下見
私たちは小屋の採寸をするため孤児院へ向かっていた。先頭はシュタッドさんでその後ろに私、その後ろには時たま羽ばたくサンダーバードたちだ。この並びはとても目立つのだけど、サンダーバードたちが大人しくて人間に敵意を持たない鳥だという宣伝効果もあるので、受け入れることにした。滅茶苦茶恥ずかしいけどね。
《リィ》
「ん? 後もうちょっとだ」
孤児院は宿からはちょっと遠いのだ。普段から山の上の方であまり動かなかったサンダーバードたちにはしんどいかもしれない。自慢の羽も使わないしね。
「ほら、もうちょっと頑張ってね。小さい子は抱っこしてあげるから」
そう言って、その中で一番小さい子を抱えると、他の子どもの二羽もぴょんぴょんと動く。
「うう~ん。さすがに三羽となると落っこちちゃうよ」
《リィ》
大丈夫だよと二羽は私の肩に飛び乗る。そして、足をしまうと肩に座り込んでしまった。
「もう~、仕方ないなぁ」
私は風の魔法を使って二羽を落ちないようにしてそのまま進む。さすがにここから下りてとは言いにくいしね。そのまま孤児院まで進み、院長先生に挨拶する。
「ようこそいらしてくださいました。エステルから話は聞いていますよ。もちろん私も大歓迎です。子どもたちも生き物と触れ合うことで色々な経験が出来ることでしょう」
「こちらこそよろしくお願いします。それで、この子たちも見たいということで連れ来ちゃったんですけど、お願いしていいですか?」
「ええ。上の子たちが宿で見たとみんな楽しみにしていましたから」
「でも、あんまり強く持ったりしないでくださいね。魔物といってもそんなに力が強い種族じゃないので」
「分かりました。今日のところは私が責任を持って見ますから……」
「それなんですが院長。俺たちも小屋の規模や場所を決めたい。そういうことで相談に乗ってもらいたいのだが……」
「そうですか。では、この子たちのことはセティに任せましょう。あの子も来年にはどこかへ働きに出るかもしれませんし、いい経験になります」
院長先生はセティちゃんを呼ぶと、先ほど私たちが話した内容を伝えている。セティちゃんもしっかりした子だから大丈夫だろう。
「これが、みんなの言っていた鳥ですか? なんだか怖くありませんね」
「ええ。とても温厚だということなの。ただ、びっくりさせたらお互い危ないのと、小さい子にしたらそれでも大きいから注意してね」
「はい!」
私はサンダーバードたちをセティちゃんに預けて、広々とした庭の方へと向かう。ちなみに庭が広いのにもわけがあって、この辺りは昔、共同墓地だったらしい。
それを町の拡張とともに埋め立てたんだけど、やっぱり土地に人気がないのでいっそのこと当時建設計画のあった孤児院の敷地にしてしまえということだとか。始まりは微妙だけど、みんなが遊べるところが出来たということは良いことだと思う。
「これぐらい広けりゃ、小屋ぐらいなんでもないな」
「そうですね。設置場所には困らなさそうです」
「ところでアスカさん。どのぐらいの数のサンダーバードたちが暮らすのですか?」
「一応、今は四羽を予定しています」
「それは増えたりするものなのかしら?」
「どうでしょう? 二家族いますから、それなりには増えるかもしれませんけど、そこまで深く考えていなかったです」
「まあ、エサの方も宿からだっていうし、そこまで多くはならないだろう。とはいえ、敷地も広いことだし、他にも何か飼えるように余裕は持たせておくか」
「よろしいのですか、シュタッドさん。それでは小屋の予算が……」
「何、俺も親父たちが帰って来るまで暇だしな。今回の依頼はアスカのおかげだっていうし、それぐらいはやらせてもらうさ。相手の親父も金払いが良くてな」
そういえばあのおじさんの酒場というか食堂って結構にぎわってたな。ぼろっちく見えたけど本当に直す機会がないだけだったんだろう。
「では、お願いいたします」
「で、作るとしてサイズはどのぐらいまでならいいんだ?」
「子どもたちが遊ぶ広さも必要ですし、むやみに近寄らないように網を付けることを考えると、このぐらいまでですね」
「これぐらい大きいと掃除も大変では?」
「掃除はみんなでやりますので構いません。それより、本当にこれぐらいの大きさでも大丈夫なのですか?」
「ああ、必要な木材は用意してるし、その加工の過程で出る木を組み合わせてしまえば、それなりの量になる。本当なら一枚板の物を作りたいんだが、さすがにそうなると予算がな……」
「いえいえ、ここまで大きい物を作られるとは思っておりませんでしたから」
「小屋はどんな感じですか?」
大人同士の会話だったので、しばらく聞くことに専念していたけど、気になるので割って入った。簡単な図面をさがあったのぞき込むと、そこには幅四メートル、奥行き三メートルほどの立派な小屋が描かれていた。
「りっぱ~」
「まあな。これもアルゼイン建築の仕事だから変な物は作れんよ。そうだアスカ。鳥たちの巣箱への出入り口の案を描いてくれないか? こういうのは普段から見慣れてるアスカの方がいいと思うんだ。俺たちもこういう動物小屋は普段作らないからな」
