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【3巻発売中!】転生後はのんびりと 能力は人並みのふりしてまったり冒険者しようと思います  作者: 弓立歩
アスカと二度目の季節、初夏

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王都からの帰還


 私が自室でふてくされているころ、食堂では……。


「こんばんは。アスカは?」


「あら、ヒューイさん珍しいわね。アスカなら急に二階に上がっていったけど……」


「なんだ、てっきり魚でも食ってると思ってたんだがな。ちょっと買取にも回せないのが余ったから持ってきたんだ」


「へぇ~、ヒューイさんって釣り上手なんですね」


「俺よりベレッタの方が釣ってるけどな。アスカは残念ながら釣れなかったが……」


「えっ? あの子さっき持って帰って来てたけど……」


「ああ、俺たちが大漁だったから一匹やったんだよ。それでも余るから追加で持ってきたんだ。エステルもいるか?」


「良いんですか?」


 私たちの会話をよそに厨房から様子を見ていたライギルさんが反応した。


「何だって! じゃあ、アスカは釣ってなかったのか!?」


「そんなに慌ててどうしたんですかライギルさん。残念ですけど小さい当たりが二度ぐらいで全くですね。当たりといっても喰いつくまでは行ってないんですが……」


「やばいな。どうしよう、俺さっきアスカに釣れないと思ってたが頑張ったなって言ったぞ」


「ちょ、それでアスカ上に上がったんじゃ……」


「……。すまん」


「それじゃあ多分、今日はもう下りてこないだろうな。これは足の速い魚だからエステルにやるよ。その代わり今日中に食えよ」


「良いんですか?」


「ああ、小さいし釣ったその日は高値で売れるんだが、すぐに匂いが悪くなる魚なんだ。夕方買取に回しても店が買い取るのは明日になっちまうから、売りもんにならないんだ」


「へぇ~、ありがたくいただきます。アスカには悪いけど、ライギルさんに感謝ね。あの子、食べ物は手放さないから」


「本当にすまんな。ヒューイのせっかくの好意を無駄にしてしまって。今後アスカが釣りに行くときは気を付けるよ」


「次があったらですけどね」


「厳しいなエステルは」


「あの美食マニアが食事を取らずに部屋にこもってるんですよ。反省してください」


「アスカってそんな風に言われてるのか?」


「ヒューイさんは知らないかもしれませんが、あの子は冒険者ショップで売ってる硬いパンはまずいから、それならドライフルーツを買うと豪語したこともあるんですよ」


「そりゃすごい。あれは量も少なくて一袋大銅貨数枚だろ?」


「アスカ曰く、まずい飯は栄養にならないということだ」


「本当に変わってんなぁ、あいつは」


 三人がしみじみと頷いている頃、私は……。


「お腹減った~! でも、今日はもういいもん」


 相変わらず、ベッドの中でふてくされていたのだった。



 そんなことがあった翌日。


「今日は細工の日だ。前の続きをしないとね」


 おじさんのところで材料も補充したから今日はこもるぞ~。いつものように朝食を食べて、細工の準備をする。


「今日はグリディア様の像を作るんだけど、ちびセットをもう一つ作っておこうかな?」


 必要になった時に作るのもいいけど、見本と実物みたいな感じで作っておくことにする。


「半日で出来るだろうし、休み明けならちょうどいいかな?」


 スッと手を動かしていく。まずは大まかな形に銅の塊を加工する。加工が終わったらその余りを使って武器を作る。それから本体の方を削っていき、最後に細かいところを調整して出来上がりだ。


「よしよし、午前中で一体半かぁ。結構いいペースじゃないかな?」


 昨日は魔力を消費しなかったから、今日は余裕がある。だから、銀の細工でもよかったんだけど、作る時は神経をすり減らすので、ほどほどにしないとね。そして、お昼になったのでご飯を食べに食堂へ下りる。


「おはよう、リュート」


「アスカ、おはよう。今日は時間ぴったりだね」


「うん。切りのいいところでやめようって思ってたから」


「それがいいよ。今日はどれにする?」


「う~ん、ちょっとお腹もすいてるしお肉のセットかな?」


「はい、ちょっと待っててね」


 リュートが注文を伝えに奥に行く。ちらりと食堂を見ると今日も盛況だ。もうほとんどの席が埋まっている。


「相変わらず人気だなぁ」


「ちょっと待ってください」


「はいよ!」


 入り口から真っ直ぐ進んだパン専用のカウンタ―では、孤児院から派遣されている子たちが懸命に仕事に取り組んでいる。今では計算もできるようになったし、仕事の実績も出来たとエステルさんも喜んでたなぁ。


「なんせ、店番ひとつとっても難しいからね」


 学校みたいな組織もあるけど、貴族とか商人が通うところで商人の子どもも普通は親から計算を教えてもらう。その為、個人の計算能力はかなりぶれているのだ。常に店主が店番をすると仕入れにも影響するし、こういうことが出来ると仕事につきやすくなるんだって。


