アスカの依頼
「ただいま帰りました~」
「あっ、おかえりおねえちゃん。長旅お疲れ様」
「ありがとう。ところでエレンちゃん。次のお休みっていつ?」
「わたし? 明後日だよ」
「本当? じゃあ、その日ちょっと付き合ってね」
「分かった。楽しみにしておくね!」
「うん。それじゃ、部屋に戻ってるから」
エレンちゃんに約束を取り付けて、私は部屋に戻る。
「みんなただいま~」
《チュン》
《チッ》
《ピッ》
部屋へ入るとレダたちが出迎えてくれる。いつもならここで私に飛びつくんだけど、ミネルは一直線にアルナのもとへ飛んで行く。
《チッ》
魔法で即、扉を閉めるとアルナを部屋の巣箱に押し込んでどうやら説教タイムのようだ。普段温厚なミネルが強い姿勢で臨むぐらい心配していたんだろうなぁ。途中ひょこっと顔を出すアルナだったけど、私はバツ印をして拒否した。
「心配されるうちが花だよアルナ」
知らない振りをして、後はお説教が終わるまでそっちを見ないようにする。しばらくすると、ご飯のお知らせにエレンちゃんがやって来たので、チャンスとばかりに部屋を出る。
「後でご飯持ってきてあげるからね~」
食事を終えて、ご飯を運んでくるとようやく話が終わったのか、巣箱から出てきた。
「お話は終わったの? それじゃ、ご飯だよ」
ライギルさんが旅から帰ってきた私へ少し豪華な食事を出してくれた。、急ながらアルナたちのご飯もちょっと豪華だったんだけど、アルナは野菜くずといういつもの食事で、いいところはエミールがすまなさそうに食べている。どうやら罰のようだ。
「まあ、今日は仕方ないよね」
下でちらっと聞いたんだけど、アルナがいなくなってしばらくミネルは落ち込んでて、食欲も少なくなってたんだけど、その内やけ食いを始めてちょっと太ったらしい。
「確かにちょっと真ん丸だね~」
《チッ》
聞こえていたのか、ミネルが外に出てきて私に抗議する。
「何?」
「すぐにアスカが、つれもどさなかったからだ、って」
「だってもう旅に出てたし……」
「しんぱいしてるの、わかってたのに」
そう言われるとミネルが心配してるのも分かってたし、それなりに魔法も使えるしって許可したのは悪いと思ってるよ。でも、まさかこっちに矛先が来るなんて……。
《ピィ 》
あっ、アルナが私も悪いって顔をのぞかせてる。もう~連れてってあげたのに。
「いいよ~。アルナは次はお留守番だからね」
《ピィ》
すかさず抗議するアルナだったけど、ミネルに振り向かれて部屋に戻っていった。おてんばなアルナには良い薬だ。そんな騒がしい夜もすぐに静かになった。何だかんだで帰ってきたのが嬉しいようで、ミネルは今日は一緒に寝るみたいだ。
「ふわぁ~」
翌日、久し振りの自分のベッドから起き上がると、スラムに向かう。杖の話をフィーナちゃんにするためだ。
「行ってきま~す」
「気を付けてね」
スラムに着くと、前に聞いた場所を元に寝床を探す。
「だれだ、ねえちゃん」
「えっと、フィーナちゃんはどこにいるかわかる?」
「ねえちゃんはおくだけど、なんのよう?」
この子が前にいってた小さい子かな? フィーナちゃんは大工の女将さんのところで普段働いてるんだけど、弟たちがいるからってあっちには住んでないみたいなんだ。
「フィーナちゃんに依頼があってきたんだけど……」
「いらい?」
「あっ、お願いごとって言うのかな」
「わかった。よんでくる」
ささっと奥に引っ込むと、狭い通路を通って消えていった。あそこ私じゃ通れないかも。
「ほら、早くしろよ」
「何?誰きてんの?」
「知らないよ。でも、どっかのおじょう」
「おじょう? ああ、アスカね」
お嬢から私に繋がるの? そんな雰囲気出してないと思うんだけど。とりあえず、出てきたフィーナちゃんに挨拶をする。
「わざわざ悪いな、来てもらって。で、何だお願いって?」
「実は前に売ってもらった木があるでしょ? それの大きめの枝が欲しいの。出来たら古い枝が良いんだけど……」
「何するんだ。古くて長い枝なんか」
「杖を作りたくって」
「つえ? アスカは足悪いのか?」
「そ、そっちの杖じゃなくて、冒険者が持ってる方ね」
「そういえばアスカは冒険者だったな。今はあたいもだけど。ほら見てみなよ」
そう言ってフィーナちゃんがギルドカードを見せてきた。あんまり見せるものでもないんだけどなぁ。どれどれっと。そんなこと言いつつも、ステータスが気になったのでカードを見てみる。
私も最初は大したことなかったけど、なんていうか弱い。身を守るので精一杯じゃないかと思う。
「あれ? 何でランクがFとEで二つもあるの?」
「ふふっ、気付いた? 実はあたいが薬草採ってたとこって、Fランクは立ち入り禁止のとこらしくて。ホルンって人に話したら、リンネがいる時はEランクとして行けるようにしてくれたんだぜ。これも珍しい薬草を採って来れるからだってよ」
あ~、確かに林とかってウルフが出たりするから、フィーナちゃんだけじゃ危険すぎるもんね。リンネがいればあの辺だと大丈夫ってことか。実際、オークとか出て来てもバッサリ斬り捨て御免だろうし。
「でもな~、ちょっと困ったことがあるんだよ。その木は持ってきてやるからさ、お願いがあるんだ」
