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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと冬と旅立ちの準備

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午前の部


 試験の二人目はダレスさんという人だ。何やら始める前にジュールさんに話があるらしい。


「あ、あのジュールさん。これって本当にDランクの試験ですか? 以前はもう少し低いレベルだったと思うんですけど……」


「ああ、ダレスは二回目か。まあ、アルバの周辺も危険になってきたしな。前までのはどっちかというとオークぐらいまでの対応が基準だからちょっとは上がってるな。お前も二回目なんだしちょうどいいぐらいだろ」


「が、頑張ります」


「ダレスさんの武器は何ですか?」


「私はこの通り弓です」


 ダレスさんが背中に背負っていた弓を出す。しかし、弓自体は私のものよりも小さい。どうやら連射ができるよう小型になっているようだ。とりあえず、間合いを取って試合開始の合図を待つ。


「よし、始めっ!」


 合図とともに私は弓を構える。もちろん、速度重視だ。相手は小型弓だからそれに負けないように構えて放たないと。


「はっ!」


「なっ……はやっ!」


 狙いも適当に付けたのでもちろん当たることはないけど、それでも自分より早く矢を射かけられて、ダレスさんは焦ったようだ。そこへ、きちんと構えた私の第二射が迫る。


「ひっ!」


 完全にこっちのペースになったせいで、向こうは矢を構える気もなくしてしまったようだ。たまらず、ジュールさんが止めに入る。


「ダレス、まずお前は何かと対峙した時に焦るその癖を何とかしろ。それが治るまではDランクにはさせられん」


「い、いや、今のは自分より早く射かけられて焦ってしまっただけで……」


「戦場じゃ、相手の弓の方が数が多いことだってある。お前はその言いわけをその場面でもするか? 今のお前の動きは周りを危険に巻き込む。それが認められないと言っているんだ。前衛は得てして熱くなりやすい。敵の武器を肌で感じるからだ。後衛はそれを見て動かないといかん。今のお前なら代わりに前衛に一人いた方が安全だ」


 それだけ言うとジュールさんはもう試験は終わりだと、次の人の名前を呼んだ。ダレスさんは渋々ながらも引いていった。次の相手はニクスさん、女性の冒険者だ。


「やっぱり、ダレスさんは駄目だったか。ここは私が頑張んないとね。ニクス、短剣使いです。よろしくね」


「アスカです。よろしくお願いします」


「よしっ、準備はできてるな。始め!」


 合図とともに三戦目だ。私は一度、弓をやめて杖に切り替える。その動作の時、相手の動きに違和感を覚えた。


「ウィンド」


 咄嗟に風魔法を使う。するとその風の方向にカランとナイフが落ちた。さっきの違和感を覚えた動作の時に相手が投げたナイフだろう。


「およ? 気づかれるなんてね」


 ニクスさんの方を見ると、片手に三本のナイフが見えた。ただ、ジャグリングのようにしていて、手元にあるのは一瞬だから、三本に見えるだけかもしれないけど。中々の技量だと思うけど、これ以外に何かできないのかな? そう思った私は風魔法を使ってみる。


「ウィンドウォール」


 これでニクスさんと私の間には風の壁が作られた。もし、彼女の攻撃手段がナイフだけならこれで何もできなくなる。Dランクへの昇格試験と考えれば、武器が一つあればいいわけだけど、今後のことも考えると何かもう一つ欲しいと思ったのだ。

 だって、オーガが相手だと彼女にできることはほとんどなくなっちゃうからね。


「うわっ! 噂より厳しい。どうしよっかなこれ」


 風の壁をどう攻略するか悩んでいるようだ。でも、何か違和感がある。どっちかというと手の内を見せるかどうか渋っているような感じだ。ちょうど私が隠蔽で力を隠しているのに似ていると感じた。


「まぁ、いっか。アクアボール!」


 一発、二発と水の玉が風の壁に命中する。しかし、この壁はアクアスプラッシュならともかくアクアボール程度では貫通できない。しかし、彼女は続けて打ってくる。


「さらに、アイスコフィン!」


 風の壁に大量の水が入り、彼女の氷の魔法で壁ごと凍らされる。こうなってしまっては風の壁も氷の壁となり、私がコントロールできなくなった。

 そのまま彼女はナイフを持って壁に突っ込む。そして、壁にナイフを突き立てそこから方向転換しようとして―――。


「ファイアボール」


 すかさず私は三つほど火球を作り出し、壁に向かって放つ。


「へ?」


 バキバキ


 彼女がナイフを突き立てた氷の壁はあまり分厚くない。高温と刺さったところに力が加わり、たちまち壁にひびが入り砕けた。そして彼女は方向転換に込めた勢いのまま氷の壁とは反対側へと飛んでいった。


「いちち、良い案だと思ったのに……」


「良い案だと思いますよ。私が火を使えなかったら危なかったですし」


「そ、褒めてくれてありがと」


「ニクスどうする?」


「こうさ~ん。この子、強いというよりやりにくいわ」


 それだけ言うとニクスさんはさっさと戻っていった。私ってそんなに戦いづらいのかな? でも、水系とはいえ氷魔法って初めて見たかも……よく考えたら釣りの時に見たことあった。

