売買契約
「こっちだ。ここなら目立たないだろう」
いつも私が食事をしている席で集まる。
「ごめんなさいね。急かしたみたいになっちゃって」
「いいえ、私も集中して出来ましたから」
「それで物は?」
「これです。これとこれは二つずつで、バラのやつがそれぞれ一つずつですね」
「ん~、確かにバラのやつはデザインが違うな。でも、なんだかこれは前に見たのとちょっと違うな……」
「分かります? 実は片方は三重になってるんですよ。大変でしたけどやりがいがありました」
「本当か!?……確かにこれは三重になってるな。すごい物を作ったな」
「夢中になってたら出来ちゃいました。次やったら失敗するかもしれませんけど……」
「これはすごく綺麗ね。立体感もあるし、奥のバラが小さいながらも綺麗に映えるわね」
「そ、そうですか。えへへ」
「にしてもこれはさすがに値段を考えないとな。銀と水晶を使っているから二重のものでも金貨二枚は堅いが、三重のは失敗リスクが大きいからな……。金貨五枚でどうだ!」
「良いんですか? そんなに時間や材料費はかかってませんけど……」
「いや、技術料だ。それに失敗した時の水晶の確保が難しいだろう? 失敗だって最終工程でするのと最初にするのじゃ、かかった時間は全く異なるからな。一番、時間がかかることを想定しないとな」
確かに、バルドーさんの言う通り、最終工程のはめ込み段階で失敗すると丸一日以上無駄になっちゃう。それを考えれば妥当なのかな?
「でも、魔道具でもないのにそんなに高いなんて、思いませんでした」
「魔道具は材料費三割で残りは術師への報酬といわれてるぐらいだからな。それから考えると、通常の細工でこの値段はかなりのものだぞ。それだけの価値があるってことだ」
「そうね。これだけのものが作れるなら、立派な細工師よ。自分の工房を開いてもいいぐらいだわ」
「落ち着いたらそういうことも考えてみます」
旅が終われば収入を得る手立てが必要だから、第一候補として考えておこう。自分でも細工をしてると落ち着くしね。細工をバルドーさんに渡して、明日また会う予定を立てる。
「よし! じゃあ、九時ごろに来る。金もちゃんと持ってくるからな」
「はい。お願いします。でも、大金を持つのもあれなのでカードに入れられますか?」
「大丈夫だ。それじゃあな!」
バルドーさんたちを見送る。また寂しくなっちゃうけど、一先ずは依頼完了だね。
一人になり、私は部屋に戻ってくつろぐ。ここ数日間はずっと細工やらなんやらで頑張ったので、ちょっとお休みだ。
《ピッ》
《チッ》
今日もアルナたちが元気に部屋を飛び回っている。外に出ないのかなって思うけど、どうやら私と一緒に出掛けたいみたいで、しきりに近くに留まっては飛ぶを繰り返す。
「もうちょっと待っててね。今日はフィーナちゃんの外出デビューだから、見に行くからね~」
今日は前から話を進めていた、リンネの散歩兼フィーナちゃんの売り物の調達日なのだ。さすがに初回は心配なので、こっそり様子を見に行くことにしたのだ。
「一人の方が身軽でいいけど、いたら何か役立つかもしれないしね」
後をつけるなんて初めてだし、目立たないように動くなら旅人の格好をして、小鳥を連れ歩いてる方がいいだろう。持っている服の中からそれっぽいものを取り出して着替える。そこから防具をつけて後は武器だけど……。
「う~ん。弓って感じじゃないんだよね。杖にしとこうかな?」
杖なら冒険者というより旅人に近いので、杖を持ち歩くことにした。これで準備は整ったし、後はフィーナちゃんが出発するのを待つだけだ。
「そういえば、フィーナちゃんも冒険者なのはびっくりしたなぁ」
冒険者といっても、採取専門でEランクだけど。門を出入りするのにお金がかかるので、冒険者になったらしい。でも、冒険者になる時にお金がかかるからその時は大変だったって言ってた。
「そんじゃ、借りるな」
下で声がする。どうやらフィーナちゃんが出かけるみたいだ。窓からこっそり様子をうかがって、行先を確認する。間違いなく町の西側に出かけるみたいだ。
「よーっし、私も出発だ!」
窓を開けて、ミネルたちと一緒に飛んで後をつける。本当は夜が良かったけど、一回こういう外出の仕方してみたかったんだよね。
「はぁ~、つかれた~。でも無事に終わってよかったよ」
フィーナちゃんの外出は何事もなく……はなかったんだけど、無事に終わった。まあ、この地域に限ればリンネに勝てる魔物はいないから安心はしてたけど、本当に頼りになる子だよ。
「これで次回からも大丈夫だろうし、安心して見送れるね」
用事が終わると時刻は十五時頃。ここからあんまり何かするって言うのもないんだよね。
「この前の反省を生かして、弓の練習でもしようかな?」
ちょっと腕も落ちてたし、日頃の練習も大事だ。弓矢を取り出して裏庭へ向かうと、そこに置かせてもらっている的に向かって矢を放つ。何度かやって、きちんと的に当てることが出来たので、今度はちょっと変わったやり方を試す。
