リンネの相手は?
翌日、今日はリンネのお嫁さん探しに出かけるので、とりあえずテントを片付けていた。
「ん~、いい朝だね」
「もう少し寝られたらもっと良かったけどね」
昨日は麓にいたガンドンの群れに夜襲をかけたブリンクベアーのせいで目が覚めたのだ。ブリンクベアーは夜行性じゃないのにと思っていたら、何日もエサを取れない時は時間に関係なくさまようようになるんだって。
「しっかし、なんでよりにもよってこっちに来るかな!」
「ノヴァの言う通りだよ。面倒だったね」
空腹でガンドンの群れに突っ込んだものの、所詮一体だ。大人のガンドンに行く手を遮られて、即追い払われたのだった。しかし、その後にこっちに来たのだ。こちらを見つけたというよりはたまたま逃げた先だったんだけど、おかげで無用な戦いとなってしまった。
とはいえ、すぐにリンネも動いてくれて戦闘そのものはすぐ終わったんだけど、その後の警戒で一時間は無駄にした。
「さあ、出発するとしますか」
その前に残飯を処理しないとね。と言っても食べ残しじゃなくて、ヘタとかの食べないところだけどね。昨日と一緒の場所に捨ててと……。
《リィ》
「あっ、また来たの。どうぞ」
昨日と一緒の場所にまたサンダーバードがやって来ていた。私は何ともなしに近くに投げると、そのまま戻った。
「んで、ギルドで聞いた話だとどの辺だっけ?」
「次の山の麓みたいですね。戦闘にならなければいいんですが」
リンネと同種のグレーンウルフはこの先の山の麓でよく目撃されるらしい。私たちはお嫁さん探しに行くので、戦いにならないようにだけして欲しいんだけどな。
《わっふ》
「まかせろ! だって」
「頼んだよ。リンネだけが頼りなんだから」
リンネを先頭に道を進んでいく。二時間ほど歩いて目的地に着くと、早速二頭のグレーンウルフがいた。
「どう話せる?」
《わぅ》
任せろとリンネが出て行く。その後、何度か話をしていると急にリンネが威嚇しだした。
「な、何っ!?」
「ふさわしいちから、あるかみてる」
腕試しってことか……びっくりさせないで欲しいよ。リンネが威嚇すると目の前にいた二頭はすぐに駆けていった。
《わぅ!》
「なんて言ってるの?」
「あんなんじゃ、はなしにならない」
種の生存本能かもしれないけど、リンネの基準は高いらしい。だけど、さっきの子たちも痩せてるってわけじゃなかったんだけどな。
「栄養状態とかも良さそうだったのに駄目なの?」
「あれは、わけてもらってるだけ。じぶんじゃとってない」
どうやらリンネの伴侶になるには狩りも出来ないと駄目らしい。後数日で見つかるかな? その後も周辺を捜すものの、最初と一緒でリンネが威嚇すると即座に逃げてしまう。そういえばリンネって出会った時も集団と戦ってたし、強いんだった。
《わぅ》
《キャン》
ちょっと小さいウルフは親らしき影に隠れるか、すぐに逃げてしまう。さっきから全くつかまらないし、これはこの周辺じゃダメかも。
《キャンキャン》
そう思っていたら何だか辺りが騒がしくなった。何かあったのかと私たちも向かう。
「あれってソニックウルフですよね」
「ああ、獲物を捕らえたみたいだね」
ソニックウルフの下には小さな鹿らしき動物が、そしてその向かいには三頭のグレーンウルフだ。狩りに夢中でこっちにまで来てしまったのかな?
《グルルルル》
当然、向こうは獲物をとられまいと威嚇する。対するグレーンウルフは三頭いるものの、やや引いている。そこに颯爽とリンネが現れた。
「リンネ、今こそ力の見せ所だよ! 相手を追い払って」
一歩、また一歩と距離を詰めるリンネ。引き気味だった三頭もジリジリと近づいて行く。
「ようし、この中にメスがいれば大丈夫だろう」
そんな期待もつかの間、リンネが跳ぶとソニックウルフの横に行って、逆に三頭を威嚇し始めた。
《わぅ!》
「な、何してるのリンネ。そっちじゃないよ」
しかし、威嚇をやめないリンネによって、たちまち三頭は逃げていった。確かに一対三だったけどさ、それでいいの? せっかくのチャンスだったのに……。
《ワォン》
ソニックウルフも何でそんなことしたのかと、リンネを見ているようだ。でも、リンネが何度か話すと大人しくご飯を食べ始めた。
《わぅわぅ》
その間もお構いなしにリンネは話しかける。鬱陶しそうにしながらも、ソニックウルフは話を聞いてあげてるみたいだ。
「ティタ、リンネはなんて?」
「それより、もっとおいしいもの、たべられるところしってるって」
「もしかしなくても宿のことだよね。お食事処じゃないんだけどな」
《ワォン 》
「あっちの子はなんて?」
「じゃあ、なにかみせてみろって。あっ、ほしにくがほしいってリンネが」
まあ、仲良くなることはいいことだし、リンネ用に持ってきてるのなら良いか。そう思って、バッグから干し肉を出してリンネに投げる。ひょいっと口で咥えたリンネはそれをソニックウルフの前に置く。
《ワォン》
《わぅ》
「今度はなんて?」
「こんなおいしいもの、でるのかって。リンネはあいつにいえば、かんたんにくれるって」
ほほう。この子はともかく、しばらくリンネにはお預けだな。その後も話は進んでいき、結局この子もついてくることになった。
「リンネはお嫁さんよかったの? そりゃ友達ができたの嬉しいけどさ」
《わぅ》
「このこはめすだって」
「えっ!? もしかしてさっきのナンパだったの?」
「やるねぇ。食べ物で釣るなんて。リンネはどこが気に入ったんだい?」
《わぅ》
「ゆうかんで、りりしいところ」
まあ、これまでもみんな逃げちゃってたし、そうだよね。
「リンネ、町では暴れないようにしっかりリードするんだよ!」
《わう 》
良い返事だ。すると、ソニックウルフの子がこっちに来る。
「従魔になっちゃうけど良いの?」
《アォン》
どうぞと良い返事だ。よく見るとこの子、行きにブリンクベアーと一緒に出てきた子じゃないのかな? 実はリンネのことが気になってたのかな?
