午後の部
ジュールさんと食事を済ませ、お腹いっぱいになった私は再びギルドに戻ってきた。ここからはDランク昇格試験午後の部が始まる。
「ジュールさん、午後の人の方が実力的には下なんですか?」
午前中にはそれっぽいことも言っていたので、確認しておく。
「そうだなぁ~。強いか弱いかというより、経験の差かな。午前中の奴らはCランクの奴がパーティーにいたり、討伐経験がアルバ以外でもあったりと、そこそこ経験豊富な奴らだ。今からの奴らは討伐依頼の受注が少なかったり、基本は採取中心ってのが多いかな」
「じゃあ、戦い方も連続攻撃とかしない方がいいですか?」
「いや、Dランクになるってんなら討伐依頼も受けてもらわんといかん。別に遠慮はいらん。逆に手数多めの軽い攻撃で、慌てないように経験を積ませた方がいいかもな」
「分かりました。それじゃあ、その方針で行きますね」
ジュールさんと二階の部屋でお茶をしていると、受付の人がやってきて冒険者たちが揃ったことを教えてくれた。
「それじゃ、行くとするか」
「そういえば、ジュールさんは試験官をしないんですか?」
「あ~、前衛の高ランクはな、あんまりそういうの向いてないんだ。まあ、全員ってわけじゃないが」
なんでも高ランクの前衛になると、EランクとかDランクは素人同然なんだそうだ。そこに何かされても本当にわずかな動きで対処できてしまう。手を抜く振りも難しいし、相手にも差を見せつけすぎるから大体はCランク以上にならないと試験官をしないらしい。
「それに、俺はハルバード以外だと格闘ぐらいしかできんからな。手を抜いても俺がハルバードを振るうとな……」
「あ~、それは難しいですね」
ハイロックリザードとの戦闘でジュールさんの戦う姿を見たけど、長身かつ大きな体格にハルバード。振りかぶられるだけでもかなりの威圧感だろう。ろくに戦闘経験がない冒険者とか泣き出しかねない。
「まっ、そういうわけだ。おっ、並んでんな。それじゃ早速始めるか。ちゃんと注意事項は頭に入れてるな!」
「「はいっ!」」
なんだか軍隊みたいだ。鬼軍曹と新兵みたいに見えなくもない。
「先ずはと……ガデムか。前に出ろ」
「おう!」
ジュールさんよりは小柄だけど、体格が大きい人が前に出る。ただちょっと気になるのは、腕とかむき出しなんだよね。筋肉があるのは分かるけど、危なくないかな? 毒とか傷が化膿とかしたら危ないと思うんだけど。
「じゃあ、始めっ!」
試験が始まってしまったので、いったん距離を取って矢を放つ。どうだろ? 避けるのかな?
「ふん!」
「へ?」
何とガデムさんは矢をそのまま肩で受けて、刺さった矢の部分に力を入れて筋肉の動きで抜いてしまった。
「すごい。すごいはすごいんだけど、これ大丈夫かな?」
まあ、ゴブリンの剣は大抵なまくらだし、オークはこん棒だからいいけど、オーガとか力が人よりある魔物だと駄目なんじゃないかな? とりあえず、これ以上傷をつけるのもあれだし、魔法にしよう。
「ウィンドボール」
風の玉を二つほど出して、一つずつ投げていく。
「はぁ! ふんっ!」
まあ、威力も抑え気味だからそうだとは思ったけど、簡単につぶされてしまった。これぐらいは予想の範囲内だから後はこれを止められるかだね。
「ウィンドボール!」
今度は三つの玉を作って先に二発を放つ。もちろん二発は外すコースだ。相手もそれが分かったようで一つを弾いて一つは当たらないので無視した。
「ははっ! 芸がないなぁ」
「……」
まあいいや。私は外した風の玉が後ろにそれたのを確認すると、魔力操作で相手の背中にぶつける。
「おわっ!」
衝撃で前につんのめったところでお腹に残っていた風の玉を当てた。
「グッ!」
さっきまでは私も相手が反応できる攻撃速度でやっていた。肝心なのはそれ以上の速度になった時、対応できるかだ。残念ながら不意打ちで背中に当たって、正面に力が入らなかった瞬間に風の玉を受けたガデムさんは気を失っていた。せめて、防具が蛮族スタイルじゃなくて、きちんと鎧を着てたらなぁ。
ちらっとジュールさんの方を見ると首を横に振っている。まあ、そうだよね。この調子じゃ、町の東には出せないよね。魔物だって徒党を組んでいる。正面から以外も攻撃が来るんだから、この人の戦い方ではすぐに死んでしまうだろう。
「要防具装備と。はぁ、デカブツが邪魔だな。よっと」
ジュールさんは気絶しているガデムさんを担ぐと、ギルドのテーブルに座らせてすぐに戻ってきた。
「あ~、万が一にもあんな馬鹿はもういないだろうが、まともに戦えよ。次はデゼルだ」
「はっ!」
「よろしくお願いします」
「自分は剣を使います」
デゼルさんはひょっとすると騎士爵か男爵とか下位貴族の三男以下なんだろうか? 自分騎士目指してますって姿で分かる。剣は正眼の構えだし、鎧もきちんとしてる。
「始めっ!」
「行きます!」
開始の合図とともに威勢のいい掛け声でデゼルさんがかかってきた。ただ、上段から振りますよって見え見えだけどね。
「ウィンド!」
私は風をデゼルさんとの間に放ち、衝撃と土煙で勢いを殺す。
「くっ! 卑怯な」
「ええ……。御前試合ならともかく、これ冒険者同士の戦いなんだけど」
その後も距離を取って矢を試しに肩に当ててみる。
「その程度効かんぞ!」