二矢を一度に放つと勢いはともかく、命中率がかなり下がってしまう。こういうのを出来るだけ当てられるようにするのだ。
「こうなってきたら、早く新しい弓が欲しいなぁ」
バルドーさんの依頼が終わったら、特にやることもないからもう一度、シャスさんに会いに行こうかな? 前に聞いた村の話も気になるしね。
「だけど、村はもうないから野宿の連続かぁ。後は安心して寝られるように魔石を用意しないとね」
私がいるからグリーンスライムの魔石を使った魔道具でいいけど、とにかくテントを守れるような物がいくつか必要だ。
「ちょっと、おじさんの店をのぞいて補充してこようかな? ついでに細工用の石も欲しいし」
勢いに任せてバルドーさんの依頼品を作ったものの、材料の消耗が激しくて手持ちが少なくなってきているのだ。
「なんだかんだで留め具に銀を使って、金属関係も消耗してるんだよね。ここで一度、大量に仕入れよっかな?」
長期の旅になるならその間も細工が作れるように材料も持って行きたいし、仕入れのついでに納品も済ませたい。仕入れだけって店に行きにくいんだよね。別に急かされるわけじゃないけど、仕入れに行く時は納品も済ませる方が無駄がないというかしっくりくる。
「そうと決まれば、前に作っていたのをちょっと出していこうかな」
バルドーさんの依頼は別の大陸向けなので、こっちとは流行が違う。馴染みのない物とかちょっと受けの悪いデザインは省いていたのだ。それを持って行けば、しばらく納品は満たせるもんね。
「おじさ~ん。買い出しに来たよ」
「おっ、アスカか。そういや、何か作ってるんだったろ。どうなった?」
「あっ!? もう、バルドーさんに渡しちゃった」
「渡したってことはもう出ちまったのか?」
「ううん。明日また代金をもらうことになってるから会うよ」
「そんじゃ、こっちに寄るように言っといてくれ」
「は~い」
「それで、今日は何が欲しいんだ?」
「え~っと、グリーンスライムの魔石六つに、水晶の補充が四つ。後はちょっと魔石を見たいかな? そうそう、銀も買います」
「結構買うんだな。そんなに作ったのか?」
「数も作ったんですけど、今度また出かけようと思うのでその準備ですね。特にグリーンスライムの魔石は優先的にお願いします」
「例の魔道具だな。レディトにも卸してるのか?」
「卸すって言っても作って渡してるだけですけどね。月にグリーンスライムのが六つ。ちゃんとしたのが三つぐらいでしょうか? 形も別に指定されてないから、楽なんですよね。MPは使っちゃいますけど。そうだ! 魔道具用のスクロールもください」
「ん? 別になくても出来るようになったんだろ?」
「やっぱりあった方が安定しますし、私以外にも使う機会があったので、多めに持っておきたくて」
「分かった。それじゃあ、言われた分を持ってくるぞ」
おじさんが奥からどんどん物を出してきてくれる。
「グリーンスライムのは大と、中ぐらいのがあるがどっちが良い?
「私が使うので使い回せるおっきい方がいいです」
「はいよ。それじゃあ、こっちのとこれとこれ。後は奥にあるやつか……」
どんどんカウンターの上が材料で埋まっていく。でも、こうやって並べられるとたくさんあるなぁ。
「それじゃあ、これが金貨二で枚こっちは銀貨六枚。それは金貨一枚でこっちはと……合計金貨五枚と銀貨七枚だ」
「結構行きましたね」
「アスカのおかげでグリーンスライムの魔石も値上がりしたからな。その影響で緑色の宝石がやや値上がり傾向だ」
「魔道具には関係なくないですか?」
「魔道具に使われるようになった分、宝石代わりに使っていたのがなくなって、宝石自体が値上がりしたんだよ。ほら、この細工も前から大銅貨二枚高くなってるだろ?」
「そういえば……。細工が細かいからかと思ってました」
「これぐらいなら横にあるやつと一緒ぐらいの難易度だ。だが、材料費の分は上げないと商売にならねぇ。アスカも売る時はちゃんと申告して買取価格に上乗せしてもらえよ」
「覚えときます」
おじさんに代金を支払って宿に帰る。材料が大量に手に入ってほくほくだけど、代わりに結構支出の額も大きかった。
「まあ、明日になればバルドーさんからお金が入るし、大丈夫大丈夫。でも、ちょっとぐらい現金でもらった方がよかったかなぁ」
おじさんの店の仕入れはちょっと独特で、商人以外にも市場とかからも買っている。そうして安いところから仕入れてるんだけど、その関係で支払いは主に現金なのだ。今回みたいに大きい金額だと、財布の中が寂しくなっちゃう。
「おかげで私も安く買えてるから良いんだけど、ちょっとお財布の中身が心もとないなぁ」
しょうがないから、明日バルドーさんからお金をもらったら、ギルドへ行ってお金を下ろしてこよう。




