085 認めない?
豪華な胸当てさんの言葉に続くように、衛兵の一団も手に持っていた弓を掲げて何か叫んでいる。うるさいくらいだ。
観客席の蜥蜴人たちは無事に逃げ出せたようだが、衛兵の一団は飛竜の一撃で負傷している。まずは負傷者を何とかすべきでは、なんて感じで自分が思っていると、衛兵の一団の騒ぎに偉そうな蜥蜴人が待ったをかけた。
「待つのです! 認めないのです!」
「飛竜を倒す力を持ったものが戦士の王となる伝統なのです」
豪華な胸当てさんがそんなことを言っている。
それ、伝統なんだ。
「そうだとしても、戦士でない者は王になれないのです!」
偉そうな蜥蜴人はそんなことを言っている。
うーん、確かに一理あるかもしれない。突然やって来た部外者が飛竜を倒したから王にしろって問題があるよね。普通は戦士になって資格を得てから挑むようなものなのだろう。まぁ、王って呼んでいるものが自分の考えている王と同じかは分からないけども。
偉そうな蜥蜴人の言葉に豪華な胸当てさんは、少しだけ困ったような表情をしていた。
と、そこで体が勝手に動いた。
とことこと頭の砕け散った飛竜の元まで歩き、その周辺に散らばっている矢を拾う。
そして、そのまま手に持った金属製の弓に番え、放つ。
放つ。
放つ。
放つ。
次々と放たれた矢が、闘技場の舞台に残っていた四角い的を破壊していく。
全ての的を破壊し終えると、そのまま、てくてくと偉そうな蜥蜴人の前まで体が動き、手に持っていた金属製の弓を投げ渡した。
ぽかーんとした表情で大口を開けていた偉そうな蜥蜴人が慌てて弓を受け取る。
「――、これで問題がないのです」
同じように驚いた表情をしていた豪華な胸当てさんが、すぐに表情を引き締め、偉そうな蜥蜴人に優しく語りかけていた。
「違うのです。道具の力なのです。認められないのです!」
偉そうな蜥蜴人はそれでも喚いている。
道具の力。この偉そうな蜥蜴人は、自分の弓を使ったから――僕の実力ではなく、弓の性能だと言いたいのだろう。だが、それが自分にはイフリーダの力を借りたから出来たことだと言っているように聞こえた。
そうだ。これは自分の力ではない。自分の力では、先ほどの金属製の弓を引くことも出来ない。借り物の力だ。
『確かに自分の力じゃないね』
『ふむ。しかし、いずれソラが到達する領域の話なのじゃ』
自分の背中から飛び降りた銀のイフリーダが、偉そうな蜥蜴人の隣であざ笑うかのような表情を浮かべていた。
「み、み、み、認めないのです!」
そして、さらに追加が現れた。
認めないと叫びながら慌てたようにやって来たのはキラキラ帽子の蜥蜴人だった。
『キラキラ、無事だったんだ』
闘技場に着いてから姿が見えないと思ったが、何処か安全な場所に隠れていたのだろうか。
「我らの言葉も解さぬヒトシュが、戦士ならまだしも、いや、それも駄目なのです。戦士の王になど認めないのです!」
なるほど、確かに意思疎通の出来ない者を偉い立場にするのは問題があるよね。でも、おかしいと思わなかったのだろうか。今まで、自分は、言葉を理解しているような行動しか取っていないと思うのだが。
「しかし、このヒトシュは力を示したのです」
豪華な胸当てさんは、何故か擁護してくれるようだ。自分としては戦士であるかどうかや、王であるとかは、どうでも良いことだと思っている。それでも味方になろうとしてくれるのは嬉しかった。
「院は――が旅だった後、方針が変わったのです」
院? 何のことだろう。
キラキラは言葉を続ける。
「目覚めたファア・アズナバール様に生け贄を捧げて許しを請うことに決まったのです」
生け贄? 穏やかじゃない言葉が出てきた。そのファア・アズナバールが四つの王の一つ、邪なる竜の王で間違いないだろう。でも、それが、今のこの状況に何の関係があるんだろうか。
「それがどうしたのです?」
豪華な胸当てさんも同じことを思っているようだ。
「この! ヒトシュは! あの――が連れてきたヒトシュなのです!」
あのって言うのは学ぶ赤さんのことだろうな。
「――は、ファア・アズナバール様を鎮めるために強大なマナの一つを抑えた存在を探しに行くと言ったのです」
うん、確かに学ぶ赤は、そんなことを言っていたね。
「しかし、何の成果もなしに戻ってきたのです。これは裏切りなのです」
ん?
「その――が連れたヒトシュを戦士の王にするなど、もっての外なのです!」
なるほど。そう繋がるんだ。
裏切り者の仲間を戦士にすることは出来ないって言いたいのか。
うーん。言っていることが無茶苦茶な気がする。ただ、認めたくないから理由をこじつけているような、そんな風にしか見えない。
それに学ぶ赤さんが裏切り者扱いされたままというのも、なんだか許せない。
そう思い、自分は、呆れた表情でキラキラを見ていた豪華な胸当てさんの前まで歩いて行く。
そして、その顔を見上げ、口を開いた。
「ちょっといいかな?」
呆れた表情でキラキラを見ていた豪華な胸当てさんの顔が、ゆっくりとこちらへ動く。そして、徐々に驚きに染まっていく。
「しゃ、しゃ、喋ったのです!」
それ、驚くとこなんだ。
見回せば周囲も驚き大きな口を開けている。
「ここに来た時に預けた背負い袋があると思うけど、持ってきてもらえないでしょうか?」
豪華な胸当てさんは驚き、大きな口を開けたまま、うんうんと何度も頷いている。そして、衛兵の一人に、すぐに持ってくるよう指示を出していた。指示を受けた衛兵も驚いた表情のまま、何処かへと走って行く。
そしてキラキラの方へと振り返り、腕を組んで笑う。キラキラは、驚いた顔のまま震えている。
「な、な、何故、ヒトシュが我らの言葉を、おかしいのです!」
言葉が使えるのがそんなにおかしなことなのだろうか。
喚いているキラキラを眺めていると衛兵の一人が自分の背負い袋を持ってきた。それを受け取り、中から石の王冠を取り出す。
そして、その王冠を自分の頭の上にのせた。
「先ほど、強大なマナの一つが消えたと聞いたけど、それを行ったのは自分です」
キラキラが驚き、さらに大きく口を開ける。大きく開けすぎて顎が外れそうな勢いだ。
「これで、学ぶ赤さん……でいいのかな? は使命を果たしたことになりますよね」
とりあえずキラキラを見下すような決め顔で腕を組んでみた。
ドヤァ。
2018年5月9日修正
邪なる竜の王で間違いだろう → 邪なる竜の王で間違いないだろう




