番外編 フィーナの大冒険
あたいはフィーナ、多分アルバの生まれだ。多分ってのは親の顔を見たことがないし、分からないからだ。年は……多分今年で十五才だろう。生まれてから数えたことがないから分からないけど、そんぐらいだ。
「おい、フィーナ。どうしたんだそれ?」
「この服? なんか教会の奴らがやって来て置いていった。なんでも巫女様の指示だそうだ」
「なんとまぁ。変わった巫女もいたもんだな。まだあるか?」
「あるよ。おっさんも行ってきたら?」
「そうするよ」
おっさんはこのアルバのスラムの元締めみたいなもんだ。といってもこの町は治安が良いらしく、あたいらみたいなのはほとんどいない。隣町にはもっといるらしいけど、あたいは行ったことがないからよく分からない。おっさんはそっちからやって来たらしく、前に聞いたことがあるぐらいだ。
「よっと。確かに言った通りだな。まだあったよ。他の奴らのもんも取ってきた」
「そっか、でも急にどうしたんだろうね?」
「確かになぁ。これまで、教会は俺たちのことを見て見ぬふりをしていたし、急にどうしたんだろうな? そういえばフィーナ。巫女がどうとか言ってなかったか?」
「うん。なんかそう言ってるのが聞こえたよ」
「なるほどなぁ。神殿住まいの巫女様の耳にどうにかして入ったから、対策を打ったってわけか。いつまで続くか知らんが運がよかったな」
「だな。おっさんもだけど、あたいもボロボロだったから助かったぜ。服を買うぐらいなら飯を買うしな」
「だが、最近は西の方にも冒険者が増えてやりづらくなったな。そっちはどうだ?」
「おっさんと一緒だ。あたいの方も最近はさっぱりさ。薬草一つ見つけるのも大変になったよ」
「噂で聞いたが大物が町の東に出て、低ランクのやつは東側へ立ち入り禁止なんだとよ」
「それでかよ。全く、生活の邪魔だっての」
「俺らみたいなのがこそっと町を抜け出して、適当に売れるいいチャンスだったのにな」
「ほんとだよ。これからどうすりゃいいんだよ」
「仕方ない。もう少し奥へ行くしかないだろう」
「奥へ? でもいくら西側って言っても、魔物がいるんだろ?」
「そりゃいるが、これ以上一緒の場所で探しても無駄なのは分かってるだろ? 俺たちゃ明日喰うにも困ってるんだ。そんぐらいは覚悟しないとな」
「そっか……。なら、あたいももっと頑張るかな。早速行ってくる!」
「お、おい、ちょっとは用意を……。もう行っちまいやがった。相変わらず元気なやつだ。だが、危険だぞフィーナ」
おっさんの呟きを聞くことなくあたいは町の西側を駆け抜ける。ろくなもんを食えてないからちょっとヘロヘロだけど。まともな物を食ったのは三日ぐらい前かな?
最近物が見つからない理由は分かったし、それなら話は早い。スラムにはまだあたいより小さいやつもいるし、おっさんも年だから何とかしないとな。
「小さい頃からそうやって生きてきたんだ。このぐらいなんでもないさ」
身震いする身体に言い聞かせるように、言葉を発して林へ立ち入る。正面切って入ると町の人間に目撃されるので、背の高い草むらをかき分けて目立たないところから入っていく。
「なんかここ、入り口みたいになってねぇか?」
適当に林に入ってみたものの、思ったより通りやすい。獣道って感じはしないし、誰か使ってるのかも。
「それなら、何かあるか!?」
人の手が加わっているってことは、それだけのものがあるってことだ。入口に目印なんてなかったし、何か隠れて作ってるのかも。
「そうと決まれば……あった!」
足元の草むらを見てみると、不自然に手の入っていないところがある。そこをそーっとめくってみると、薬草が何本も生えていた。見慣れない薬草もあるみたいだし、結構金になるんじゃないか?
