番外編 アラシェルと転生者
ケースその二 剣王
「おっ! 今度の子は剣王になったんだね。出世したんだね~」
「ちなみにこの子の願いは?」
「かっこよくなりたいだったね。前世は容姿を気にしてたみたい」
「何で剣王に?」
「だって、剣振ってる姿ってかっこいいよね! その子の世界でもみんなのあこがれの的だったよ!」
「そうかい。後、隣に別名殺戮卿って書いてあるんだけど……。何なら、この子アタシの元加護持ちだね」
「そうだったんだ。グリディアも知ってたなんてね。でも、なんで元なの?」
「狂戦士に加護はさすがにねぇ。一応どうなったかは知ってるけど、見てみようか」
「はぅ」
「読むよ」
✣ ✣ ✣
「僕は確かにかっこ良くってお願いしたんだけど、なぜか剣を振るうだけでかまいたちが出せる子どもになっていた。ひょっとして女神様のかっこよさは剣の腕なのだろうか?」
「僕は何時まで剣を振るうのだろう……。魔物も人も斬り飽きた。王命と言えど、果たしてこれは僕の望んだことだろうか? 貴族に生まれて人を斬ることが尊いのだろうか……」
「よもや、私が敗れるとは……。そなた、名は?」
「……にございます」
「懐かしい名だ。我が息子と同じ……お前はまさか!?」
「はい。父上にもようやく剣を納める日が来て、天上の母上もきっと喜んでおります」
「存分に恨まれておるだろうな」
「いえ。父上がどれほど国や私たちを守ろうとしたか母上は知っておられます。それゆえに心がむしばまれたことも……」
「であれば、あちらに行くのも楽しみなものだ。しかし、息子にやられるとは。嬉しい限りだ、よく父を超えた」
「父上も歳を取られました。以前のあなたなら私では敵わなかったでしょう」
「ふっ。お前がここまで成長したのだしな。本当に……大きくな……った。これほどの、む……すこになるとは……。女神に……感……謝を」
「ち、父上ーーーーっ!」
「……。」
✣ ✣ ✣
「ほ、ほら~、か、感謝されてますよ。私」
「そうかねぇ~。百歩譲ってもプラマイゼロだろ」
「ゼロなら大丈夫ですよ。最後に息子の手の中で死ねたんですよ」
「戦死だし、息子の手にかかってだけどね。息子も幼少期は殺戮卿の息子っていじめられてたし」
「でも、立派に成長してました!」
「本人の努力でね。普通の人生のやつはいないもんかね」
「じゃあ、次はこの人だね」
ケースその三 国王→村人
「おおっ! こういうのでいいんだよ」
「それじゃ、読むよ~」
✣ ✣ ✣
「私は一国の王だった。生前は賢王などと呼ばれ敬われたものだ。国を繁栄させたし、子にも恵まれた。転生と言っても特に思い残したことはない。唯一、気になることがあるとすれば、民衆の生活を見ることが叶わなかっただけだ。王たるもの、視察ともなれば予定を組み根回しされる。皆は手を振って歓迎してくれたが、本当のところはどうだったのか。無辜の民として一度暮らしたい」
「分かりました。貴方には民として生きられるようにしましょう」
こうして女神様のお力で私はある地方の村に村人として転生した。しかし、こちらの世界はすごいのだな。全属性の魔力を持ち、あまたのスキルを村人が持つとは。
「アラシェルなんかおかしくないか? ただの村人だぞ? 一般人だよ。なんでスキルがこんなについてんだ?」
「彼は元国王だよ。村人になりたいっていうのはね、その国の治政がどうなっているか確かめるためなの。そして、その暴政を見た彼はきっと立ち上がるんだろうなぁ。わくわく」
「わくわくすんな! まさか、転生先も……」
「嫌だなぁ。ちゃんとランダムに選んでるよ」
「そっか、それはよかった」
「候補地の中からね。いくら彼でも、身体は一つだからね!」
「よくねぇ~! 最初から働かす気じゃないか」
「グリディア、彼は仕事人間なんだよ。ちょっと、田畑を耕して休日はボケーッとするなんて合わないよ」
「合う合わないじゃなくて、転生したんだからきちんと切り替えるだろそこは」
「まあまあ、彼の一生を見てみようよ」
「はぁ……」
十歳になった。どうやら全属性は異常らしい。今では村人から一歩引かれてしまった。容姿も整っていて、到底村人には見られない。
「フェゼル様。この度の豊作ありがとうございます」
「やめてください、長老様。田畑を耕す他に簡単な治水を行っただけです」
「あれだけの堤防を作ってくださるのも、フェゼル様を置いては他におりません。国に言ってもこの程度の村では無視されてしまいます」
「領主様はどうしたのですか? 事情は知っているはずでは?」
「この地方の領主は税をむしり取り、贅沢をすることにしか興味はありませぬ」
「なんと! それが貴族のやることか。選ばれたものには相応の責任があるのだ!」
「さすがはフェゼル様。貴方のようなものが我らの上におれば……」
「おじいさま。またフェゼルにそんなことを。彼はいくら優れていてもただの村人ですよ。私たちと変わりません」
「ベディ、何を言うか! これだけの力を持つものが我らと同じなどと……」
「いいえ。ベディの言う通りです。私に出来ることはささやかなことです」
二十年後
「「フェゼル王国ばんざ~い。国王陛下万歳!」」
「国が病んでいたとはいえ、私は王に相応しいだろうか? あまたの民を戦で失ったというのに……」
