059 狩りの続き
シェルターから外を覗く。まだ朝日は昇っていないようだ。
シェルターの外に出て、薄暗い中、目を凝らして周囲を見回す。スコルと学ぶ赤の二人はまだ寝ているようだ。
その途中で、スコルが持って帰ってきた石の両手剣が視界に入る。無造作に転がっている石の両手剣を握る。
そして持ち上げようとして――持ち上がらなかった。
『ふむ。ソラは、その武器を使ってみたいのじゃな』
首を横に振る。
『いいえ、だよ。武器にこだわりはないし、綺麗な刃だから使えたら便利だとは思うけどね。でも無理して使うほどじゃないよ。それこそ武器にこだわりはないからね』
『ふむ』
銀のイフリーダは腕を組み、何か悩んでいるような様子を見せる。
『使えた方がいいのかな?』
『いや、ふむ……それはソラに任せるのじゃ』
銀のイフリーダは組んでいた腕をほどき笑う。
『どちらにしてもソラが、それを持てるほどの力をつけてからなのじゃ』
『そうだね。今は持ち上げることも出来ないから、使う以前の話だね』
その後、気持ちを切り替え、石の短剣で骨の棒を削ることにした。まだ朝日が昇っていないような薄暗い闇に閉ざされた時間だ。どうしても出来る作業が限られてしまう。
「むむむ、何の音なのです」
骨の棒を削っている音で、学ぶ赤が目覚めたようだ。昨日も同じことをしていたと思ったのだが、もしかすると昨日よりも眠りが浅かったのだろうか。
「学ぶ赤さん、目覚めたんですね。お昼まではまだ時間がありますよ」
「ふぁむ。寒いと体が上手く動かないのです」
今日はスコルに寄り添って眠っていなかったようだ。寒さに弱いのだろう、それが眠りの浅かった原因なのかもしれない。
「ソラは何をしているのです?」
完全に目覚めた様子の学ぶ赤がこちらへと歩いてくる。周囲は、まだ薄暗いが、それでも迷いのない歩き方だ。学ぶ赤は暗闇に強いのかもしれない。夜行性の可能性もある。
「骨を削って槍を作っているんです」
「ずいぶんと大変な作業に見えるのです。そこに転がっているものも全て作るのですか?」
骨の棒が十二本ほど転がっている。確かに、これら全てを槍にしたいところだが、作業時間を考えると気が遠くなり、ためらってしまう。
「出来れば、そうしたい……ところです」
「ならば手伝うのです」
学ぶ赤が自分の横に座り、骨の山から骨の棒を一本取る。そして装飾の施された短剣を使って削り始める。
「む、む、むむむ?」
小動物を捌いた後の手入れが悪かったのか、刃に油がまわっているようであまり上手く削れないようだ。それでも石の短剣よりも早く削れている。元々の筋力が違うのかもしれない。
「良ければ、土器の作成とは別に、この作業も行って貰って良いですか?」
「任せるのです」
学ぶ赤が笑って頷く。
朝日が昇った後も作業を続け、太陽が真上に来た辺りで手を止めた。
「お昼にしましょう」
お昼ご飯にする。
「今日は東の森に採取へと向かいますが、学ぶ赤さんは残って作業を続けて貰っても良いですか?」
「分かったのです」
学ぶ赤の返答に少し驚く。
「どうしたのです?」
「いえ、学ぶ赤さんは一緒にきたがると思っていたからです」
「戦士の行動を邪魔はしないのです。私はソラが守る存在ではないと知っているのです」
学ぶ赤は笑っている。
食事を終え、何とか形になった骨の槍と石の斧を持ち、籠を背負う。腰には石の短剣だけだ。本当は水筒を持っていきたいところだが、昨日作ったものはまだ乾燥が足りていない。焼くのは早くても明日になるだろう。
東の森へと踏み入る。
「ガル」
スコルがキョロキョロと周囲の様子を警戒しながら、こちらの後をついてくる。
「まだ危険は残ってそうだね」
東の森をしばらく歩いていると尖った針が飛んできた。すぐさま骨の槍で打ち落とす。
「現れたね」
木の上から、積もった木の葉の隙間から、至る所から小動物が現れる。
「ガルル」
スコルが駆ける。
自分もスコルを追いかけるように駆ける。
『ふむ。小粒でも餌は餌なのじゃ』
骨の槍で小動物を貫く。すぐさま骨の槍を引き抜き、次の小動物を貫く。スコルが前足で小動物の群れをなぎ払う。気分は雑草刈りだ。
叩き潰す石の斧ではなく、鋭い点の攻撃である槍の分、小動物の肉を傷つけない。確かに、これは美味しい餌だ。
『ソラ、右じゃ』
体を捻り、飛んできた針を躱し、そのまま骨の槍で貫く。
次々と現れる小動物を貫いていく。
「でも、多いッ!」
握った骨の槍の重みが辛い。骨の槍を振るう速度が目に見えて遅くなっていく。
さらに小動物が現れる。骨の槍が重い。
「ガル」
自分の場所を狩り飽きたのか、スコルがこちらの目の前へと飛んでくる。そのまま小動物を喰らい、なぎ払い、狩り、刈り尽くす。
「ガアァァァ!」
スコルが威嚇するように大きな声で吼える。その咆哮に怯えたのか、残った小動物たちは飛び去り消えていった。
戦いは終わった。
『ソラは、まだまだ持久力に問題があるのじゃ』
銀のイフリーダが猫耳を動かしながら、うんうんと頷いている。
「そうだね。槍を振るうのが、振るい続けるのが、こんなにも疲れるとは思わなかったよ」
大きく息を吸い、吐き出し、呼吸を整えていく。
「でも、大量だよ」
『うむ。稼げる時に稼いでおくのじゃ』
一息ついた後、小動物の死骸を回収していく。スコルはそのまま無造作に小動物の肉を喰らい、飽きたらマナ結晶が存在している部分だけを囓り取っていた。
今回もスコルに助けられた。一人で戦うには、まだまだ力が足りていないようだ。
それでも……。
「このまま奥に向かうよ」
東の森の奥へと向かい、そこで採取を始める。
探すのは、結局、前回、回収することが出来なかった小さな赤い実、それに細長い木だ。後は、欲を言えば丈夫なツタも欲しい。
周囲を警戒しながら採取を続ける。
水球を飛ばすオオトカゲを倒したのが良かったのか、こちらでは魔獣の姿が見えなかった。
もしかすると小動物だけが異常な繁殖力を持っている例外なのかもしれない。




