飼育場所
サンダーバードを町で飼うこと自体はどうにかなりそうだったので、後はどこで飼うかだ。宿は全羽飼うことはできないけど、半分ぐらいは受け入れ可能。となると残りの半分をどうするかなんだけど……。
「どうしたの? そんな深刻な顔して」
「エステルさん。厨房は良いんですか?」
「ええ。後は焼いたり温めるだけで大丈夫。それで、何の話をしていたの?」
「実はですね……」
私はかいつまんで、サンダーバードたちの現状を話す。
「ああ、子どもたちがじっと見てたあれのこと。いいんじゃない、安全なら孤児院で飼っても。エサは宿からの帰りに持たせればいいし。ライギルさん、別に余りや切れ端の野菜ぐらいは出せるんですよね?」
「ああ。それぐらいは大丈夫だが、いいのか? 孤児院で飼っても」
「別にいいと思いますよ。確かに寄付でもってますけど、エサ代も宿から寄付でもらえて、後は材料も提供してもらって小屋さえ無料で建てれば。子どもたちの良い教育にもなると思いますし。こういっては何ですけど、毛も割とふさふさしてましたから、抜けた羽とかを使って何か作れれば収入にもなりますから、文句は出ないと思います。子どもたちも興味津々でしたし」
「確かに孤児院の周りは広いし、城壁近くということもあって人気のない場所だしな。だが、一気に七羽というのはどうかな?」
「そんなにいるのアスカ」
「はい……」
「全く、しょうがないんだから。それじゃあ、半分を孤児院で、半分を宿で面倒みたらどうですか? 二家族いるなら何日か毎に住処を変えるんです。そうすれば従魔の一家もそうでない一家も安全だって思ってもらえると思うんですけど……」
「なるほどな。それは良い考えだ。木材に関しては親方のところに相談してみるよ。商人ギルドの方でも孤児院やスラムについて教会から意見書も来ていたし、いい機会かもしれん。まあ、当分は屋外で飼うことになるだろうが、宿の場所をどうするか……」
「室内は無理ですよね」
「さすがにな。いくら洗っても臭いは残るだろうし、そもそも室内だと客と鉢合わせするだろう。鳥の方はよくても人の方がなぁ」
「小屋といっても置き場に困りますよね。どうしましょうか?」
「いっそ屋根にでも住めれば場所は関係ないんだけどね。まあ、雨風を防げないから無理よね」
ん? 屋上みたいな感じかな。確かこの宿の屋根って割と平らだったよね……。何とかなるかも!
「どうしたアスカ?」
「ライギルさん。屋根改造してもいいですか?」
「改造って、雨漏りとかはしないだろうな?」
「多分……。でも、心配だからノヴァも呼んでやってみようと思うんですけど」
「何とかなるなら、俺もかなえてやりたいし、いいぞ」
「本当ですか!」
「ただし! お前がいなくてもちゃんと使えるようにしろよ。でないと旅先からでも呼び出すからな!」
「はい! 不肖アスカ、頑張ります」
何とか許可も出たし、明日から頑張らないと。でないとあの子たちの寝床が作れないからね。部屋に戻ると早速、簡単な設計図を描く。
「まずは場所だけど、宿の正面には作れないから、裏手から行けるところだね。上がる時は梯子かな? でも、きちんとしたやつを作らないといけないけど、長いのは作れないしなぁ」
ステンレスが作れれば、金属で何とかなる気もするけどクロムだっけ? 何かが必須なんだよね。鉱物とかには詳しくないし、どうしたらいいんだろう?
「アスカ、どうしたの?」
「ティタ、鉱石の名前とか分かる?」
「わかんない。かたいとかだったらわかる」
「そうだよねぇ~。鑑定とかで分かったりしないのかな?」
駄目もとで今度、ホルンさんに聞いてみようかな。分からないなら適当に金属を混ぜてみて試そうか。一応ティタ先生は食べれば、腐食しやすいとか特性が分かるみたいだし、それを頼りに梯子を作ろう。
ただし、金属は高いし重量もあるから作るのは屋根からある程度までだ。そこからは替えの利く、木製の梯子にする。ライギルさんも言っていたけど、私にしか作れないと後々困るからね。
「次は小屋の設計かぁ。天井は作るけど、その下は柱だけにして風通しをよくしてと、後は床も汚れるだろうから溝を作って流さないとね。でも、そのまま下に落ちちゃうと汚れちゃうし、管を通さないと。床は貼り換えとか出来ないからスライド式にして一定期間経ったら交換できるようにしようかな?それなら掃除も楽だろうし」
うんうん。どんどん仕様がまとまっていく。こうやって書いていくと必要な材料が分かるからいいよね。木材とかも大体の量が分かるし、これぐらいなら私でも用意出来そうだ。
「おっと、忘れるところだった。その前に宿の屋根として機能することを考えないと。でもこれはノヴァとも話しをしないとな。町の屋根で平面になってるところってすごく少ないし、ちゃんと聞かないと分からないところもあると思うし」
設計は一度これで終えて、明日の準備をする。明日はディースさんが宿に来るから、ちゃんとお出迎えしないとね。
「一応、部屋に来るかもしれないし、片付けしておこうかな?」