「私に出来ることかは分からないけど、なに?」
「最近、リンネと一緒に薬草を採っててさ、割といい感じにお金がたまってきたんだよね。そこで思い切って家を借りようと思ったんだ。弟たちもいるしさ」
確かにさっきの子もまだ八歳ぐらいだし、家があると安心できるよね。スラム解消にも一歩前進だし。
「いい考えじゃない! 応援するよ」
「ほんとか! でもな~、あたいじゃ家が借りられなくってな」
「どうして?」
「ほら、ギルドで登録したから一応の身分証はあるけど、結構今まで街で色々やって来たからさ、信用できないって断られたんだよ。だからさ、今回の依頼はちょっとまけてやるから、代わりに家を借りてくんない?」
なるほど、フィーナちゃんはお金が出来て家を借りたいけど、良く事情を知らない人から見たら、どっかから盗んだり、臨時収入だから毎月は払えないと思われてるのかな。
「そういうことなら任せてよ。ちなみに家賃はいくらぐらいが良い?」
「う~ん。安けりゃ安いほどいいんだけど、銀貨二枚ぐらいまでで、出来たら三部屋以上欲しいな」
え~と、エステルさんの家が一か月銀貨三枚で二部屋とダイニングだったって言ってたよね。結構厳しい条件だなぁ。
「分かった。じゃあ、探してみるよ。でも、借主はちゃんとフィーナちゃんにしとくからね」
「だ、大丈夫かよ」
「任せて!」
そう言って、物件を探しにスラムを出る。何か忘れてる気もするけど、忘れるぐらいだから大丈夫だろう。先にギルドへ行ってフィーナちゃんへの指名の依頼を書かなきゃ。
「ホルンさん、こんにちは~」
「あら、アスカちゃんいらっしゃい。この時間にどうしたの?」
「指名依頼をしようと思って」
「あら、珍しいわね。また本なの?」
「今度は違うんです」
「じゃあ、とりあえず紙を渡すから分からないところがあったら聞いて頂戴」
「は~い!」
指名依頼の紙を受け取って、欄を埋めていく。
「まずは指定の冒険者名か、ここはフィーナちゃんと。次に依頼品だけどこれって書かなきゃ駄目かなぁ。ホルンさ~ん。ここって書かないといけませんか? 本人には話をしているんですけど」
「なら、依頼品は指名者説明済みと書いておいて」
「そんなんでいいんですか?」
「職員なら誰でも見られるから、あまり書かない方がいいわね。レアなものは特にね」
なるほど。確かにシェルオークなんて書いたら、フィーナちゃんも大変になりそうだ。次は依頼期限だ。
「これは二週間ぐらいかな? すぐに次の冒険ってわけにも行かないしね。その次が報酬か~。ん? 報酬って私、話してないや」
何か忘れてるって思ったけど、報酬について何も話してない。一応ここに書くけど、怒らないよねフィーナちゃん。
「え~と、報酬は金貨四枚で古ければ追加ありと」
一応フィーナちゃんには古い枝が欲しいって言ってるけど、シェルオーク側の事情もあるしね。古いと魔力が宿ってるから、プラス査定にしておこう。
「その書き方で分かるの?」
「大丈夫です。説明してますから」
後の欄も簡単に埋めていって完了だ。
「一応できましたけど、見てもらっていいですか?」
「ええ。と言っても書きながら見てたけどね」
「そういえば、ずっとここ占領してますけど大丈夫ですか?」
さっきからホルンさんのカウンターを独り占めしてしまっていることに気づいた。
「この時間にわざわざ完了報告上げに来るなんて、滅多にいないわよ。いてもどうせ別の受付に並ぶからいいわ」
「ここはちゃんと見てくれるいいところだと思いますけどね」
ホルンさんのところはほぼ全て鑑定されるから、厳しいって噂になってるけど、ランク分けの基準がきっちりしてて分かりやすいと思うんだけどな。BランクがCランクになることもないし、採取が楽になるのに。
他の人のところはいくつか鑑定してその状態を基に振り分けていくから、やっぱり多少ぶれがあるんだよね。
「ちなみに常連さんが最近増えたのよ。はい、書類は大丈夫だったわ。預かって本人が来た時に渡すわね」
「お願いします。常連って誰ですか?」
「フィーナちゃんよ」
「へ~、意外ですね。ホルンさんのところは終わるまでちょっと長いですよね」
フィーナちゃんは結構サバッとしてるから、もっと早く終わるところに行くと思ったのに。
「私のところは列が短くて利用しやすいんですって。それに全部見てくれるのが安心できるって言ってたわ」
そっか~。確か今までの商人には買い叩かれてたって言ってたし、きちんと一つずつ見てくれる人の方が安心するんだね。そうだ、時間があるならさっきのことも相談してみよう。
「ホルンさんちょっと良いですか?」
「何かしら?」
「実は……」
フィーナちゃんがお部屋探しをしていることを伝える。
「なるほどねぇ。確かにあそこの子たちは何かしらやってるから、すぐに信頼するのは難しいわね」
「そこを何とかできそうな人、知りませんか?」
「と言っても、ギルドで斡旋できるとしたら店舗になっちゃうし。宿とかなら出来るけど、お家はね……」
言われてみれば、ギルドが家を紹介するのってなんか違和感あるなぁ。でも、これは依頼を受けてもらうのに必要なことだから何とかしないと!