「じゃあ、契約するね」
パァッと光が差し込み、従魔契約が終わる。
「今度町でリンネとお揃いの、印付けてあげるからね」
《わふっ》
元気よく返事をする……。名前考えてあげないとね。
「アスカ、あたしたちは別に良いけど、呼び名とかどうするんだい?」
「私も今、考えてました。どうしようかな~」
迷った後にソニックウルフだからソニアと名付けた。
「これからよろしくね、ソニア」
《わふっ》
「んで、これからどうするんだ? もう全部用事終わっちまったけど」
「そうだね。目的は果たしたし、草原にいつまでもいるのもねぇ」
みんなで話し合って、昨日の場所で今日は休んだら明日の早朝にレディトへ戻ることにした。
「さあ、ご飯だけどリュート。どれくらい新鮮なやつ残ってる?」
「後、二回分ぐらいかな? もっといるつもりだったし」
「なら、新しい仲間も増えたしいっぱい使おう!」
「了解。じゃあスープは素を追加できるようにして、薄目にしておくね」
「私はお湯の用意と薪持ってくる」
「もうほとんどないだろ? 一緒に下まで行くぜ」
「本当に? ノヴァお願い」
「どうせ後はテントだけだし、余裕あるからな」
こうしてご飯の準備を分担して、夕食になった。
「リンネもソニアもどうぞ」
今日は二頭が主役なので、最初にご飯を配る。スープと野菜とお肉だ。
《わぅ》
《わふっ》
お皿を置くとすぐに食べ始めた。いい食べっぷりでこっちまで嬉しくなってくる。
「それじゃ、私たちも。いただきます」
「いただき!」
早速フライング気味にノヴァがスープに手をつける。
「味うっす!」
「こら、リンネたちのために味付けは薄いって言ったでしょ。ちゃんと聞いてた?」
「あっ、そ~言えば……」
「ノヴァったら」
こうしてこの日は、町の外とは思えないのどかな時間を過ごした。
「ああ~よく寝た。昨日は襲撃もなかったし、いい出発日和だ」
何せ、町までは結構距離がある。いくら早い時間に出発しても体力が続かなくては、日没までに到着できないのだ。
「リュートご飯は?」
「もうちょっとだけ待って。足が出そうなものを使い切りたいから」
「は~い」
こうして出来上がった朝食を食べて、出発だ。生ごみはいつものようにと……。
「さあ、出発だ!」
「結局何もなかったけど、レディトに戻るとするか」
私たちは準備を終えて、町へと進みだした。
《リィ》
「なあ、あいつら付いて来てないか?」
「まさか、ちょっと見かけたからお別れの挨拶だよきっと」
歩き始めてすぐ、私たちの後をサンダーバードたちがついてきた。最初はお別れの見送りかとも思ったけど、ずっとついてきてくれてるんだよね。
「その会話、一時間前にも聞いたけどね。山も下りたし流石に違うんじゃない?」
「ねぇ、アスカ。餌付けとかしてないよね?」
「そんなことするわけないじゃない。ただ、いらない野菜は一緒のところに捨ててたけど……」
そういうと、みんな黙ってしまった。んん、何かおかしなこと言ったっけ?
「今までの経験からして、ろくなことにならないと思うんだけど……」
「僕もジャネットさんと同意見です。このまま見て見ぬ振りが良いと思います」
「でも、町まで来たらどうすんだよ?」
「来ないことを祈ろう。さあ、進むよ」
「あっ、ちょっと待ってくださいよ。ペース早いですって」
「町までは距離があるんだから頑張んな」
《わぅ》
リンネたちも平然と付いて行く。この野生児どもめ。そんな悪態をつきながらも魔法も駆使して頑張ってみんなに付いて行く。それから二時間経っても、四時間経ってもサンダーバードたちは付いてきた。そう……たちなのだ。なんと、二家族七羽が付いて来ている。
魔力にして300×4+200×300=1800だ。半分と考えても900~1000。とてもではないけど、従魔にはできないな。休憩場所で休んでる最中にこれではいけないと最後の手段に出る。
「ほら、これが最後のご飯だよ。元気でね~」
私はドライフルーツをばっと彼らの方にまいたのだった。
「あっ、バカッ! もうちょっとだったのに」
「アスカって……」
《わふっ》
最後のご飯を機に別れるつもりだったのに、その後から割と近くに来るようになってしまった。何が駄目だったんだろ?
ぎりぎり日が落ちるまでにレディトには着いたけど、あの子たちはどうしようか?