「でも、まともに買い取ってくれる当てもないし、どうすっかなこれ?」
後でおっさんに相談してみるか。こういうのは年長者の意見を聞かないとな。貴重そうに見えてゴミかもしれないし。
「後は何かないかな~。おっ、キノコも生えてる! 確か食えるんだろこれ」
昔、何回か食ったことがあるやつだ。袋がないからボロ布にくるんでいく。これが今の精一杯だ。後は適当に木でも持って帰るか。一見何の価値もない木でも何とか売れるんだよな。最近は売れ行きも悪いけど、何もないよりはましだろう。
「じゃあ、こいつを失敬して……いてっ!」
何かが頭にぶつかった。顔をあげるとその先にはいつの間にか大木があった。
「でっけー木だな。なに食ったらそんなに大きくなるんだよ。まあいいや、こいつの枝ももらっておくか」
それでさっきの一撃は勘弁しといてやるよ。長居は戦えないあたいには危険だ。そう思って、すぐに取れるものを取って帰る。
これも、おっさんから教わったことだ。チャンスと思ったらすぐに動け。手に入れたらすぐに帰れだ。それが何も持ってないあたいらの生存を助けるんだと、よく聞かされたもんだ。
「じゃ、帰るか」
そこそこいいものも手に入ったはずだし、スラムへ帰る。ただし、帰りは荷物も多いから見つからないようにするのは大変だ。身一つなら簡単だけど、ばれたら町への入門料がかかる。そんな金は持ってないから、見つからないようにしないと、代わりに持ち物を没収されちまう。
町に入れてくれるだけましなのかもしれないけどな。他の町だとそのまま追い出されるって聞いたことがあるし。
「んじゃ、この辺でちょっくら失礼してと」
何とか荷物を持ちながら、外壁の一部につかまる。こうやってちょっと上ることが出来れば、後は頑張って壁を飛び越えるだけだ。定期的に補修がされているけど、それでもこういう箇所は残っている。ここは難易度が低いけど、もうすぐ修復されちまうだろう。それまではここから入るのが一番楽だ。
「わっ!やべぇ」
慎重に登っていたのに木がちょっと地面にぶつかって音が鳴った。すぐに、場所を移動しないと……。
「はぁ、はぁ……何とか見つからずに済んだな。せっかく町へ入れたのに見つかったら意味がないぜ。さあ、おっさんのところに行くか!」
戦利品を抱えておっさんの住処へ向かう。住処っていっても簡単に木を組んだ場所だったり、空き家だったりだ。その都度、掃除されることもあるので決まった場所じゃない。
「お~い、おっさん居るか~」
「おお、ちゃんと帰って来たな。どうだった?」
「結構いいもんだと思うんだけど、あたいじゃわかんなくてさ」
「どれどれ……」
おっさんが物を確認する。他のみんなと違っておっさんはこういう知識が豊富だ。あたいたちはろくに文字も知らないし、価値が分かるのも見たことがあるものだけだ。どこで身につけたか知らないけど、すごいと思う。
「こいつは良いもんだ。こっちの薬草はルーン草だな。このキノコも売れるぞ。栄養もあるし食べてもいいだろうがな」
「売るって言っても、今は手持ちがないしなぁ……」
「なら駄目元でギルドに行けばどうだ? これぐらいの品質なら何とか冒険者ギルドへ加入できるかもしれんぞ?」
「ほんとに? でも、それぐらいあればひと月は暮らせるし……」
「まあ聞け。ギルドに入れば今後、町への出入りが自由になるし、変な買取屋に足元を見られることもない。定価が存在するんだ。もちろん、少しでも高く売れるのがあるなら市場を使ってもいいが、あそこは売れなかったら金が無駄になるぞ」
「う~ん。確かにこんな大金が手に入るのって中々ないし、一度ギルドに行ってみるよ」
