥の席へどうぞ」
「わぁ~、すごいいい店ですね」
「でしょ! すっごく美味しいんだよ」
私はいつもの二階にある奥の席へと通される。満席の時でもいつも空いてるなぁここ。
「今日はどのメニューにされますか?」
「う~ん。天気もいいし、肉のコース料理とアイスをお願い」
「かしこまりました」
料理を注文し、しばらくロビン君と話していると前菜が運ばれて来た。




