腕比べ
当初の予定とは違い、私とロビン君が射的で競うことになった。
「うう~ん、こうなっちゃうとは。お手柔らかにねロビン君」
「はい。先生に胸を借りるつもりで頑張ります」
ロビン君は真面目だ。というより、私と腕比べをするというのにちょっと嬉しそうなんだけど。私もロビン君も自分の弓を出して射的の位置につく。
「では、それぞれ矢は五本ずつということで。ロビンもそれでいいな」
「はい、父さん」
矢を受け取った私たちは矢筒に五本の矢だけを入れて構える。
「同時にするか? 別々が良いか?」
「では僕から行きます」
「おう、最初はロビンからか。がんばれよ~」
射場の後ろには狩人を始め、村の人がどんどん集まってきている。まあ、出し物といってもほとんどが食べ物なので、こういうイベントは珍しいのだろう。
「それじゃ、お先に行きますね」
一度呼吸を整えるとロビン君はヒュンヒュンと矢を放つ。こんな時でも一射に時間をかけず自分のスタイルを貫くなんて、生まれ持っての狩人かもね。
「おおっ! あの速度でやったにしちゃさすがだな。五矢の内、四矢が的の半分より内側、一矢がギリギリ外か。来年が楽しみだな」
「デレク! うちのと一緒にならないか言っといてくれよ」
「まだ、息子には早いと思うが……」
「そんなこと言って、マーサはすぐバトゥに決めちまったしな。うちの子も早く決めてやらんと」
後で聞いたんだけど、この村で狩人と言えば将来の有望株で、腕のいい人から順に引っ張りだこらしい。中には二人ぐらい奥さんをもらうこともあるんだって。開かれた土地が少なくて、農地と言えば畑な村では珍しくないことらしい。
「それじゃ、次はアスカさんの番だ。頼むよ」
「はい。それじゃ行きますね」
私は弓を構えるとすぐに放つ。ロビン君とやり方は違うけど、あれだけ早打ちされて自分はゆっくりやって勝ちました! っていうのはよろしくないしね。まあ、私の場合は単発だから矢をつがえるのは早くしないといけないんだけど。
ヒュン ヒュン
「おおっ、こっちも早い。単発だが構えてから撃つだけならロビンより上かもな」
「まあ、当たらなきゃ意味がないがな」
そういう人の声を無視して、私は五本全部を撃ち終わった。
「結果はと……アスカは五射の内、三射がほぼ中央。残りの二射も的の半分より内側だな」
「先生! 流石です。この弓でやった時よりもすごいですよ」
「あはは、まあこの弓は私用に合わせてあるやつだからね」
「……すごい腕だな。これでロビンと同じ年か。俺たちでも連続で中央に当てるのは難しいぞ」
「ああ、狩りをやってきて腕には自信があったが、あれは中々……」
「あっ、でも私って撃つの専門で整備は店の人に任せてるんです」
なるべくさりげなーく、私は話題を切り出した。
「まあ、それぐらいの歳だとあれやこれやとは難しいか」
「そうですね。私は店の人にそういうところはお任せしてますけど、この村ではみんな自分でするんですよね。私は弓一本ですからその方がすごいと思います」
「そ、そうか。まあ、俺たちは仕方のないところもあるからな。昔は弓も矢も作るのがうまい人がいたんだが亡くなってしまってね」
「後継者の方はいらっしゃらないんですか?」
「ああ。その息子は弓の腕も悪く、狩りの才能が乏しくてね。村を出て行ってしまったんだ」
「その人が弓矢を作り続けていればみなさんも苦労がなかったんですね」
「……そう言われればそうなるな。ちなみにその整備とかをする店は高いのか?」
「う~ん。どうでしょう? でも、私も武器を毎回買うわけじゃないからそれなりにはしますよ。弓の整備も専門的な技術ですしね」
「確かに片手間でやるには重要度が高いな。儀式の弓も古くなってきたし、うちの村にも誰かなり手を探すか……」
「それなら、ガンツはどうです? 腕はいまいちですが、手先は器用でよく各家の補修をしているとか」
「デレク、それは本当か? なら一度やらせてみるか」
うんうん、私の名演技もあってトントン拍子に話が進んでいる様だ。美味しいお肉も食べたし、お酒も入ってるから余計に話がよく進んでいるみたいだ。しばらくその様子を眺めていたけど、ロビン君が来たのでそっちに向かう。
「お疲れ様」
「先生もお疲れ様です。さすがでしたね」
「まあ、普段使ってる弓だしね。ロビン君も、もうちょっとして自分専用の弓を持ったら出来るようになるよ。でも、無茶はしちゃだめだよ。自分を大切にね」
