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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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077 湖に潜んでいた何か

『ソラよ、あれの弱点は何処だと思うのじゃ』

『あの半透明な体内を、これ見よがしに動いている球体かな』

 背中からこちらへと手を回し、肩先から顔を覗かせていた銀のイフリーダが頷く。


 蠢く球体へと手に持った骨の槍を投げ放つ。


 そして銀のイフリーダの言葉が頭の中に響いた。

『うむ。半分正解で半分不正解なのじゃ』


 骨の槍が空気を切り裂いて飛び、蠢く球体を貫く。

『やった』

 蠢く球体がヤツの体内で破裂する。

『やってないのじゃ』


 骨の槍はヤツの本体に刺さったままだ。


 そして――、


 先ほどまで骨の槍が半透明な体内を抜け、中の球体を貫き破裂させた、そことは別の場所に、体内で飛び散った破片が集まり、新しい球体が生まれようとしていた。


 球体が再生を始めている。


『な、んで……?』

 その事態に驚き、体の動きが止まる。


『ふぬけている暇はないのじゃ』

 こちらを掴もうとしているかのように迫っていた触手を、体が勝手に動き、飛び上がって回避する。

 さらに空中で次々と襲いかかってきた触手を、身を捻り躱す。


 躱す。


 躱す。


 回避しきれないと思った触手は手に持った折れた剣で切り飛ばす。


 そして、イカダの上に着地し、ちょうど足元にあった次の骨の槍を蹴り上げ、握る。いや、偶然、足元にあったのではない、狙って、ここへと着地したはずだ。

 手に持った骨の槍で迫っていた触手を貫き炸裂させる。


「ぬわぁぁ、なのです!」

 声の方を見れば、何処かのんきに聞こえる叫び声を上げながら、学ぶ赤が伸びた触手に掴まれていた。そして、そのまま空中へと持ち上がり、湖中へと引きずり込まれようとしている。


 骨の槍を投げ放ち、学ぶ赤を掴んでいた触手を吹き飛ばす。そのまま、その下へと走り学ぶ赤を受け取り、荷物のように抱える。

「意外と重いですね」

「申し訳ないのです」

 抱えた学ぶ赤はぐったりとしていた。


 そんなやりとりをしているこちらの足元にも触手が迫り、掴まれる。すぐに折れた剣で切り飛ばし、次の骨の槍へと駆ける。

 こちらも蹴り上げ、飛び上がった骨の槍を手に取る。

『イフリーダ、最後の一個だよ』

『うむ。ソラよ、目を閉じ、やつの体内の動きを見るのじゃ』

『目を閉じて?』

『うむ。目を閉じてよく見るのじゃ』

 銀のイフリーダの矛盾しているかのような言葉。それでも、その言葉を信じて目を閉じる。


 目を閉じたまま、敵の体内の動きを見るように探る。


 目を閉じているのに、自分の体は勝手に動き、骨の槍を振り回している。そして、次々と何かが破裂している音が響く。銀のイフリーダが迫る触手の対処をしてくれているのだろう。


 銀のイフリーダを信じて、目の前の本体に集中する。


 触手が風を切る音。


 体が動き、骨の槍が繰り出される音。


 触手の炸裂音。


 ヤツの体内で蠢く何か。


 ぎゅるぎゅるといった音。


 一つ、一つ、邪魔になるノイズを消していく。


 暗闇。


 音も遮断する。


 何が見える?


 何が見えた?


 ……。


 そして、目を閉じた暗闇の中に光が見えた。


 抱えている学ぶ赤にも、イカダの上に無数の小さな光も、ヤツの本体の中にも。


『見えた。もしかして、これはマナの輝き?』

『うむ。マナ――魂の輝きが、あれを再生しているのじゃ』

『じゃあ、その供給を絶てば……?』

『うむ。再生が出来なくなるのじゃ』


 暗闇に光るヤツのマナ結晶を狙い、骨の槍を投げ放つ。


 骨の槍がヤツの体内のマナ結晶を貫き、破裂させる。暗闇の中に、マナ結晶の爆発によるまぶしいほどの輝きが生まれた。

『やったね』

『うむ。これであれは再生出来なくなったのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉を聞き、目を開ける。


 ヤツの体内に隠されていたマナ結晶は破壊した。


 でも、まだ倒した訳じゃない!