いない間にもエレンちゃんがお掃除してくれてるけど、基本は人の部屋だから荷物をどけたり出来ないしね。掃除をした後はお風呂に入ってゆっくりする。お風呂も久し振りだなぁ。もっと広まるといいんだけど……。
そして翌日、準備万端で朝ご飯を食べた私は食堂でディースさんを待っていた。
「ねぇ、おねえちゃん。ずっと待ってるけど待ち合わせっていつなの?」
「それはもちろん……あれ?」
そういえば昨日って時間を決めたっけな。ジュールさんは明日の十時だったけど、ディースさんとは時間を決めてないような……。
「もしかして、おねえちゃん」
「いや、そんなことないって! ちゃんと待ち合わせてるから!」
「すみません。アスカちゃんいますか?」
その時、ドアを開けてやって来たのはディースさんだった。
「ディースさん来てくれたんですね」
「ええ、もしかして早すぎたかしら?」
「いいえ、時間通りですよ。さあ、部屋にどうぞ」
エレンちゃんの本当に待ち合わせしてたのかなという視線を無視して、部屋に案内する。
「お邪魔するわ」
「どうぞ。椅子が一つだけですから、遠慮なく座ってください」
自分はベッドに腰掛けてディースさんには椅子に座ってもらう。
「それで従魔の件なんだけど、どうしたらいい?」
「その件なんですけど……」
私はとりあえず、現在決まっていることを話す。
「飼う場所ね。私もここでって思っていたから。そうよね、他にもいるわけだし難しいわよね」
「なので、孤児院と宿で定期的に住処を交代するようにお願いします。後は掃除と無害アピールできる出し物ですね。あんまり素早い動きとか出来そうにないので何かありませんか?」
「う~ん、あの子たちが何を出来るかよく分からないし、一度見てみたいわ」
「それもそうですね。裏庭に行きましょう」
二人でサンダーバードたちの生態観察をするため、仮住居になっている裏庭へと向かう。
《リィ リィ》
「は~い、いい子にしてた? ご飯は貰ったの?」
《リィ》
私に返事をするとともに、ディースさんを見てちょっと下がる。見たことのない人相手だと、やっぱり警戒するようだ。
「大丈夫かしら?」
「初めて見る人だからですよ。慣れてきたら結構、人懐っこいですよ」
「そうなの? じゃあ、これからよろしくね」
ディースさんが挨拶すると、不思議な顔をしてその場にとどまるサンダーバードたち。あまり人の相手をしてないからまだよく分かっていないみたいだ。
「みんな、この人はディースさんっていって、みんながこれからお世話になる人だよ~」
《リィ》
私がそういうと、大人たちがちょっとずつ近づいていく。本当に子どもを大切にする種族なんだな。
「眩しいわね」
親たちは魔法で光りながらディースさんの周囲ををぐるぐる回り、敵意がないか調べているようだ。
「本当に光の魔法を使うのね」
「そうなんです。そのおかげか分かりませんけど、あんまり臭いもしなくて。もしかして、こうやって気配を消しているのかもしれませんね」
「浄化は聖魔法だと思っていたけど、下位の光属性でも使えるのかしら?」
「たぶん光で殺菌してるんだと思います」
その時、急にサンダーバードたちが暴れだした。
「み、みんな、どうしたの?」
さっきまでは大人しかったのに、ディースさんとも距離を取り出す。
「わ、私何かした?」
おろおろするディースさんの前にティタが立つ。
「ひかりは、かいじゃない。サンダーバードのかみさまのちから」
人間の中では聖属性の下位が光属性になってるけど、ひょっとして魔物たちはそうでないことを正しく認識してるのかも。まあ、人間の方は文化的問題だしね。
「どういうこと? アスカちゃん分かる?」
「あ~、えっと……そう! ティタから聞いたんですけど、昔は光属性と聖属性は全く別の属性だったらしいんです。それが、人の中で同一視されたけど、魔物たちには関係ないので怒ってるんだと思います」
「そ、そうなの?」
「べつの、ぞくせいなのは、ほんと」
ティタ、要らないこと言わないでよ。そこは気を利かせるところだよ。でも、ディースさんにしてみればこれまで聖属性の下位だと思っていた光属性が、実は別の属性だったという衝撃で気に留めなかったみたいだ。
「そういえば、聖属性の子は癒しが得意だったけど、光属性の子は苦手だったわね。下位属性だから使えないのかと思っていたけれど、元々別の属性なら難易度も別物よね。ごめんなさい、私の知識不足だったわ」
ぺこりと頭を下げると、サンダーバードの一家がまぁまぁという感じで、ディースさんに近寄る。
「怒ってない?」
《リィ》
「そういえば、神様って言ってたけどどういうこと?」
「サンダーバード、むかしはむらのにんげんと、おなじかみさまをまつってた」
「じゃあ、あの祭壇は村の人とサンダーバードで共有してたってこと?」
「そうみたい。でも、むらのひと、こなくなった」
村自体がなくなってたしね。
《リィ》
そんなことを話していると、サンダーバードが久し振りに儀式をしたいと言ってきた。
「やり方が分かるの?」
「わかるみたい」
「へぇ~、数百年前の儀式ね。面白そう、私も見せて」
何やらディースさんはノリノリだ。案外、魔物の研究者以外にも考古学者とか向いてるのかも。