「分かりました」
私は早速紙を受け取ると何個かの開口部の試作を描く。まずは蓋なしで着地用の床を作って周りに風よけを配したもの。続いてはちょっと心配だけど、押して開けられる上下に動く扉。なんで心配かというと悪戯好きな鳥の誰かが奥にいて、開かないようにしてしまわないかと心配なのだ。
ここ数日でサンダーバードたちは好奇心が強いのと、悪戯好きな性格だということが分かった。親しい人にだけみたいだけど、逆に家族とかなら遠慮なくやりかねない。それも考慮して他にもいくつか案を描いておく。
「ほう、一つ二つは描けると思ったが、こんなに出してくれるとはな。この押して開くタイプは良いんじゃないか?」
「それなんですけど、あの子たち仲のいい子同士だと悪戯も多くて心配なんです」
「なるほどな。常に出歩かないなら問題ないが、今の様子を見ると何匹かはずっと小屋の中にいそうだしな。分かった、そういうことも考慮しておこう。内部の部屋はどうする?」
「とりあえず、寝室が二つぐらいあるといいかなって思うんです。他には遊べるところもあると雨の日はいいんじゃないかと」
「ふむ。数を考えれば部屋を三つ作って、後は屋外に通じる部屋にするか。寝室を下に作っちまうと、ガキどもがうるさくて困るだろうから上に二つだな。後はリビングというかなんにでも使えそうなのが一つと屋外に通じる部屋が一つでいいか」
「それならトイレは別に作ってもらえませんか?」
「別に構わんがどうしてだ?」
私たちの言葉を黙って聞いていた院長先生から指摘があった。
「糞を肥料として使うことが出来るので、別にしておいてもらえるとありがたいのです」
「分かった。そういうことならそれで進めよう。必要な木材の量も分かったし、後は加工して使えるようにするだけが、ちょっと日数がかかりそうだから三日ほど待ってくれ」
「分かりました。それじゃ、三日後にお願いします」
予定が早速決まったので帰ろうと思ったら、肝心のサンダーバードたちが子どもたちと一緒に遊んでいて、帰れなくなってしまった。
「う~ん、どうしましょう?」
「十五時過ぎになったら、リンネたちも来てくれるし、一緒に帰るように言いますよ」
「良いんですか? でも、従魔だけだと目立っちゃうんじゃ……」
「それでなくてもいつも帰りはリンネだけだから問題ないですよ。街の人間も遠巻きに見ているだけですから」
「なら、お願いしてもいいですか? 私も帰ってやりたいことがあるので」
「ええ、任せてくださいね」
私はサンダーバードたちを院長先生に頼んで、二人と別れる。今の時間に帰れれば、一つぐらい魔道具も作れるだろうしね。
「ただいま~」
「あっ、おねえちゃんおかえり。早いね」
「うん。シュタッドさんの手配がいいから思ったより早く終わったんだ」
「そうなんだね。夕飯は何時からにする?」
「うう~ん。ちょっと集中したいから遅めでいいかな?」
「分かった。頑張ってね、おねえちゃん」
任せて! と返事をしながら部屋に戻る。今から作るのはベレッタさん用の盾だ。
「えーっと。まずは盾の外側部分は厚めに作ってと……。魔石を入れるところは衝撃が伝わりにくい構造にして。後はバンド用の金具だけど、これもいっそのこと銀にしよっかな?」
バンドの材料は最近出回り出したサンドリザードの革だ。これまでは凸凹していたのが平べったくなっている。丈夫で耐久力もあるからこれが広まったら、サンドリザードの皮の買取価格も上がるって言ってたな。
「とはいっても、このバンドみたいに切れ端を使うのはさすがに値上がらないだろうけどね。どっちかというと鎧とかのつなぎに使うって言ってたしね」
高くなりそうなのは金属と金属の間の関節部分用なのだ。ああいう場所は金属にすると可動域が狭まるからそれを嫌う冒険者も多い。そういう時に今まではガンドンとかの素材を使っていたんだけど、あれはあれで硬くて重い。かと言ってウルフの毛皮じゃ、魔物の牙や爪が食い込むので敬遠されていたんだ。それを解決できるとどんどん人気が上がって来てるんだって。
「まあ、私はハイロックリザードの革を使ってるからいらないんだけど、他の冒険者は軒並み買い替えかもね」
今のCランクは大体買い替えるんじゃないだろうか? そんなに高くないし、これまでの素材より軽くて丈夫なのだ。まあ、その代わりにガンドンの買取価格が下がりそうなので、それはそれで問題だろうけどね。
「あっちはあっちで温度変化に強いっていう特徴があるから捨てがたいんだよね」
サンドリザードの皮は結構温度変化に弱いし、その革もそこまで寒暖に耐えられるものではないと思う。そうなったら、ガンドンのような皮はテントの材料として重宝されると思うんだけど、買取価格が下がるなら草原に行く冒険者自体が少なくなると思う。
「ただでさえ、あっちは危ないしね」
予備にもう一つぐらいテントを買おうかと私は悩むのだった。