「はい! さっきの姿を思い浮かべていつか並べるように頑張ります」
その後は再び食事を取ったりしていた。でも、さっきの射を見せた後だったから、色々な人が話しかけてきた。とはいえ、お酒も際限なく飲んでいいよというわけではなく、ひとり二杯までとなっていて絡まれることはなかったけどね。
お祭りなんだからもっと騒ぐのかと思っていたら、残念ながら今年はお酒が高くて大量に用意できなかったとのこと。来年は目一杯飲めるといいね。
「そろそろ時間か。お~い、そろそろ片付けだ」
「あ~、もうか? しばらくは肉なしだなぁ~」
「おいおい、今回は二頭いるんだからまだ余りがあるだろ」
「そうだったな。祭りのこともあるし、しばらくは村にも肉の備蓄がなくてと思ってな」
「そうそう。それに明日辺りにウルフの肉が手に入るらしいぞ」
「ウルフかぁ~。せめてオークの肉ならな」
「そういうのは狩りの腕を上げてからだ。ウルフだって立派な肉なんだからな」
そういえばヒューイさんがウルフの肉について返事をもらってきたんだった。祭りの前だと一緒に出したりしないといけなくなるから、祭りの後でって言われてるんだよね。場所も村長さんの家の裏だ。あんまり目立つとよくないからということだ。買取に関しても村長さんが自分のお金でやるんだって。
「アスカ、そろそろ警備の時間だ」
そこへヒューイさんがやって来た。どうやら、祭りが終わりだからそろそろ警備につかないといけないようだ。
「それじゃ、私は依頼に行ってくるからロビン君、またね」
「はい。先生も気を付けてくださいね」
ロビン君に見送られながら私は森の入り口に着いた。
「祭りはどうだった?」
「楽しかったです。ちょっと、想定と違いましたけどね」
私は射的の時にあったことやその後のことをベレッタさんたちに話した。
「へぇ、そんなことになったのね。でも、うまく話が進んだみたいでよかったわね」
「はい。食事も美味しかったです。お二人のところには何か来ました?」
「ああ、俺たちのところにも持ってきてくれたぞ」
「ボアの肉じゃなかったけどね。色々持ってきてくれたわ」
「良かったです。見張りはどうですか?」
「今のところは何ともないな。というより、まず何もないらしいが。ただ、村人が飲むんできちんと見張りができる人間が欲しいからみたいだな」
そう言いながらも警戒は怠らないヒューイさん。やっぱり、仕事ぶりが真面目な人だな。
「私たちもお昼頃に時間を作って森へ行ったの。でも、村の周辺に魔物はいなかったわ。おかげでサナイト草とかを簡単に採れたの」
「やっぱり村の人たちはサナイト草を採ってないんですね?」
「恐らくそうだと思う。群生地というか生息場所には普通の雑草も生えていたが、サナイト草が分からないぐらい背が高い草は生えていなかったからな。季節物だが、そこそこの収入になるだろうに」
「そうですね。私も去年は結構採りましたけど、いい収入になりましたよ」
「万能薬の材料だもんね。質の悪い物もムーン草とかと一緒に混ぜるとちゃんと使えるし」
「そうなんですか?」
「ええ。万能薬としては使えない物も、他の薬の効果を少し上げられるみたい」
「ますます採っておきたいですね。明日、ロビン君に見分け方を教えてもいいですか?」
「別にいいんじゃないか。俺たちもここに来るなんてまずないだろうしな」
「そうね。わざわざサナイト草のためだけに、ここへ来ても仕方ないし」
「来るとしても引退してからだな。まあ、今のままならアルバにいるだろうがな」
「アルバに住むんですか?」
「まあ、家も買ったし治安もいいだろ? 村は言っちゃなんだが色々あるからな。子どもが生まれたとして二人目以降に出て行けってのもな……」
そういえばヒューイさんって身体が弱い弟さんのために自分が村を出てきたんだっけ。自分の子どもが同じことになった時にどう思うかは分からないし、変に揉めたりしたら嫌なんだろうな。
「それだったら、いつかアルバにいる従魔たちの誰かの親になってもらえませんか?」
「う~ん。魔物使いの適性があったらな。その前に俺がCランクになれるかどうかだけどな」
「それだけ言ってならなかったじゃ駄目よ。帰ったらその件も含めて稽古しましょう」
結局、警備とは言うものの夜明け頃まで色々話をしただけになってしまった。もちろん、途中で交代しながら仮眠は取ったけどね。




