依頼内容と獲物
昼食を後回しにして、ワインツ村に着いた私たちだったけど、村に着くなり村長さんから依頼の説明あるとのことだったので、宿の食堂で話を聞く。
「では、今回の依頼だがまずは宿泊についてだ。今日と祭りが終わる四日後までの宿泊費と一日三食の食費はこちらで持つ。食費に関しては宿で出される通常のメニューに限ってだが」
「それは助かる」
ヒューイさんの言う通り、本当に助かった。今回の護衛依頼料は銀貨三枚。三人で分けたら一人銀貨一枚だ。これに四泊とその食費が合わされば、全部飛んでしまう。人によっては依頼を放棄する可能性もあると思う。
「それと飾り矢の方はどちらに?」
「ちょっと待ってくださいね、今出します」
私は頑張って作った飾り矢を出した。羽も塗料を使い色を何パターンか用意して、中央近くには魔石の欠片も埋め込んだ。矢じりの方もウルフの牙を使い、塗料を塗布してもいいようにした。鉄だと錆びちゃったりするかもしれないしね。
「おおっ!? これはなんと素晴らしい! いつも作ってもらっていたものも良い矢でデザインもよかったが、正直毎年同じ物なので新しい物が来るとみなも喜ぶだろう」
私の矢は村長さんの受けもいいようだ。
「私にも見せてもらえますか? わっ! 本当にすごいわ。細かいし、矢じりも一本一本違う色なのね」
「はい。私、自分で塗料も作っているんです。それで、色の種類は豊富なんです」
「でも、こんなにカラフルなのは初めてよ。きっと、今回のお祭りは盛り上がるわね」
「ヘレン、そのことなのだが……」
「村長様、何かあるんですか?」
「ああ。まずはあなた方に受けて頂いた護衛の件だが、本来なら祭りの前日から当日の夜の間、会場付近の人を護衛してもらうのだ。そして、その祭りに魔物が必要なのだ」
「魔物……ですか?」
「うむ。この祭りはな、一年間の収穫と来年の収穫を祈願するものでな。村で採れる野菜はもちろん、祭りの当日には魔物をしとめる催しを行う。飾り矢はその時に使うもので、それに合わせて祭りの前には十九歳以下の若者が魔物を捕らえて村で生かしておくのだ。護衛というのもこの魔物が逃げ出して村人を襲わないように雇っている。それが、今年はまだ捕まらんのだ」
「そうだったのですか? 村の男たちは何を」
「それがのう。最近の者は狩りの腕がな」
「そういえば、前に私が来た時もグレートボアに困ってましたよね」
「そうなのですよ」
以前、ワインツ村に来た時にはグレートボアに畑を荒らされたり、そもそも狩り自体にも問題が起きていた。どうやらまだその問題はくすぶっている様だ。
「どういうことなんだアスカ?」
「ワインツ村では、以前から狩りの練度が落ちていて、獲物を取り逃がすことが多くなっていたんです。どうやらまだ、その問題が続いているみたいですね」
「そうだったの」
「お恥ずかしい話だ。この村にはこれといった産業はないし、我々としては死活問題なのだ。何とかしたいのはやまやまだが、差し当たっては祭りに必要な魔物は確保しなければならず、そちらもお願いできないかと」
「これまではどうしていたんですか?」
「何とか村の方で獲物を捕っていた。だが、ここ最近は獲物こそかかるが、みな落ち着かずとどめを刺してしまってな……」
「とどめを? どうしてまた」
「単純に腕が未熟でな。魔物が暴れると恐怖のあまりとどめを刺してしまうのだ。確かに村で檻に入れるとは言え、運ぶ間は危険ではあるのだが……」
村の人たちの気持ちもわかるけど、さすがにこの調子だと祭りまでの間に獲物を確実に捕らえることは難しそうだ。
「もちろん、報酬も用意する。村にとっては一大事だからな。いつもなら明後日の夜から翌日の祭りが終わった夜明けまでの間のみの依頼なのだが、受けて頂けないだろうか?」
「どうします、ヒューイさん、ベレッタさん?」
「私は別にいいけれど、いつ捕らえられるか分からないから、護衛の依頼に響くかもしれないわね」
「そうだな。明日、捕らえられればいいが無理だったら明後日の夜の護衛依頼は難しいかもな」
「それで構いません。何とかこの二日間でよろしくお願いします」
そう言って村長さんが頭を下げてくる。お祭りもれっきとした神事だ。それも、神様が実在しているこの世界ではかなり重要なのだろう。ベレッタさんたちとも相談して、私たちは依頼を受けることにした。
「大変なことになっちゃったね、ミネル」
《チッ》
「そういえば、先ほどから気になっていたのだが、その魔物たちは?」
「私の従魔でこっちのレダがバーナン鳥。こっちのミネルがヴィルン鳥です。小さいのは二人の子どもですね」
「おおっ! その小鳥がヴィルン鳥ですか。たまに村から町へ行く者が噂しておったのです。何でも幸運を呼ぶ鳥だとか、あやかりたいものだ」
「あはは……」
村も大変みたいだし、村長さんも苦労しているんだろう。
