お披露目
昨日はせっかくシュタッドさんと屋根を改修したので、空き時間を使って宿のみんなに見せてみる。ついでに施設の説明もしたいしね。
「わっ! ほんとに新しく屋根が付いて空間が出来てる!」
「よく一日でやるな。二人なら二、三日はかかってもおかしくないだろ」
「シュタッドさんがすごかったんですよ! 木とかも全部ひょいって持っちゃうし」
「ああ、あいつか。腕もそうだがいつも大量に運んでるんだよな。親方も喜んでたぞ。まだまだ店が繁盛するってな」
「早速、上がってみても良いかしら?」
「どうぞ、足元だけ気を付けてくださいね」
私は壁にかけられる木製の梯子をかけて固定する。
「そこのくぼみに固定できますから、場所は間違えないで下さいね」
「分かったわ」
最初はミーシャさんが屋根に上がる。
「わぁ、綺麗ね。町が一望できそうよ」
「ほんと? わたしも上がる~」
「エレン、気を付けなさいよ」
「分かってるって」
エレンちゃんも屋根に上がると、人の気配を感じたのか、サンダーバードたちが動いた。街に来てからは割とお寝坊さんなんだよね。
《リィ》
「こんにちは。私はミーシャよ。これからよろしくね」
ばささっと羽根を広げて鳥たちも返事をする。私も説明をしたいので、屋根へ上がった。
「みんな、ちょっと下りてもらえる? ここのお世話の仕方を説明したいの」
《リィ 》
分かったと下の木に飛び移るサンダーバードたち。でも、まだ寝起きのためか、ふらふらな子がいた。木を通りすぎて下に落ちるところで、親がポヨンと下敷きになる。
「大丈夫?」
「大丈夫そうだぞ。割とまるっとしてるからな」
無事を確認したところで、私はミーシャさんとエレンちゃんに使い方を説明する。
「こっちの板はそのまま外して、下にシートでも引いてもらって、そのままポイっとごみを捨てられます。古くなってきたらそのまま捨ててもらっても大丈夫です。こっちのクッションとかは都度状態を見て洗って下さい。あの子たちが遊んで破いてしまったら、また買ってきてもらえばと思います。ドルドに売ってるので」
「費用はどうしよっか?」
「それなんだよね。私が町にいる間は良いけど、旅に出たらどうしようかな?」
「それなら、うちが支払う予定のコールドボックスの料金を相殺する形にすればどうかしら? もちろん、これに使う費用は微々たるものだから差額がアスカちゃんには入るわ。明細も商人ギルドになるけど、きちんとつけておくから」
「お願いしてもいいですか? 手間をかけてすみません」
「いいわ。あれのおかげで主人も助かってるし、他にも色々してもらったもの」
他にも気になっていたことを相談して、ある程度話がまとまったので地面へ下りる。
「みんな、家に戻っていいよ~」
《リィ》
しかし、どうやら遊びたいのか私のところに来てばさばさと翼を動かす。
「うう~ん。この後、孤児院にも行かないといけないし……」
今日も今日とて孤児院に設置する小屋の相談にシュタッドさんが来るのだ。合流したら二人で一緒に孤児院へ行き、設計図をその場で描く予定が入っていた。
「そうだ! みんなもお世話になるんだし、一緒に行く?」
《リィ!》
元気よく返事をするサンダーバードたち。
「それなら、今は我慢してね。後で迎えに来るからね」
そういうと納得してくれたのか家に帰っていった。ちなみにシュタッドさんが来るのは午後だ。午前中はレディトの酒場の改修に行く間の打ち合わせがあるそうなのだ。それ以外にも補修の依頼などの確認や、材料の在庫の確認も必要だと言っていた。
「お留守番も思ったより大変そうだなぁ。なんせ、釘なんかの資材から確保してるもんね」
現代なら、問屋やホームセンターなど色々買える場所があるけど、店ごとに違う規格の物を使っているので、自前か暇な鍛冶屋さんに頼んで、作ってもらうんだって。だから、金属の配合にも詳しかったんだね。
「規格の統一とかすればいいのに……」
そう言ってはみたものの、同じ店でも代替わりとともに違う規格を使ったりするので、少なくとも一気には出来ないんだって。町単位では共通規格にする話も出てはいるらしい。
「そんなこと言ってても、じゃあどの店のを基準にするんだって話になったら面倒臭そうだよね」
こういう根が深そうな問題には近づかないようにしないとね。時間はかかるかもしれないけど、職人さんたちに頑張ってもらおう。一先ず、午後までは暇なのでちょっとこの間に言えなかったことを言わないとね。
「ミーシャさん、実はもう一つお願いがあるんですけど……」
こっちは非常に個人的な問題なので、サンダーバードの一件が片付くまで言い出しづらかったんだよね。いやまあ、これも個人的なことなんだけど。
「まだ何かあるの? 言ってみて」
「実はこれなんですけど……」
