建築と休憩
ゲインさんから依頼を受けた私はヒューイさんやベレッタさんと出発日の待ち合わせ時間を決めて別れた。
「じゃあ、五日後だな。時間は十時だ。宿に行けばいいか?」
「ギルドで大丈夫ですよ」
「なら、ギルドね。当日はよろしくね」
「私こそ」
二人と別れて私はというと早速、冒険者ショップに盾を卸しに行った。武器屋にも卸すんだけど、一応ポーションの材料とかも貰ったしね。作ったやつも買ってくれるって言われたし。
細工をしてて分かったんだけど、結構お店との付き合いも大事なんだよね。優先的にいい素材とか材料も回してもらえたりするし。
「今回の魔石もジュールさん情報だけど、見せてもらえるかは分かんなかったもんね」
在庫としてあっても、売れたと言われたらそれまでだし、いい店とは今後もお付き合いしたいからね。
「こんにちは~」
「あら、アスカちゃん。どうしたの今日は?」
「ちょっと魔道具を作ったので買い取って欲しいんですけど……」
「ふぅん。いくらぐらいかしら?」
「一応ゲインさんに見てもらったら金貨五枚って言われました」
「あら、ゲインの店で売らなかったの?」
「ここにはいつもお世話になってますし、もちろん今度ゲインさんの店にも卸しますけど」
「まあ! どんな魔道具なの?」
私はお姉さんに魔道具の説明をする。こちらでも中々の感触だ。
「なるほどね。確かにこの重量ならそこまで動きに影響はないし、下手な金属盾より長持ちよね。でも、金貨五枚か……難しいわね」
「高すぎますか?」
「いえ、高すぎってわけじゃないの。ただ、もしこれにウィンドウルフの魔石を使ったものが出たらね。それは金貨八枚ぐらいになるわけでしょう? そうなると、手放すことも考えたらこれが売れなくなっちゃわないかなって」
冒険者は専用の装備より汎用性の高い装備を好む。それは、自分が装備を更新する時の売値に関係するからだ。同じような物ならやや高めでも手放す時に売値が高くなる物を買う。
今回でいえば風魔法の素養が必要なグリーンスライムの魔道具は売値が安くなる。反対に魔力があれば使えるウィンドウルフの魔石の物を買えば、売る時に値崩れしにくい。
「あっ、大丈夫です。これ魔石を取り換えられるようになっているので、変えたくなったら変えられますよ」
「えっ!? これ取り外せるの。それなら、まあいいかしら。でも、思い切ったことをするわね。自分がせっかく作ったのに外されちゃうわよ」
「私じゃ、火と風の魔法以外は込められませんからね。こっちの方がみんなも嬉しいかなって」
「分かったわ。じゃあ、金貨五枚で買い取るわね。絶対売って見せるのと、ギルドにどういう人が欲しがってたか報告しておくから」
「お願いします。それじゃ」
私は盾をお姉さんに預けて宿に戻る。ちなみに冒険者ショップは冒険者ギルドの直営店みたいな感じで、売ったものは冒険者カードの残高にギルドで入れてもらえる。委託販売に近いかな?
でも、商人ギルドもあるから何でも売れるわけじゃなくて、冒険に必要なものという制限がある。装備とかポーションならいいけど、服とか効果のない装飾品とかは売れないんだ。
「さて、ポーション作り再開だね」
昨日はMP多重回復薬を作ったけど、他にも色々と作ってみたいのもあるしね。
「ひとまずはこの万能薬だね。ここにルーン草を混ぜて、MPもちょっと回復できるようにしよう」
万能薬はその名の通り、状態異常を回復させるポーションだ。ここにMP回復を追加した薬を作ろうと思う。異常状態の中には魔力、MPを消耗させるものがある。せっかく治ったのにすぐに対応できない危険を回避するためだ。こういう薬を飲む時って切羽詰まってるだろうからね。
「いざという時はMP回復用のマジックポーション代わりになるから腐らないし。それにあんまり普通の物を作っちゃうと失敗するんだよね~」
特異調合というレアスキルのお陰で、通常配合ではほとんどの配合で失敗してしまう。万能薬も普通の配合では失敗するので、効果を高めるシェルオークの葉やベル草など本来不要な薬草も混ぜて作らなければならない。
しかし、そうすると単価が高くなる。ますます失敗できないので、あったらいいなを追加していっているのだ。
「普通の万能薬も作りたいんだけどな……」
十本作って成功が一本程度になることは目に見えているので、そんなことはしない。普通に買えばと思うかもしれないけど、スキルLVを上げるためには製造を行わないといけないのだ。
「まあ、細工用の塗料とかでも上がるみたいなんだけど、あっちは一度作るとかなり持つからなぁ」
かと言って少量を回数作ると、肝心な時に足りなくなるからどうしても作る時にためらっちゃうんだよね。もったいぶってたら、細工の仕上がりにも影響するから、気軽に使える量を作らないと。
午後の時間を目いっぱい使ってポーション作りに精を出した私は翌日、休日とばかりに魔道具なしで細工を半日行ったのだった。