「でも、この調子じゃ弟が心配だわ」
「弟さんですか?」
「ええ。今十三歳なんだけど、来年からは狩人見習いとして狩りに同行するのよ。正直、手本に出来そうな人も少なくなってきたし心配なの」
「あの子ももうそんな年か。確かに最近は矢も罠も質が落ちてきたからな……」
「大変そうですね。とりあえず、祭りで使う魔物の方は私たちで探します」
「お願いします。わしは村の者と打ち合わせがあるのでこれで……」
そういうと村長さんは宿を出て行った。
「ごめんね、アスカちゃん。村のことに巻き込んでしまって」
「いえ、これぐらい大丈夫ですよ。ベレッタさんたちもいますし」
「でも、これじゃあ問題の先送りだわ。何か対策を考えた方がいいと思うわ」
「そうなんですけどね。手本になるような人がいなくて……。ある程度の腕のある人も「見て覚えろ!」としか言わないのよ。これまではそれで上手く行っていたから私たちからは何も言えなくて」
うわ~、こんなところにもまずはやらせて失敗をさせるとかいう考えの人がいるんだ。丁寧に教えてあげたら、実力の底上げにもなると思うんだけどね。見てもすぐに分かることと、感覚をつかんで初めて理解できることの差あるのに。
「えっと、弟さんは弓が使えますか?」
「もちろんよ。我が家は代々、弓使いよ。と言っても村の人は半分ぐらいそうだけどね。残りの人は罠とかナイフとかよ」
「それなら少しは教えてあげられるかもしれません」
「本当? よかったら見てあげてくれない」
「はい! でも、さっきの話だと獲物を捕らえるのに忙しいんじゃ」
「ああ、あれ。あれは十四歳の今年狩りを初めた歳から十九歳までだから弟は関係ないの。逆に弟たちを教える世代が未熟だから心配でもあるんだけど」
「まあ、狩りの腕は師匠次第ともいうし心配だな」
そんなわけで早速、今日の夕食後から稽古をつけることにした。
「そういえばヘレンさん。宿は開いてるんですね」
「ええ、この時期はずっと開けてるのよ。帰省で何人か帰ってくるからね」
「ん? 実家で過ごしたりしないのか?」
「もちろんそうよ。だから、基本素泊まりね。でも、いくら実家とはいえ布団とかはないでしょう?子どもが生まれてる家もあるし」
なるほど。食事ぐらいはどうにかなっても、泊まる場所がないのか。確かに一軒一軒はそこまで大きくなかったな。
「そうそう、出来れば部屋は四人部屋を使って欲しいんだけどいい?」
「別に構いませんけどどうしてです?」
「顔見知りだから遠慮がないというか、狭い付き合いでしょ? 大部屋は何年かに一度問題になるのよね。やれイビキがうるさいだの、前から気に入らないだの」
「村にいる時は我慢できたけど、出ていったから協力することもないし、より気に入らないのね」
「ベレッタさんの言う通りよ。恥ずかしいことだわ」
「いや、俺たちの村でもそういうことはあったからしょうがないさ」
「じゃあ、お願いします」
「そういえば、ベッドってないんですよね」
「ごめんなさい、家具を用意する予算がなくて。もう少し客が来てくれればね」
「うう~ん、どうしようかな」
木組みの簡単なベッドぐらいなら私にも作れるだろうけど、言うほど変わんないしなぁ。スプリングや調節機能もないただの板張りじゃ意味ないよね。
「アスカちゃんどうしたの?」
「板張りのベッドぐらいなら材料さえあれば作れるなって。でも、直引きと変わんないですよね」
「まあ、そこまではね。気持ちの上では全然違うけど」
「違いますか?」
「そりゃあ床なんて靴で歩き回ってるもの。気分的にね」
そういえば、室内はスリッパなんて感じでもなかったな。雨の日はマットがあるけど、それも玄関だけで部屋は基本土足だしね。そう考えたら掃除はしてあるけど気になってきた。
「ヘレンさん、木材とか余ってたりしません?」
「余ってると言うか、森の入り口近くの木を伐採する予定はあるけど……」
「それって今すぐじゃ不味いですかね?」
「不味くはないけどどうするの木なんか?」
「即席……まあ、普通ぐらいのベッドを作ろうかと」
「アスカちゃんって細工以外にもそんなことできるの?」
「作ったことはないですけど、それぞれ寸法さえきちんとしてればいいはずです」
「じゃあ、お願いしていいかしら。ちょっとだけ待ってもらえる。父さんを呼んでくるから。私じゃどれを切って良いか分からないの」
「その間に私たちはお昼ご飯にします」
「そういやまだだったな」
「ミネルたちもお腹空いたでしょ。一緒に外で食べよう?」
《チッ 》
さすがに宿の食堂で従魔と食事をするのは気が引けるので、シートを敷いて外で食べる。
「今日のパンは美味しい?」
《チッ 》
お昼は私がサンドイッチでミネルたちはパンの端と野菜だ。野菜も朝採れたばかりだから瑞々しい。
昼食を終えた私たちはヘレンさんのお父さんと合流して、森の入り口に案内してもらった。