私はマジックバッグに大事に保管していた梅の木とシソの株を出す。
「これは?」
「梅の木とシソです。梅は塩やはちみつで漬け込むと美味しいんです。シソは梅と一緒に漬け込んだり、殺菌作用とかもあるんですよ」
多分だけどね。そんなに食品に詳しいわけじゃないから自信はないけど。
「そうなの? それでこれをうちの庭に植えたいのね」
「はい。いいですか?」
「ちなみにこの木の方はどのぐらいの大きさになるの?」
「どのぐらい……う~ん。十メートルぐらいですかね」
正直、梅の木をまじまじと見たことがないからよく分からないんだよね。そんなに大きくなることはないと思うけど、念のためちょっと大き目に言っておく。
「それぐらいなら宿の隅の方に少しずつだったら植えてもいいわよ。シソの方は?」
「そっちは結構繁殖力もあるので、区画を決めて植えた方がいいかもです」
「そう。あんまり見ない植物だし、裏庭に植えましょうか」
庭のスペースを使ってシソを植え、梅の木はひとまず宿の四方と、ライギルさんたちの家の前に植えることにした。
「木といっても枯れることもあるでしょうから、三本ずつ植えましょう。その代わり、ちゃんと調理方法は教えてね」
「は~い」
やけにあっさり認めてもらえると思ったら、食材になるというところだったのか。ライギルさんは料理馬鹿だけど、ミーシャさんもそのお手伝いをしているってことなんだね。いそいそと各場所に植えていく。後は春を待つだけだ。
「と言ってもさすがに小さい株とか挿し木だけだから、来年の春に採れるかは微妙なところだけどね」
予定だと春の終わりには旅に出ちゃうから一度ぐらいは作っておきたいんだけどね。昼も近くなり、宿の方にみんなで戻る。家の方に植える分は確認をミーシャさんにお願いすることにした。
「おっ、説明聞いてきたか。どうだった?」
「すっごく綺麗に作られてたよ」
「まあ、次期親方のシュタッドが作ったんだからな。それで何で手が泥だらけなんだ?」
「えっとね。おねえちゃんが見つけてきた新しい木と植物を植えていたの」
「ほう……。アスカの持ってきたものか。どんなものが出来るか後で見に行くか」
「植物の方は大丈夫ですけど、木の方は春までは実を付けませんからまだですよ」
「そうなのか? 何か分かるものがないか?」
「あるにはあるんですけど……」
今手元になるのは貴重な数百年物の梅干しだけだからなぁ。でも、お世話になってるし一つぐらいならいっか。
「この梅干しってやつなんですけど、貴重な物ですから一個だけですよ」
「貴重って来年にはできるんだろ?」
「そうですけど、これ数百年前の物なんです。だから、次に食べられるのはずっと先なんですよ」
「ちょっと待てアスカ。それ食えるのか?」
「食べられますよ。塩漬けにして保管されてましたから」
「だが、その塩分の所為で真っ白なんだが……」
「そう思うなら食べなくてもいいですよ。貴重なので私も取っておきたいんです」
「アスカには悪いが、腹を壊したら宿の経営に問題が出るからな。自分で作って試すよ」
「それじゃあ、これはせっかくですし私がお昼に食べますね。なのでご飯はコメでお願いします」
「あれなぁ。あんまり売上良くない割に高いんだよな。作るのも手間だし」
「手間ですか?」
「ああ。パンはオーブンに入れておけばいいし、他のも煮るとか焼くならそれでいいけど、蒸らすって工程がいるだろ? あれも冷めないようにしないといけないし、場所がなあ」
う~ん、実は身近だった炊飯器ってかなりテクノロジーのつまったものだったのだろうか? 料理好きのライギルさんも手間がかかるって思うなんて。
とりあえず、ご飯を炊いてもらう約束をして部屋に戻る。コメはまだまだ知名度も人気もないメニューなので残念ながら二人分のみだ。
「まあ、お米だと思って食べてるけど、確かに味もそこまでよくないんだよね」
古米というか多分、品種そのものの違いなんだろうね。でっかい袋を丸ごと買った時に、稲穂もイメージアイテムなのかおまけで付いて来たけど、穂についてるコメの量自体、ちょっと少なめだったんだよね。
今エヴァーシ村に頼んでいる分は割合多かったけど、買ったものはあんまり収穫量もなくて、人気がないのも頷ける。
「それにどっちかっていうともち米っぽいんだよね」
もち米といってもおはぎに近いぐらいで、餅になるとまではいかない。まだまだコメを広めるには時間がかりそうだ。
その後、私はというとちょっと細工の片づけをしていた。やっぱり人気のない物は在庫になるし、そろそろ廃番にしたいのも出てきたのだ。
一点物でない以上、商品数があることは武器だけど、さすがに月に一個も売れないのは遠慮したい。手作業で作っている分、それなりに疲労も溜まるし在庫になるなんて、さすがに許容できないのだ。