「九九を教えてた頃が懐かしいなぁ」


 孤児院にたまに様子を見るついでに九九を教えていたら、みんなすぐに覚えてしまった。今では小学生よろしく早口で言う遊びも流行っているらしい。


「そのおかげで割り算もみんな喜んで学んだから、すぐにマスターしちゃうんだもん」


 次々に問題を欲しがるものだから、最後は二次関数の問題を教えて逃げてきたのだ。


「解き方も教えてないし、あれからしばらくは質問も来なくなったしよかった~」


 問題があるとすれば、それを自力で説いた時だなぁ。私は数学とか苦手だからこれ以上は分かんないし、問題を考えるのも大変だ。


「アスカ、焼けたよ」


「ありがとリュート」


 色々考えているとリュートが料理を持ってきてくれた。今日はボアステーキみたいだ。柔らかくてデンッと大きい肉を安価に提供してくれる良いメニューだ。


「うん、美味しい! スパイスも効いてて食が進むよ~」


「そういうと思って、はいっ」


 リュートが小皿をわきに置いてくれる。


「これは?」


「最近ライギルさんが用意した新しい調味料なんだ。ちょっと酸っぱいけどあっさり食べられるよ」


「へ~、楽しみ。ちょっとつけてみるね」


 肉をリュートの言ったたれに付けて食べる。


「ん? これポン酢だ! ねぇ大根ある?」


「ダイコン? ああ、あれのことね。アスカはたまに変な呼び方するよね」


「あはは、故郷での呼び方が染みついちゃって。それをちょっとおろしてここに入れてくれる?」


「これに? 分かった」


 厨房に向かったリュートが二分ほどで帰ってきた。


「リュート、早いね」


「料理が冷めちゃうといけないからね。そのまま入れればいいの?」


「うん、お願い」


 ぽととととリュートが大根おろしをポン酢に入れる。うんうん、これでますます美味しくなるはずだ。


 はむっ


「ん~、これこれ。お肉があっさり食べられるし、このおろしの味がいいよね~。やっぱり、作りたては一味違うなぁ」


「そんなに美味しいの?」


「リュートも食べてみなよ」


「う、うん」


 私はおろしをたっぷりつけてリュートの口に肉を一切れ放り込む。


「わっ、本当だ。たれだけは味見させてもらったけど、それだけよりさっぱりしてるね」


「でしょ? よかったらライギルさんに話して今度また出してね」


「分かったよ。すぐに伝えてくる」


 リュートは注文の合間を縫って、ライギルさんに伝えに行く。


「リュートも器用だよね。動き回りながら、暇を見つけて奥に行くなんて。あむっ。ん~、美味しい!」


 そんなことを一瞬考えた私だったが、すぐに食事に意識が持って行かれる。このお肉が美味しいんだから仕方ないよね。そして、午後からは細工だ。この日だけでグリディア様のちびセットを一つ作った。翌日以降は通常の像に戻し、ある程度の数が確保できたところで、普通の細工にシフトしよう。


「そろそろ来月の細工の納品分も確保しないとね。こうやって、先にひと月分作ってれば焦ることもないし、何かあっても余裕があるしね」


 これも魔道具の納品が簡単になったからだ。これまで魔道具といえば、効果とデザイン両方から考えて作っていた。それが通信用の魔道具をしばらく作ることで、かなり余裕が出来たのだ。


「なんせデザインに二日、制作に丸一日ってことも珍しくなかったからなぁ」


 作り始めの頃は割とデザインもパッと浮かんだし、効果も適当に付与していた。だけど、ある程度経ってからは効果に合わせたデザインや、効果も実用的なものを中心にしていったので、構想に時間がかかるようになってきていたのだ。


「もうちょっと簡単になればいいんだけど、そううまくはいかないよね」


 デザインは本などから持ってきてはいるものの、オリジナリティも重要だしデザインを変えると変になるものもある。作り続けていくうちに難しくなっていくのだ。納期も考えればそこそこ時間もかかっていたのが、同じものの納品で助かった。


「後はこのままのペースを維持できればいいんだけどね」


 そんな簡単にはいかないと思うけど、行けるところまで行こう。そう思いながら私は細工を作っていった。こうしてさらに数日をかけて在庫を作った頃、食堂へ行くと懐かしい顔があった。


「おっ、アスカ調子はどうだ?」


「バルドーさん! 帰ってきたんですか?」


「ああ、やはり何度行っても王都は良いな。仕入れが進んだぞ」


「そうなんですね。どんなのを買ったんですか?」


「細工物とか向こうで売れそうなものが中心だな。後は材料も買ってきたな。ほら」


 バルドーさんが石を見せてくれる。角度で光る色が変わるものだ。確かにこういう石はアルバでは見たことがない。


「わっ、珍しい石ですね」


「そうでしょう? 私が見つけたのよ」


 得意げに話すジェシーさん。そのまま私は王都での話を聞くことにした。



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