でも、あたいみたいなよく分かんないやつでも入れるのかな? 不安を抱きながらも、荷物を抱えてギルドに向かう。
「いらっしゃい、あら、初めての方ね」
「お、おう。そ、その、買取とギルドの加入を……」
「なら、先に登録をしましょうか。その方が実績になりますし」
「あ、いや。今は手持ちがなくて、先に買取してくれ」
「分かりました。物を見せてもらえますか?」
「これだ」
がさごそと布から薬草やらキノコやらを取り出す。
「うう~ん、ちょっと見た目悪いわね。ちょっと待ってね。せんぱ~い、こっちお願いできますか?」
「どうしたの?」
「これなんですけど、先輩に見てもらった方がいいと思って」
「ああ、なるほどね。確かに」
「な、何だ? 何かあるのか?」
み、見た目が悪くて買取できないとかあるのか? 不安になりながらも先輩というやつの言葉の続きを待つ
「いいえ。しいて言うなら、保存状態が良くないから、きちんとした鑑定でないと見た目で評価が下がりやすいのよ。私は鑑定のスキルで分かるから、そうならないけれど。出来ればもうちょっと丁寧に扱ってもらえると嬉しいわ」
「そうだったのか。袋を持ってなくて。気を付ける」
「じゃあ、見ていくわね。あら、これはルーン草ね。頑張って探したのね」
「ああ。ちゃんと見てくれよ」
「ええ。これはBランク。こっちはぎりぎりCランクね。これはBランクでいいかしら?もうちょっと綺麗ならAランクでもいいのだけど……」
「なあ、さっきから言ってるAとかBって何なんだ?」
「あら、買取も初めてかしら?」
「うん。いつもは商人に直接渡してるんだ。そん時は何も言われなかったぞ」
「そう。これからはちゃんとこっちで買い取るから、きちんと学ぶのよ。はいこれ」
「これは?」
「初心者向けの冒険者手帳よ。必要なことが書いてあるから、よく読んでおくといいわ」
「ああ。えっと、これが……で……ある。読めないや」
「誰か、読める人についてもらうか、週に一度講習もやっているから、そっちに参加してね。ためになることが書かれてるから」
「分かった!」
「じゃあ、買取だけど銀貨二枚と大銅貨四枚ね」
「そんなに! すげぇ」
「ただ、ちょっとつけて足しておくと、あまり保存状態が良くないからこれでも安い方なの。もっと丁寧に採ってくれば更に高くなったわよ。さっき言ってたランクっていうのは品質のことなの。品質がいいほどいい薬が作れるし、その分買取価格も高くなるわ。これももうちょっと良かったら一つで銀貨一枚になったのよ」
「めちゃくちゃ高いな!」
「でしょう? だから、次からはもう少し丁寧にお願いできる?」
次からはこれに入れるようにと袋までもらった。ギルドっていうのはいいとこだな。
「分かった! んじゃな」
「ちょ、ちょっと待って、あなた登録は?」
「そうだった。あ~、でも名前とか書けないぞ?」
「こっちで代筆するから、質問に答えてくれればいいわ」
それから色々質問されて何とか答えていった。でも、この人たちはあたいにもきちんと対応してくれる。これまでの商人は適当に見て値段分だって金を放り投げるだけだったしな。
「はい。それじゃあ、これがあなたのステータスよ。無理はしないようにね」
「まあ、読めないけどな……ってちゃんと分かる!?」
「これは魔道具って言って不思議な力で出来ているから、必ず本人に分かるようになっているのよ」
「そっか、ありがとな!」
手を振ってギルドを出る。そしてステータスとやらを確認する。
名前:フィーナ
年齢:15歳
職業:冒険者Fランク
HP:41
MP:18/18
力:12
体力:17
早さ:25
器用さ:22
魔力:11
運:40
「で、これって強いのか?」
自分のしか見たことないから分かんねぇな。