「ふぅ~、昨日は魔法を使わずに回復に努めたし、今日は小屋を頑張るぞ~」
今日はシュタッドさんと約束した小屋制作の日だ。この前、一部は私も書いた設計図を基に、完成稿を材料とともに持ってきてくれるとのことだ。私も木材の運搬を手伝うっていったんだけど、これは建築する自分の仕事だからと譲らなかったので現地集合となっている。
「待ち合わせは現地だったから、早速孤児院に行こう」
孤児院に着くとすでにいくつか木材が積まれていた。
「おっ、アスカ早いな。まだ三十分前だぞ」
「シュタッドさんこそ」
「ノヴァにアスカはいつも早めに来るって聞いたからな」
こうして必要な物資の運搬は待ち合わせの時刻には完了していた。
「それで設計図はどうなりました?」
「こんな感じだ」
そこには小屋というか倉庫と言っても差し支えない図面が載っていた。私の動物小屋の記憶と言えば、板をただ張り合わせて、出入り口を付けただけのイメージだったけど、柱もあるし屋根も交換可能な設計になっている。
世話がしやすいようにサンダーバードと掃除係用の出入り口があり、鳥用の入り口は屋根のすぐ下で、雨が入りにくくなっている。
「木材はまだ切り分け前ですね。早速していきましょう」
「ああ。だがその前に、各枚数を頭に入れてくれよ」
なるほど、木の長さも全部決まってるんだ。私は一枚基準の板を切り出して、必要な枚数を作っていった。
「こんな感じですかね」
「おう、さすがに仕事が早いな。アスカ、大工でも食っていけるぞ」
「私が出来るとしたら、柱とかに細工をするぐらいですよ」
「そういう建物もあるんだぞ。貴族とか商人の家を作る時は細工できるやつが貴重なんだ。ああいうのはセンスが問われるからな。普通の家が組めるからと言って出来るもんでもない」
「へ~、やっぱり貴族の家とかって大変そうですね」
「おう! 支払いがいい分、文句も一番多い。変に作りすぎると作り直しが発生して面倒なんだ」
私たちは話をしながら小屋を作っていく。木材を切り分けた後は私が運搬、シュタッドさんが組み上げていく。ハンマーを使って、トントンと板を固定していく姿はまるで魔法のようだ。だって、長細い板が叩かれると直立するんだもん。いやまあ、溝とかは彫ってあるけど、それでもペースよくされるとそんな風に見えるのだ。
「そっちの釘の束をくれ」
「は~い」
どんどん作業が完成していき、後は屋根と小屋部分を接合するだけになった。
「そろそろ休憩に……。あら、もう完成ですか?」
「ん? ああ、まだ中は途中だがな。本当は内部を先に完成させたいのだが、サンダーバードたちが気に入るか分からんから、都度調整するしかなくてな。アスカ、休憩だ」
「分かりました」
院長先生が持ってきたのはパンだ。パンといっても宿で売っているもので、きちんとしたやつだ。
「ほう? これは鳥の巣で売ってるパンか。この時間によく買えたな」
「今日の話を子どもたちが宿でしたようで、昨日作ってもらったんですよ。なのでちょっと古いですが、火を入れてやわらかくなってます。何でも新作らしいですよ」
新作ってどんなパンだろ? 気になったので手に取って中を見てみる。これは……魚? ツナっぽく見えなくもない何かが入っていた。
「ほう? これは魚か。いやはや珍しいパンだ。あそこの食事はパン以外もうまいからありがたくいただくよ」
「シュタッドさんまっ―――」
ぱくり
ああ~、食べちゃった。ライギルさんの魚パンだけはやめておいた方がいいのに……。
「な、何だこれ!? 水っぽいな……。油と塩の味ぐらいしかない」
やっぱり。私もちょっと食べてみる。うう~ん、不味いというわけではないけど油で保存性を高めてる分、塩気がちょっとあるだけであまり他の味がしない。味付けをして煮た後でよく洗っているのだろうか旨味も薄いんだよね。
「ライギルさんって料理上手なのに、パンのアイデアだけはいまいちなんだよね」
「これを食べたら違うとは言えないな。宿で出すパンの新作の案はどうなってるんだ?」
「私かミーシャさんの採用が多いですね。エステルさんもそこそこです。ライギルさんはこだわり過ぎって言うか、予算に合わないんですよね」
メニューとして出せるのは大体、銅貨六枚ぐらいまでで売れるもの。つまり、材料としては銅貨三枚ぐらいまでの金額で作れないと駄目だ。それが、大幅に超えるか時間がかかり過ぎるかで、他の料理と似た考え方ができないみたいなんだよね。
「普段の料理はどうしてるんだあの人?」
「普通の料理は食材の組み合わせで対応してますよ。ただ、パンは新しい食材というか切り離して考えてる節があるんですよね」
「そりゃ大変だな」
そんなことを話しながら休憩を取る。子どもたちはというと午前中は勉強の時間だ。最近は教会からシスターが来るようになって、前までよりも勉強の時間が延びている。院長先生もこれが仕事に結び付けばと期待しているんだ。