 最後のあがきとばかりに無数の触手が襲いかかってくる。

『イフリーダ、でも、武器が、ない!』

 手には折れた剣を持っている。しかし、ヤツの本体までは距離がある。湖が邪魔をしている。自分は空を飛ぶことも、水面を走ることも出来ない。

『ソラよ、我を誰だと思っているのじゃ』

 銀のイフリーダは不敵に笑っている。

『イフリーダ?』

『そう、イフリーダなのじゃ』

 体が勝手に動き、駆ける。迫る触手を、屈み、飛び、避けながら、イカダの上を駆ける。ヤツの本体を目指して駆ける。

 イカダへと触手が叩きつけられ、イカダの一部が砕け、沈む。


 それでも駆ける。


「あわわわ、ソラ、そちらは水なのです!」

 抱えた学ぶ赤が叫び声を上げる。

『イフリーダ、そっちは!』

『任せるのじゃ』

 そして、イカダを蹴り、飛ぶ。


 ヤツの本体を目指して飛ぶ。


 沈みつつあるイカダを蹴り、勢いよく飛び上がったが、それでも足りない。ヤツまでの距離は、まだ――ある。

『届かない!』

 空中で身動きが取れなくなったこちらを狙うように無数の触手が迫る。

『任せるのじゃ』


 体が動き、空中で、身を捻るように迫っていた触手を躱し、それを蹴り飛ばす。蹴り飛ばした時に光る小さな波紋のようなものが生まれていた。イフリーダの力だろうか?


 迫っていた触手を足場として蹴り飛ばし、足りなかった距離を埋める。


 そして、ヤツの本体に着地――いや、ヤツの体に刺さったままになっていた骨の槍を引き抜き、そのまま空中へと蹴り上がる。再度、小さな光る波紋が生まれる。

 空中で体を捻り、ヤツへと向き直り、体内の蠢く球体へと骨の槍を投げ放つ。


 骨の槍が体内の球体に刺さり――貫通した。そして、球体が破裂する。


 その一撃によって、ヤツは動きを止め、崩れ始めた。

『ふふふ。これが我の力なのじゃ』

『イフリーダ、水、水、水』


 自分は空が飛べる訳じゃない。


 空中に飛び上がった体は――下へと落ちる。


 そして、その下は水だ。


「あわわわ、落ちるのです!」

 抱えた学ぶ赤も叫び声を上げる。


 いや、違う。


 落ちている先――湖面の上に、先ほどの攻撃で砕かれたイカダの破片が浮いていた。破片が、ちょうど狙っていたかのように、こちらへと流れてきている。

 イカダの破片を蹴り、飛ぶ。

『イフリーダ、狙っていた? それとも偶然?』

『あれが周囲のものを喰らうために水流を操り、引き寄せていたのじゃ』

 それは、狙っていた、見えていたってことだ。


 そして、湖面に浮いていた、一本の丸太の上に着地する。

『イカダ、バラバラになっちゃったね』

 そう、イカダは、こちらがヤツの本体へと飛び上がっている最中に受けた触手による攻撃でバラバラになっていた。

『それよりも、あれを回収した方が良いと思うのじゃ』

 銀のイフリーダが指さした先には、木の矢が入った壺と、マナ結晶が入った壺がぷかぷかと浮いていた。沈んでいない。

「そうだね。でも毒の入った壺が……」

「それなら、私が持っているのです」

 荷物のように抱えていた学ぶ赤が袖口から小さな壺を大事そうに取り出していた。


「出来の良い壺だったので、これだけは確保していたのです」

「あ、はい。毒が湖に散らばらなくて良かったです」


 何にせよ、まずは、あの二つの壺を回収かな。


 足元の一本だけになってしまった丸太を見て、大きなため息が出た。

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