「あなた。貴方が立ち上がらなければ、多くの民はこの先数十年は苦しんだでしょう。亡くなった者たちもその未来を変えたかったからこそ、共に立ち上がったのです。胸を張りましょう」
「そうか……そうだな。彼らに恥じない国を作ろう!」
「その意気ですよ、国王陛下」
「すまないなベディ。君を正妃ではなく側妃として迎えることになって」
「仕方ありません。元はただの村人ですし、貴族たちを無視はできませんから。ですが、王妃様にはお優しくしてあげてくださいね」
「なぜだ? 彼女は貴族派の先兵だぞ?」
「だからです。いくら侯爵令嬢とはいえ、まだ十七歳ですよ。可哀そうに貴族の先兵としていつ殺されてしまうのかと、びくびくしておりました。実家から連れてくるものもきちんと見極めて、過ごしやすくさせてあげませんと」
「そうだったのか。てっきり暗殺の機会をうかがっているのかと思ったぞ」
「あなたみたいに人は何でもできませんわ。もう少し、常識も学んでくださいね」
「そういうベディは相変わらず人の心を読むことがうまいな。私も精進せねば」
「あら、陛下ったら。すべてのことを一人でおやりになるのはおやめください。それぞれ人には役割があるのです」
「そうだったな。いやはや、私も賢王と呼ばれていたが、まるでベディの方が賢王だな」
「まあ、口がうまいのですね」
こうして初代フェゼル王は正妃との間に長男・次女・次男を、側妃との間には長女と三女をもうけ、長きにわたる王国統治の礎を築いたのだった。正妃は側妃を姉と慕い、貴族たちのたくらみも打ち砕いての治世の始まりだった。
✣ ✣ ✣
「ほら見てこれ! 幸せいっぱいだよ」
「苦労もいっぱいで、もう村人じゃないけどな」
「スタートが村人ならいいの。順調にステップアップしていくサクセスストーリーだよ!」
「何段飛ばしだよ。村人からレジスタンスリーダーを経て国王だろ」
「そこはほら、その人が望んだことだし。どういう人生を歩むかは人それぞれだよ」
「始まりの段階で操作してたよな?」
「そこまで細かく生まれは聞かれなかったからね」
その後も数人確認したけれど、どれもこれも何かしらに秀でていて、歴史的出来事に加わっていた。ただ、不思議なことにそのいまわの際には、口をそろえて満足したと言っていることだ。
どうやら、行間を読むことはできたらしい。元の願いから結構違っているものもあるけれど、うまくまとまる辺り、優秀な女神なんだなと思う。
「ただ、もうちょっと希望を叶えてやった方がいいかもな。今度からちゃんと心も読んで、相応にしてやれよ」
「う~、分かった。本体にも伝えとく。でも、最近の子はすごいよね~。機械のないところにロボット作り上げたいとかさ。大魔王になりたいとか結構、そういうのが人気あるんだよね~。魔王は一人だっていったら、じゃあ魔神で! とかいうしさ。さすがに神様に勝手にするのはね。でも、希望なんだから叶えてあげた方がいいのかな?」
「ちょっと待て。あんまり世界に変化が起こらないように調整しよう。程々が一番だ」
何でこの神様は両極端に走るのかねぇ。全く、アスカが奇跡の産物に見えてきたよ。転生者としては程々の魔力に、努力して身につけた器用さ。たったの二属性の魔法とおかしなところは見当たらない。
これまでの内容なら、剣術LV8、全属性LV9ぐらいあっても変じゃない。現にあの王様は、指揮LV7に鑑定LV6でその上、士気向上や徳選というレアスキルまで持っていた。
「士気向上は歴史的に将軍職で持っているのはいるけど、徳選はねぇ……」
徳選とは自分の性格や理想に合った人物が集まりやすくなるというスキルだ。冒険者ならグループを、貴族や王なら統治にかなり向いている。また、士気向上は十人以上の集団の士気を高く保つというスキルで、こちらは冒険者にはあまり意味はないが、司令官なら喉から手が出るほど欲しいものだ。
「そりゃ、一介の指揮官ごときが敵う相手じゃないよね。そもそも剣術LV8って剣聖クラスだし」
単騎で千人の働きをし、高い指揮能力で集団を蹴散らす。相手にとっちゃ悪夢だね。
「何してんの二人ともさっきから」
「シェルレーネ! ちょっと自分の働きを確認してたの」
「何言ってんの。あなたまだ働いたことないでしょ。そういうことは私みたいに神託使ってから言いなさいよ」
「そうだね。一見仕事できないように見せかける、カムフラージュだもんね!」
「何を言ってるの? グリディア、あなたまた何か吹き込んだでしょう!」
「ア、アタシは何も言ってないよ。ただ、アンタの株が上がっただけだ」
「なんでそれで私がたしなめられてるの?」
「普段の行いかな?」
「じゃあ、私が色々出来るって思い知らせてあげるわ!」
「それじゃ、シェルレーネも一緒に書類作ろう? 持ってないんでしょ」
「そりゃ持ってないけど、私には必要ないもの」
「必要なくても駄目だよ。もし、シェルレーネが高位神になって、後を継ぐ人が必要になった時にその人が困るでしょ? ちゃんと考えておかないと」
「そ、そう? やっぱり私ってすごい神様なのよね! いいわよ、びっくりするぐらいいいものを作って見せるわ!」
「しょうがない。付き合ってやるか」
こうして二柱の書類作成を見比べて、シェルレーネに駄目出しをする三柱の中で一番格の高いグリディアだった。




