アヒル一家
依頼を終え、宿に戻ると早速のお出迎えだ。
《リィ リィ》
どうやら受付のところで一時間ほど前から待っていたらしく、すぐにこっちに駆け寄ってきた。
「みんなどうしたの。お部屋飽きちゃった?」
朝もテントの中や部屋の中をうろうろしていたから、時間がつぶせると思ったのに興味は尽きたらしい。それにしても七羽のサンダーバードがひょこひょこついてくるのはかわいいけど……。
「何だかアヒルの行進みたいだ」
部屋の前にいてドアを開けようとすると、サンダーバードたちもピタッと止まる。ドアを開けて中に入ると、てててとまた進む。
「ふふっ、何だかお母さんになった気分かも。食事まではちょっと早いし、おやつでもあげようかな」
私は持っていたドライフルーツを出して、少量の水に溶いて戻す。
「さあ、ご飯までのおやつだよ。お食べ~」
《リィ リィ リィ》
子どもたちからパタタとおやつに近づいて食べていく。本当に仲のいい家族たちだ。二家族だというのに争う気配もないし、これなら宿に帰っても大丈夫だろう。
「後は飼う場所だよね。小屋といっても、リンネとソニアの家もあるしあれ以上は置けないよね。どこかにいい場所があるといいんだけど……」
一番いいのは、野菜の切れ端の出る宿なんだけど、スペースの問題もあるしどうにかならないかな。何とか知恵を出して飼えるようにしてあげないとね。サンダーバードの住処を考えながら、おやつを食べた子から撫でてやる。
「う~ん。簡単な遊具とかあった方がいいよね。ちょっとテントに入っててね」
《リィ》
テントに一羽ずつ入れていく。そしてみんなが入ったことを確認すると、オーク材を取り出して早速遊具を作っていく。
「ミネルたちと違って重量があるからあんまり木を削らないようにしないと……」
ミネルたちのは細い棒状のものを簡単に組み合わせる形だったけど、今回はそれなりの厚みを持った棒を作る。まずは掴まれる棒の遊具からだ。せっかく、七羽もいるんだからちょっと長めの棒を使って色々な角度で掴まれるようにする。
「これなら何羽も一緒に止まれるし、色々な角度から見られるよね」
後はロープを使ったやつとかだろうけど、羽に引っかかっても大変だし、ちょっと様子を見てからかな? テントには元々ランタンや道具がかけられるようにフックが付いているので、そこに止まり木をかけてやる。
「はい、気に入るといいけど……」
《リィ》
早速、新しいおもちゃを発見したとすぐに掴まる。でも、適当な角度で掴まるのでちょっと傾いてしまった。親鳥が場所をずらしたりして、安定させようとするけど、子どもたちは今だと場所を変えて、アンバランスな状態を楽しんでいる。
掴まっているという安心感と、普段と違う角度に興味津々のようだ。でも、さすがに揺れがきつくなってぽとりと一羽が落ちる。
「大丈夫?」
《リィ~》
落ちたのも楽しかったらしく、再び揺らしに戻る。うう~ん、これは余計なものを作ったかなぁ。背の低い木と草ぐらいしかない土地だったし、どうやら何にでも興味を持ってしまうようだ。
「君たち、誰にでもついてっちゃだめだよ」
《リィ!》
いい返事だけど、今一つ信用は出来ないな。せめて、リンネたちが一緒にいられるといいんだけど。そんなことを想いつつ、夕食の時間までゆっくり過ごした。
「アスカ、帰ってるかい?」
「ジャネットさん、お帰りなさい」
「ああ。飯食いに行くよ」
「は~い。それじゃ、お土産買ってくるから大人しくしててね。ティタ、お願いね」
「はい」
ティタに夕食の魔石を渡して、みんなを頼む。今日はいつもの店なのでリンネたちの食事は持ち帰りを頼むのだ。残念ながら従魔同伴の食堂はかなり少ない。というのも従魔自体の種類が多すぎて、何でも可に出来ないのだ。
ウルフはOKでキャットはNG。ゴーレムなどの無機系はOKなど様々な条件に対応しなくてはいけないので、禁止にすることで対応を簡略化しているのだ。こればっかりは料金に返って来ちゃうから仕方ない。
「宿も従魔可だけど食事は部屋でだもんね」
ミネルなどの小鳥はお目こぼしでしかない。躾も出来ているし、幸運を呼ぶ鳥だとかシェルレーネ教の鳥だとか理由があって見て見ぬふりをしてくれているだけなのだ。何より元は魔物。この意識がある限り一般人には難しいところだろう。
「どうしたんだい?」
「リンネたちお腹空いただろうなって」
「まっ、これが終わったらうまいの持って帰ってやればいいさ」
「そうですね」
ロールキャベツを前に私は食事へ向き直る。今回はデミグラスソースで煮込んだタイプだ。これ自体も美味しいんだけど、一緒に入っている野菜も煮込まれていてとっても満足だ。ライギルさんもそうだけど、ここの人も色々アレンジしてくれてとても気に入っている。
それに量も選べるから私にはぴったりだ。私は二つだけだけど、ノヴァやジャネットさんは四つにしている。こうやって色々な人に適切な量が選べるところもいい。
