パーティーメンバーの試験官
「では……始めっ!」
Cランクの昇格試験開始だ。ちゃんとCランクになれるようにリュートの実力を見てもらわないとね。
「まずは距離を取ってと……うわっ!」
下がったところに長く伸びた槍が来る。
「う、ウィンド!」
慌てて風魔法で位置をずらす。
「痛っ! ほほがちょっと切れちゃった。出だしを狙うなんてやるねリュート」
「アスカには不意打ちじゃないと敵いそうにないからね」
「じゃあ、もう降参かな?」
「言うね、アスカ」
「行くよ!」
私はマジックバッグから弓を取り出して矢を連続で射る。もちろん当たらないように調節している。当てたくないからではなくて、相手に飛び込んできてもらうために。
「そんな牽制の軌道じゃ!」
当たらないと思ってリュートが突っ込んでくる。よしっ! 私は何時でも弓を持ち替えられる体勢だ。
「はぁっ!」
「それっ!」
「えっ!?」
槍を突き出してくるリュートの動きを見て、魔法で補助しながら素早く弓をつかみ直して振り下ろす。新しくハイロックリザードの牙で作った弓は切ることも出来るのだ。だけど、戦闘訓練じゃまだ試したことなかったもんね。
「う、わっ!」
不意を突く形になったけど、さすがはリュートだ。身をよじって左腕にちょっと傷がついただけだ。でも、さっきの攻撃で詰まっていた距離が開いた。
「今度はこっちからだよ。ウィンドカッター!」
「こっちもウィンドカッター!」
ウィンドカッターの応酬だ。でも、私は風だけじゃないもんね。
「ファイアボール!」
大きめの火球を作ってリュートに放つ。もちろん仕掛けもするつもりだ。
「くっ、何とか避けないと」
火球の大きさを見て回避しようとするリュート。
「予想通り! ウィンドボール」
私はすぐに目の前の火球に向かって、風の球をぶつける。ぶつけた瞬間に弾けさせ、その衝撃で火球をバラバラにする。もちろん、バラバラになった火の粉はリュートの方へと降り注ぐ。
「う、ウィンド」
たまらず火の粉を防ぐために風魔法でバリアを作るリュート。だけど、その所為で片腕が使えない。
「せぇの!」
その隙を逃さず、私は弓を構えて矢を放つ。三矢目がリュートの服を貫通して壁に刺さり、槍を持っていた腕が壁に固定された。
「さあ、どうする?」
「降参だよ……」
すぐに駆け寄った私はリュートに降参を促した。まあ、さすがにここからの逆転は無理だもんね。本当なら私の弓は服じゃなくて腕を刺してるはずだし。それが分かったみたいで、リュートも降参してくれた。
「良かった、降参してくれて。じゃないとこの距離から魔法を撃たないと駄目だったよ」
「アスカ、冗談だよね?」
「リュートならここから逆転できないのは分かると思ったからね」
「そっちじゃねぇよ……」
私の言葉に思わず見学していたノヴァが呟く。
「薬草売ってるアスカちゃんは擬態だったんだな……」
「最後の三矢目が身体すれすれだったんだけど、あれアンタ真似できる?」
「ま、魔物相手なら。人間相手はちょっと……」
「あっちのガキも動きはよかったのにな」
「というかCランクでも中堅ぐらいじゃないか? それに魔槍だろあれ。あれだけ自在に使えてんのに、傷一つがやっとなのかよ」
「とりあえず、傷治しとくね。エリアヒール」
私もリュートもちょっと怪我しちゃったから、一応治しておく。これぐらいならほっといても治るけど、一応私も女の子だしね。
「お姉さま、回復魔法も使えるんですね。さすがです!」
「そ、そう? ありがとう」
「アスカちゃんのパーティーってランクどうだっけ?」
「Dランクよ確か」
「お前んとこ勝てるか?」
「うちはDランクだぞ。あそこにもう一人とジャネットさんだろ? 一分持つかな……」
「うちもCランクだが、ガキの方を完璧に抑えるのに二人は要るな」
「アスカちゃんは?」
「特攻覚悟だ。多分弾かれると思うが」
「逆ランク詐欺だな」
「ハイロックリザード討伐の時は運悪く現地にいると思ってたが、あれなら招集対象だったな」
「次はあっちの剣士だな」
みんなが結構がやがや言ってるけど、大丈夫かな? 私、変なことしてないよね?
「アスカ、リュート! お前らのせいで俺がやりにくいんだけど……」
「ごめんノヴァ。僕も熱くなっちゃって……」
「いや、まあいっつもあんな感じだから、そうなんだと思ったけどな。やりづらいぜ」
「ほら、次はノヴァの番だよ!」
ぶんぶんと腕を振って、ノヴァに私は合図する。
「アスカはもういつもの訓練だと思ってるよな」
「頑張ってね。人がいるのもあるけど、すごくやりにくいよ」
「見てりゃ分かる。しかも、こっちだけだもんな」
「ほら~、早く」
「向こうは一切意識してないみたいだからね」
「いいよなリーダーは気楽で」
「ノヴァ、こっちにこい。試験始めるぞ」
「おー」
「それじゃ、試験始めっ!」
棒読みのノヴァのセリフの後にジュールさんの合図で試験開始だ。再び私は距離を……取らずにその場で弓を構えて矢を射る。このために今回は弓を持ったまま開始したんだもんね。
「うわっ! 何だよそれ!」
「弓は近距離でも使えるんだよ」
「ま、待てっ! おおっ」
続けて二矢、三矢と射る。体勢を崩されたノヴァはこのまま終わりかなぁ。
「どんどん行くよ~!」
「ええぃ!」
ん? さっき、剣持ってない方から金属音がしたんだけど、気のせいかな?
