名前は重要でした
精霊様に名前当てクイズを出された私は頑張って名前を考える。
「う~ん。泉の精霊だし水系の名前? でも、ご自分でそれ以外でも十分可能性があるって言われてたしなぁ」
頑張って何個かの名前を考えてみるものの、しっくりくる名前がない。そもそも、普通の名前なのか変わった名前なのかヒントもないし。
「何かヒントを下さい!」
「ヒント? そうだね、アスカの得意な属性は何かな?」
「私ですか? 私は火と風ですけど……」
「それじゃあ、風の名前かな?」
風の名前? てっきり、水に関連するものかと思ってたんだけど意外。それぐらいこの泉は水が綺麗だからね。もちろん景色も合わさってだけど。
「それじゃあ~、う~ん。ええと~」
何とか頭の中から風に関係するものをひねり出してみる。風だし何とかウィンドとかも考えてみたけど、ケノンブレスっていう例外的な名前もあるし、そんな感じじゃないよね。何より、風の精霊の名前が風って言うのも変な話だし。
「むむ~、決めました!」
「決まった? それじゃ発表お願い」
「はい! ズバリ、精霊様の名前はシルフィードです! どうですか?」
「なるほど、”シルフィード”ね。いい名前だわ。貴方の使える力も加わってることだし」
「ええ~、そうですか? 照れちゃいますね」
そう答えながら、わずかに違和感を感じる。何かMPがごっそり減ったような感覚だ。
「じゃあ、私の名前は今からシルフィードね。いい名前をありがとう、アスカ」
んん? 何か今、変な言葉が聞こえたような……。
「な、名前、本当に合ってたんですか?」
「合っていたというか、無かったんだから当然正解よね。呼ばれた瞬間にその名前になるのだから」
「ええっ!? ど、どういうことですか?」
何と精霊様には名前がなかった!?
「一応言っておくけど、精霊は一所に留まる存在としては神の一つ下の存在よ。とても、珍しいものなの」
「は、はぁ、それはなんとなく分かりますけど……」
「じゃあ、アスカに質問ね。そんな存在にあなたなら勝手に名前を付ける?」
「神様みたいな存在に名前ですか? ありえないですね!」
「でしょう? だから、私には今まで名前がなかったの。不便だとは思っていたのだけど、みんな付けてくれなかったのよね」
「そりゃあ、そんな存在の人に名前を付けるなんて無理ですよ。でも、良いんですか? 私がつけた名前で」
「もちろん気に入ったわ。それに名付け親の魔力をもらう形になるから、私は精霊の中でもそこそこ高位の存在になれたもの。名前で風の力とアスカが持ってる火と光までわずかだけど得ているのよ」
「えっ、他の属性まで関係してくるんですか?」
「ええ。魔力をもらう時にその相手が持っているすべての属性を取り込むのよ。すごいでしょ!」
すごい、確かにすごいんだけど、一つだけ気になることがある。
「あの……実は私、光の神様とは別の神様の巫女なんですけど、大丈夫ですか?」
「へっ!? アスカって光の女神の巫女だったんじゃないの?」
「違いますよ。私はアラシェル様の巫女です」
「アラシェル? そんな神様いたかしら? どこかの地方神でも聞いたことのない名前ね」
「アラシェル様はその……最近この世界に現れた女神様なんです。多分、精霊様は知らないと思います」
「シルフィードね」
「シルフィード様」
「そうそう。ふ~ん、新しい女神ねぇ。ちなみに力は何? もしかして新しい光の神様なのかしら?」
「いいえ。空間魔法を使う神様です。司っているのは運命でしょうか?」
「巫女の癖にあいまいね。でも、空間魔法の神ね。これまで空位だったはずだけど、とうとう座に就いたのね」
「シルフィード様はお詳しいんですね」
「こう見えて私って古株だから、下手な神様より長生きなのよ。でも、空間魔法ね。力はわずかだけど何か私にもできるかしら?」
「多分無理だと思いますよ。まだまだ信徒も少ないですし……」
実質、私とジャネットさんと、ラーナちゃんとバルドーさんと商会の人たちぐらいだし。細工屋のおじさんの店で買っていってくれる人も良くは知らないしね。
「私も甘く見られたものね。これでも精霊よ? 魔力の高さは人とは比べ物にならないんだから。多少なりとも力があれば実際に使って見せることはできるよ。見ててよね」
そういうとシルフィード様はぽっかりと四十センチほどの穴を作り出した。そこへ適当に小石を投げ魔法を解除すると、その小石は消滅してしまったようだ。
「ほら見なさい。こんなものよ」
「すごいです。巫女の私でもまだ使えないのに……」
「ま、人間にとってごくわずかな力でも、精霊の力をもってすればこの通りよ」
「でも、どうして私に名前をつけさせたんですか?不便と言ってもあまり人が来ないのでは?」