うん、割といい鎧のようだ。私の弓の威力じゃ貫けないね。でも、毎回私のいるところに突っ込んでくるのはやめて欲しいなぁ。一本気というか、フェイントもないんだもん。
「はぁ! どうした! かかってこい!」
「うう~ん。魔法でもいいけど……」
これで勝っても正面から戦えとか言われちゃうんだろうな。なら、こうするか。
相手の攻撃をかわすと、弓を持ち替えて相手の剣を落とす。あんまり力を入れると腕が切れちゃうだろうから加減してね。
「なっ!」
この人の性格からして多分、剣以外はスキルも持ってないだろう。これで終わってくれないかな。
「どうします、続けますか?」
「ぐっ、まいった」
後半は戦闘経験がないって話だったけど、戦闘経験というより戦い方の基礎が駄目なのではなかろうか? もう一度ジュールさんに目をやると、再び首を振っていた。うう~ん、これ私でなくてもよかったんじゃ……。そう思いながらも次の相手と戦う。
「はっ!」
「いけっ!」
剣を構えて私に迫ろうとする相手の腕を狙う。小手の部分に矢が当たり、その衝撃で剣を落とす。しかし、そのまま無手で相手が接近してきた。
「ウィンドボール」
矢を放った手で、相手の腹に風の玉を当てる。
「くっ」
「そこまでだな」
「ふぅ、メインの武器が落ちてもそのまま向かってくるなんて思ってもみませんでした」
「だが、あんたには簡単に防がれちまったな」
「私が普段練習する相手は格闘術LV4の強者ですからね」
剣に至ってはLV5だったりするし。剣の鋭さも接近戦の間合いへの入り方もこの人よりかなり早いからね。
「そうか。そりゃ無理なわけだ。何かアドバイスとかないか?」
「そうですね。最後に突進した時は左手が空いてましたから、腰か胸からナイフとかどうですか?」
「なるほどな。剣の構えから殴りかかっても向こうは対処しやすいからか。頭に入れておくよ」
この後も四人の試験をしたけど、みんな矢を連続で放つとすぐに慌てだした。ちょっと休憩がてらジュールさんを呼ぶ。
「どうした?」
「ここまでやって思ったんですけど、乱取りみたいに複数戦とか、一対多数の訓練とかできないんですかね。多分、戦い方うんぬんよりそっちの方が駄目そうです」
弓と魔法を使う私が思ったのは、ちょっとタイミングがずれて二方向から攻撃されると、すぐに動きが鈍ることだった。普段は魔物の不意を突くか、できるだけ一対一になるように戦っているのはいいんだけど、それに慣れ過ぎている感じがするのだ。これだとちょっとした群れに襲われたら、うまく逃げられるかも怪しい。
「なるほどな。試験でっていうのは難しいから、どこかで講習って形でやってみるか。にしてもよくそんなに思いつくな」
「大体、いつも相手にするのは自分たちより大人数でしたし、結構急襲も受けてますから」
全く、ありがたくないことだけどね。オーガに襲われた時とか危なかったし。それから休憩を終えて、再び試験が始まった。
「そこまで!」
「始めっ!」
「もう少し積極的に行け」
「はい!」
段々ジュールさんも冒険者としての熱が入ってきたようで、後半はどんどん指示を出していた。良いのかなとも思ったけど、その方が動きが良くなるんだからよしとした。
私やジュールさんも別に試験で落としたいわけじゃないからね。動きが良くなって、合格につながるならその方がいい。
でも、試験の結果はこのままだと半分近くが落ちそうかな? 午後の人たちは本当に正面切った戦い以外では戦えない人が殆どだった。
「ふぅ」
「ご苦労だったアスカ。で、どうだった?」
試験も終わり、みんなが帰った後でジュールさんの部屋へ戻った私がお茶を頂いていると質問が飛んできた。
「う~ん。Dランクってこんなものだったかなぁ、っていうのが正直なところですね」
自分がDランクの頃だったら、オークやオーガ二体ぐらいまでは倒せなくとも時間は稼げるぐらいだったと思った。でも、今日戦った人たちの半数はオーガ単体でも戦えなさそうだ。特にあの斧を持ってた軽装のでっかい人は危なそうだ。
「やっぱりか。あれだとオーク二体がギリギリなんだよ。それじゃ、Dランクとしてなぁ~」
ジュールさんも似たような感じだったようだ。ただでさえ、亜種や上位種も出るようになった東の森へ行くには危険だ。
「せめてアスカが身体強化の魔法でも使って対処するぐらいでないとな。アスカの速さは見た感じ100前後だろ? Dランクとしてみたら速いかもしれんが、Cランクとしてみれば普通だし、それぐらいならついてきて欲しいんだがな」
「スキルのLVが低いというか無駄なフェイントも結構ありましたしね」
「引退した奴らをいくらか雇って、修練所でも作るか……」
「それか学校とかですかね?」
「学校たって授業料が高いぞ」
「そこはギルドマスターとして頑張ってくださいよ。学費を安くして卒業後、町で半年は活動を義務付けるとか」
「う~ん。冒険者は自由が売りだからな~」
「その自由を切り売りして実力をつけるっていう形は?」
「まあ、ちょっと考えてみるか。だができれば、個人でやって欲しいんだよな。あんまりギルドが事業をすると、商人ギルドがなぁ」
事業を起こすとなるとギルド間で色々あるようだ。そこはジュールさんに任せよう。とりあえず、今日は疲れた~。十五戦はやっぱり多いや。今度からやるとしても十戦ぐらいまでにしてもらおう。