「ごちそうさまでした」
「いつもありがとうございます。こちらがお持ち帰りの分です」
「あんがとよ。持ち帰りなんてやってないのに悪いな」
「いえ、いつも利用していただいておりますし、色々と料理のアイデアを頂いておりますので。ただ、あまり腕の振るいようがないのが残念ですが……」
「味の濃いものは駄目なので」
「分かっております。では、またのご利用を」
「はい」
従魔のご飯を持って宿へと帰る。後二日ほどはヴォードさんのパーティーも帰ってこないので、このまま町に足止めだ。せっかくだし、残りは細工でもして過ごそう。この子たちのグッズも作りたいしね。
ティタの時もそうだったけど、魔物でも身近に感じてもらえればそれなりに受け入れてもらえる。ただ、作るものは考えないと、リンネたちみたいなウルフ種を作ったら子どもが外に出た時にうっかりウルフに近づいちゃうし。
「ああ~、つついちゃだめだよ。友達じゃないんだから」
翌日、早速サンダーバードたちの木像を作ると、子どもたちがわらわらと集まってきて、つつき出したのだ。見た目は同じだけど、色も違えば匂いもないので何事かと調べ始めたみたいだ。
「ティタ、説明お願い」
「はい」
ティタに説明してもらい、何とか離すことが出来た。それでも、じっと離れて見つめている。
「う~ん、これだとあれは作れないだろうな」
私は昨日寝る前に考えていた細工をあきらめた。作ろうとしていたのはサンダーバードの羽を重ねたアクセサリーだ。内側に金属か鉱石をつけて羽が重なった時に、リィというサンダーバードの鳴き声に似た音を出すものを考えていたのだけど、それを作ってしまうとその音に惹かれてどっかに行ってしまいそうだ。
「良い案だと思ったのにな~」
風鈴みたいにいい音が鳴ると思ってたけど、さすがに没にするしかなさそうだ。
「もうちょっと落ち着いてくれたらね」
「アスカの口からそんなセリフが出るとはね」
「ジャネットさんは今日は出歩かないんですか?」
「別に依頼を受けるわけでもないし、街に出たってさほど何もないからね。下手に下りるとソニアに絡まれそうだし」
「ソニアにですか?」
「リンネと違って活発でね。誰かがついてないと外へ行けないのは分かってるから、連れてけってうるさいのさ」
「それで部屋から出ないんですね」
「せっかくの休みだ。ゆっくりしないとね。ふわぁ~」
そういうとジャネットさんはベッドに潜る。別にいいけど、ジャネットさんの部屋は隣なんだけどな……。
「こっちだとうるさくないですか?」
「これだけ音がしてると、寝なくていいんだよ。変な時間に寝てリズムを崩したくないからね」
さすがジャネットさんだ。自己管理が出来てるんだなぁ。私はどっちかというと休日と平日は結構時間ずれちゃうからな。そういうことなら私も気にせず細工を再開しよう。定番の羽飾りは作るとして、後は何が良いかなぁ。
「何も思い浮かばないな。せめて何か思い浮かばないか適当に荷物を出していくか……」
しょうがないので色々テーブルに並べていく。あ~でもない、こ~でもないと思いながら物を置いていくとふと目に留まるものがあった。採取用のナイフだ。
これなら作ったこともないし、採取用なら素人目の作りでもそこそこ切れるし飾り気があっていいだろう。
「ついでに魔石も使ってこれを今月の魔道具枠にしよう!」
ずっと作っていた親機と子機の魔道具も今月で終わりだし、新しいものを納品するのにちょうどいい。
「納品は二つだから、右利き用と左利き用に作ろう。ここだとウィンドウルフの魔石も安いし、早速明日買わないとな」
魔石をはめる台座を空けておけば後は作り置きもできる。つばから持ち手のところの飾りを翼にして尻尾が持ち手、頭が刃に来るようにする。つばの後ろ側はサンダーバードたちがご飯にしていた低木の柄にして、刃は片刃だ。
「これを誰が買うかなんていうのは考えないことにしよう」
魔石も使ってるし、魔道具なんだから最低でも金貨二枚はする。そこに最近余っていた銀を集めて作ったものだから金貨四枚ほどになるだろう。セットなら金貨八枚だ。
「まあ、気まぐれに誰か買ってくれるかもしれないし、セットで買うなら金貨七枚にしておこうかな?」
その分、飾りはきめ細かく作らないとね。翌日、ウィンドウルフの魔石を仕入れた私は魔法を付与した。今回は付与にも頑張って持ち手側には軽くなるように、刃の方には切れ味が良くなるように魔法を込めた。
「そうだ! 魔石の台座、反対側は使わなかったからはめ込めるように着脱式にしておこう」
貫通させるか手前だけにするかで悩んだけど、魔石のサイズを考えたら貫通させなくてよくなったので、反対側は何もしていない。でも、やっぱりそこだけ飾りっ気がないのでどうしようかと思っていたのだ。
魔石を入れるもよし、好きな宝石を入れるも良しという形にしておけば、ただの高額なナイフではなく興味を持ってくれるかもしれない。