「それがそうもいかなくなったのよ。この一帯は弱弱しくも光の女神の加護下に在ったの。たとえわずかながらでも加護さえあれば影響を及ぼせるんだけど、その神様がいなくなったから、この周辺は魔物が活性化する可能性が出てきてしまったの」
「そんな!」
「そこでこの私がより高位の精霊になれば、周辺に加護のようなものを蒔けるってわけ。神様のとはちょっと質が違うけど、それでも魔物の襲撃を防げるのよ」
これまで名前をつけなかったのは必要がなかったせいもあるわね。そういうシルフィード様。割と適当な理由かと思っていたけど、きちんと理由があったんだ。
「にしても、こんなに早く見つかるとは思ってなかったわ。精霊を視られる人間なんて滅多に現れないし、現れたとしてもここを通るなんて、普通はないから」
「そういえば私は精霊視がないのにどうして見えたのでしょうか?」
「さあ? そっちはさっぱりね。存在そのものが神聖なんじゃないの? 神の依り代になったことがあるとか」
「そういうことはないはずですけど……。神託を受けたりしたことはありますが……」
「それぐらいで見えたなら、精霊はもっと知名度があるわね。何か他に変わったことはないの?」
「変わったことですか? 特にはないはずですけど。あっ!」
「何々?」
「これ言ってもいいか分からないんですけど、私って転生してまして、その時に転生させてくれたのがアラシェル様なんです」
多分、精霊様は神様に近いと言っていたから、言っても大丈夫だとは思うけど。
「ええっ!? アラシェル様って元は高位神なの?」
「高位神というか、様々な世界を担当していらっしゃるみたいです。今はこの世界の神様みたいですけど」
あんまり私も詳しくは分かってないんだけどね。
「す、すごいわ。それって、この世界の神様よりもすごいってことよね! なんてことなの。この力で高位の精霊になったと思ったけど、これは神格化も夢じゃないわね」
「神格化?」
「大きな力を持ったり、信仰が集まった精霊は神になることがあるのよ。まずありえないけどね。貴方の話が確かなら、相当高位の神のようだし私が有名になればいつかなれるかも」
「そ、そうですか。頑張ってくださいね」
実はこの世界にいるアラシェル様は高位神じゃないなんて言えないなぁ。
「おっと、そろそろいい時間なんじゃない?」
「あっ、そうですね。村に帰らなきゃ」
「それじゃ、村の人たちにもここは不思議な感じがするとか適当に言っておいてよね~」
「はい!」
シルフィード様の願いは叶いそうにはないけど、お言葉は一応伝えないとね。この地方を守ってくれるみたいだし。
「それじゃ、帰ろうか。アルナ、ティタ」
「うん」
《ピィ》
二人を伴って帰る。アルナは巫女の話は熱心に聞いていたけど、その後の話は難しかったらしく、ほとんど寝ていたせいかまだ眠そうだ。村に帰った私は夕食時に早速宿のお姉さんに今日の話をする。もちろん、不思議な泉があるというところだけだ。
「ああ、あの泉に行ったのね。確かに綺麗よね。不思議な感じはしなかったけど」
「そうですか? もう一度行って見ては?」
「アスカちゃんがそういうなら行って見ようかしら? あまり手入れもされていないし、たまには見に行かないとね」
やっぱり担当者とかもなくて、年に一、二度気が付いた人が見に行っているだけの様だった。今後は間接的にお世話になるんだから、きちんと見ておいても損はないと思う。
「それと、これなんですけど……」
「なあにこれ?」
「稲と言って、東方では主食として食べられているものです」
「あら、そうなの? でもなぜここに?」
「実はちょっとこの辺りに群生しているのを見つけまして、これが美味しいんですよ~」
ちょっとずつテンションを上げて、お姉さんの興味を引いていく。
「なるほど、スイデンね。確かに、近くに水源は豊富だし、育てるのは難しくはなさそうね」
「はい! ただ、毎年同じところに植えると土地が枯れるかもしれないので、確認してください」
「分かったわ。作ってみた時に試してみるわね。後は味よね。正直こういうの食べたことないから」
「そっちは任せてください。リュートが炊き方も知ってますし、私も何通りか食べ方は知ってますから」
こうして見事、宿のお姉さんの興味を引けた私は夕食でご飯を、明日の朝以降には米粉パンを試すことを約束したのだった。
「よしよし。これでこの世界でも稲作が始まれば、どこでもご飯が食べられるぞ~」
千里の道も一歩から。まだまだ先は長いけど、これから頑張れば、私が田舎に住むころには各地で食べられるようになるかもしれない。そう期待を膨らませるのだった。