 水使いでも一応レアなんだよね氷は。レダとエミールは使えるけど、ティタは使えないし。


「それじゃ、続いていくぞ。次はデッセルだな」


「デッセルだ。火属性を使う」



 その後も二人と戦った。五人と戦ってニクスさん以外に共通していたのは、機先を制した時に少なからずみんな焦るということだった。

 森や視界の悪い時は相手に強襲をくらうこともあるだろう。今はゴブリンとかオークだから何とかなっているかもしれないけど、オーガなら致命傷になりかねない。午後からはちょっとここに重点を置いてやってみようかな。


「ただいま~」


「あっ、ニクスさん。お疲れ様でした」


 結果が告げられて、みんな受付前に戻ってきた


「ういうい~。ちゃんと私は上がったよ~。ダレスさんの他にもう一人落ちたけどね~」


「そうなんですね。それは何というか……」


「まあ、実力不足って言われたんだから努力しかないでしょ。にしてもアスカちゃんはよく氷魔法で驚かなかったね~」


「あっ、いや~咄嗟のことだったので……」


 さすがに湖で凍った湖面を溶かしたり、魚の解凍で慣れてますとは言えない。


「結構レアな魔法だからいけると思ったんだけどね~。やっぱり、Cランクだと効かないね」


「でも、びっくりはしましたよ。それに風の壁が凍るなんて思いませんでした。あれだと砕くかそのまま風で滑らすかしかできませんし」


「風で滑らす? 相変わらず面白いね。やっぱり、あなたに試験官を頼んでよかったよ」


「そうですか? お役に立てたならよかったです」


「今日はこれからどうするの?」


「お昼を食べたら、午後からまた試験です。後、十人ですね」


「そりゃ大変だ。がんばってね~」


 ふりふりと手を振ってニクスさんと別れる。ナイフの扱い方といい、あの氷魔法といい不思議な人だったなぁ。


「お~い、アスカ。飯行くぞ」


「あっ、は~い」


 ジュールさんに呼ばれたのでそっちに向き直りついて行く。今日は試験官で時間を取らせるということで、お昼はご馳走してくれるのだ。もちろん、試験官としての給料も出るけどね。一人当たり銀貨一枚だ。


「どこへ連れていってくれるんですか?」


「最近、アルバにできた店でな。一枚のプレートに料理が乗っていてうまいらしい」


「そんな店ができてたんですね。楽しみです」


 こうして新しくできた店に入って注文した私たちだったけど。


「うん、まあなんだ」


「想像とは違いますね」


 一枚プレートの料理といっても、ハンバーグプレートみたいにいくつかの料理が区分けされて出てくるのだと私たちは思っていた。

 しかし、出てきたのは肉が豪快にドン! その上に野菜ドン! さらにタレドン! という全部の料理が次々に乗せられた大皿料理だった。


「この店の噂をしてるのが冒険者連中と肉体労働者ばかりなわけだ。焼いてその上に野菜を乗せてタレをかけるだけなら出てくるまで早いしな」


「そうですね。各料理を一緒に出すというより、肉だけ焼いて後は乗せる時短料理ですね」


 これなら急ぎでもそこそこ早く出てくるし、お腹も膨れる。一石二鳥といえば聞こえはいいけど、もうちょっと考えて欲しかったかも。せめてサラダぐらいは別皿が良いよ。まあ、文句はここまでにして一度食べてみる。


「まじか……」


 つい変な言葉遣いになっちゃったけど、これ下味付けてないね。野菜を少し食べて、肉を切って食べてみたけど、濃いめのタレで誤魔化すタイプの料理だ。肉も素焼きしてタレで食べるから急いでというか、肉汁があふれる前に早く食べないと味が薄まって大変なことになるな。


「野菜に味があるもの中心で助かりました」


「そうだな。俺は早食いとか慣れてるから構わんが、アスカだと厳しいだろ?」


「はい。でも、注文する時に値段書いてありましたけど、あれならこれぐらいが限界かもです」


 何とこの大皿プレートはお値段、一人銅貨九枚だ。今はパンが柔らかい物になったから、宿のご飯は安くても大銅貨一枚。単位が繰り上がりませんよというあさまし……企業努力がうかがえる。

 確かに肉は割と大きい切り身だし、やや硬いから食べごたえもあって満腹にはなるだろうけど、できたら食べたくはないかな?


「ちゃんと食えそうか?」


「大丈夫です。ただ、ちょっと多いです」


「食えそうにないならその分貰うぞ」


 見るとジュールさんのお皿は残り半分ぐらいだった。自分で言ってたけど本当に早食いだな。私はというと三分の一も食べたかどうかだ。残しても時間がかかるだけなので、まだ食べていない三分の一をジュールさんに切り分けて渡す。


「ふぅ~、まあまあだな。値段と量から考えると、割りと安いんじゃないか?」


「でも、女性は連れてこないでくださいよ」


 プレートの端にもタレがかかってるし、ナイフの切れ味もいいとは言えない。服に飛び散る可能性もあるし、一緒に行く人を選ぶだろう。


「まあ、この外観でそんな奴はいないだろ。にしても悪かったな。評判は悪くなかったんだが……」


「ギルドでの評判ってことを考えたら、悪くないと思いますよ」


 飲み物もエールかジュースに水だけ。料理もプレートが魚と肉の二種類。テーブルもそれに合わせた作りで小さめだ。その分、座席数を多くしてあるようで、中々満員とはならない。

 だけど、逆に言えば入ったらすぐに注文出来て、すぐに出てくるということでもある。宿のお昼時は途中、待ってもらってることを考えたら悪くはない選択肢であることは確かだ。まあ、私はもう行かないだろうけど……。



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