「ちょ、はやっ!」
やっぱり、剣を持ってない方から音がする。何だろう? ちょっとだけ勢いを緩めて、ノヴァの左手を見る。あれはナイフ!?
「手数が足りないから、それで補ってたんだね。それなら!」
少しスピードを上げて射る。狙いはもちろん左手のナイフだ。あれを落とせば終わりかな?
少し高い音と共にナイフが手からこぼれる。
「よしっ! ……ひゃっ!?」
ナイフが落ちて狙おうとした矢先に、何かが飛んできた。慌てて回避する。
「危ね~。やられるとこだったぜ。そうそうアスカ。これ投擲用のナイフだから、数は揃ってるぜ」
「くぅ~」
てっきり、剣がなくなった時に使う予備の装備だと思っていたもう一本のナイフは投擲用らしい。惜しげもなく投げてきたし、きっとまだ何処かに何本か持っているんだろう。
「これじゃ、また落としても意味ないな。どうしようか?」
むしろ落とすのに神経を使う分、こっちが不利だ。
「お姉さま~、さっさと魔法でやっつけて下さいませ~」
「はぁ!? いらね~こと言うな!」
そうだ! 別に私は弓使いでもないし、弓が駄目なら魔法で戦おう。とりあえず離れてと……。
「げっ! させるか!」
ノヴァが距離を取ろうとする私にナイフを投げつける。だけど、魔法も付与されてないただのナイフなんて効きはしない。私はグローブで弾くと、距離を取って魔法を放つ。
「ファイアボール!」
やや小ぶりな火球を三つ作り出して一気に放つ。ノヴァは魔力も低いし、これで体勢が崩れるだろう。
「避けれねぇ! ええ~い、エンチャント!!」
命中すると思った火球にノヴァが何か叫ぶ。何するつもりなんだろ? すると命中する寸前に、火球がノヴァの剣に移っていく。
「な、何?」
「よっしゃ、なんだか分からないけどいくぜ!」
ノヴァが剣を振るうと剣先から炎が吹き出し、こっちに向かってくる。
「ちょっ、ストップ! ファイアウォール!!」
慌てて炎の壁で炎を防ぐ。
「あ~、ビックリした! ノヴァ、今の何なの?」
「この前買った本に載ってたんだよ。剣に属性付与できる魔法だってよ! 成功したのは初めてだけどな」
「ぐぬぬ。まさかそんな隠し玉があるなんて……」
「へへ~ん、俺だって色々考えてんだぞ」
むぅ~、ノヴァに一本取られたみたいで悔しい~! こうなったらやり返してやるんだから!
私は弓を取り出して、矢をつがえて魔法を使う。
「ファイアボール、エンチャント!」
「はっ! そんな簡単にできっこ……嘘だろ!?」
どうだ見たか! 魔法なら私にも出来るもんね。
「せ~の、ファイアアロー!」
私は火を付与した矢をノヴァに放ちつつ、そのまま突進する。
「わっ、ええぃ!」
ノヴァは矢に集中して、何とか剣で弾く。
「今だ! フレイムカッター、エンチャント!」
私は炎の剣を作り出すと、それをそのまま弓に付与する。そして、燃え盛る弓を剣のようにして振り下ろす。
「た、タンマ! 降参だ!」
「そこまで!」
ノヴァの降参の言葉と共に、ジュールさんが試験を止める。私も魔法を解いて、弓を元の位置に戻す。そういえばこれ試験だったっけ。
「そこまでだ。二人とも対人戦の試験は終了だ。次は実地試験だ。案内してやれ」
試験が終わったので、次の試験へとすぐに二人とも連れていかれた。頑張ってね!
「おい、付与魔法って相手の奴も出来んのか?」
「さあ? したことないし。失敗したら滅茶苦茶危険だからやったことないわ」
「でも、考えてみりゃ、魔法使いが作って付与するんだからおかしくはないよな?」
「今日ギルドで油売っててよかったぜ!」
「でも、広めちゃ駄目よ」
「分かってるって。こんなありがたい情報、くれてやるかよ」
何だかギャラリー席が賑わってるんだけど。
「お姉さま、すごいですわ! 付与魔法も覚えていましたのね!」
「えと……今初めてみて使ったんだけど」
「まあ、実践の中で初見で使えるなんてさすがです!」
ミディちゃんは誉めてくれるけど、良いのかなぁ。本代とか。
「アスカ、お前なぁ。サービスしすぎだぞ。もうちょっと手のうちを隠してもいいんだぞ?」
「でも、試験って強さを見るんですよね?」
「あくまで昇格試験に挑む冒険者のだ。お前はそこそこでいい」
「でも、私の時もあんな感じでしたよ?」
「あ~、アスカの相手はマディーナだったな。なら仕方ない。なんにせよ何もなくてよかった。また今度機会があったら頼む」
「そうそうないと思いますけどね」
「アスカお姉さま。昇格祝いに何か食べませんか?」
「えっ、私は別に何もないけど……」
「いい場所知ってるんです」
「ほ、本当! 行く行く。でも、ミディちゃんって何歳?」
「私ですか? 十六歳です」
「なら、私は十四歳だから年下だよ」
「お姉さまはその年齢でその実力なんですね。さすがです」
その後、冒険者歴は私の方が長いというよく分からない理由で、お姉さま呼びは変わらなかった。ちなみに、案内された先はフィアルさんのお店で、なぜだか私が奢られてしまった。




