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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
禁忌の森

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047 差を埋める

『ソラよ、後ろに大きく飛び退くのじゃ』

 イフリーダの言葉に従い、大きく後方へと飛び退く。


 こちらを発見した骨の王が先ほどまで自分が立っていた場所へと間合いを詰めるように動き、石の両手剣を振り回す。

 石の両手剣が鼻先をかすめる。本当にギリギリだ。


『ソラよ、そのまま走って距離を取るのじゃ』

 イフリーダの言葉を聞き、とにかく距離を取るために駆け出す。

『そのまま振り返って、ヤツの眼孔に神技ジャベリンを放つのじゃ』

 駆けている勢いのまま、無理矢理振り返る。そして、骨の王を視界に捉え、手に持った折れた骨の槍を構える。


 全力で走って逃げたからか、距離は充分だ。


 問題は無理矢理振り返って体勢が崩れていること。しかし、骨の王の動きの速さを考えれば、体勢を立て直す時間すら惜しい。


 この状態でも当てるッ!


 一瞬――瞬時に狙うべき骨の王の眼孔を捕捉し、折れた骨の槍を投げ放つ。折れて先端が無くなってしまっているそれが槍として何処まで機能するか分からない。それでも折れた骨の槍は空気を切り裂き、狙った場所へと飛ぶ。

 そして、キョロキョロと頭を動かし、こちらを探していた骨の王の左の眼孔に、折れた骨の槍がはまった。そう、突き刺さったのではなく、スポッとはまったのだ。


『うむ。よくやったのじゃ!』


 自身の眼孔に骨の槍がはまったことに気付き、気付いてから骨の王が無言の悲鳴を上げる。それは骨の姿で声が出せないはずなのに、声が聞こえてきそうな鬼気迫るものだ。

「まるで人だったら、こうしないと、って思って行動しているみたいだ」

 ただ目が有った部分に骨の槍がはまっただけなのに――とてもではないが、ダメージを与えたとは思えない勢いだったのに、だ。


『これでヤツは左側が見えなくなったと思い込むはずなのじゃ』

 折れた剣を右手に持ち替え、左手には石の短剣を持つ。手持ちの武器はどれも相手に近寄らないと駄目な物ばかりだ。

「イフリーダ、この手持ちの武器が『彼』に通じるかな? 凄く固かったよね」

『うむ。神技を使えば可能なのじゃ』

 確かに神技は、あの固かった大蛇を輪切りにするような、そんな不思議な力を持っていた。イフリーダが出来ると言えば、出来るのだろう。信じるしかない。


「でも相手の懐に入る必要があるんだよね」

『うむ。なのでヤツの視界を奪ったのじゃ』


 骨の王が目の部分にはまっただけの骨の槍を引き抜き、怒ったようにそれを投げ捨てる。その左目の部分から赤い炎が消えていた。


 ――人としての過去に囚われているから、か。


『ソラよ、ヤツがこちらを見失っている間に、死角から近寄るのじゃ』

 イフリーダの言葉に頷き、音を立てないよう慎重に動く。骨の姿である彼がどうやって音を感知しているか分からないが、静かに行動した方が良いはずだ。


 骨の王の死角、右側から近寄る。


 そして、体が勝手に動いた。

『神法エンチャントウェポン』

 イフリーダの言葉にあわせて折れた剣の刃の上を手でなぞる。それに合わせて折れた剣の刃がうっすらと青く輝く。

 そのまま骨の王の背後へと回り込み、うっすらと輝く折れた剣を突き立てた。


 折れた剣が骨の王の背中、黒い鎧に突き刺さる。


『む!』

 イフリーダが少しだけ不快そうな声を上げる。


 そのまま折れた剣を引き抜き、骨の王の背中を蹴り飛ばして距離を取る。


 骨の王の背中には、攻撃が通った証として、黒い鎧に穴が開いていた。

『ソラよ、どうやら大きな一撃が必要なのじゃ』

 しかし、その穴は、黒い鎧から生まれたもやによって、すぐに塞がれてしまった。


『ふむ。ソラよ、予定変更なのじゃ。残ったマナを全て使って大きな一撃をたたき込むのじゃ』

「了解。最初の予定通りだね」

『む。確かに、そうじゃったのじゃ』

 イフリーダは少し苦笑しているようだった。


 骨の王が手に持った石の両手剣をでたらめに振り回す。その勢いは恐ろしく、近寄っただけでも挽肉にされてしまいそうだ。

「近寄れない、ね」

『ならば近寄らせるまでなのじゃ』

 イフリーダの当然というような答えに、少しだけ笑ってしまう。

「了解だよ。どうすればいいの?」

『大声を上げて、ここにいると呼びかけるのじゃ』

 小さく頷く。今までイフリーダとの会話は小声でひそひそと相談するように行っていた。その程度では気付かれなかったということなのだろう。


 すぅっと大きく息を吸い込む。

「ここにいるぞーーーーーッ!!」

 そして、骨の王に呼びかけるように大きく叫ぶ。


 夢中になって石の両手剣を振り回していた骨の王が、その動きを止める。


 そして、こちらを見る。


 肩をふるわせ、怒りに包まれた骨の王が動く。


 迫る。


『死角へと動くのじゃ』

 頷き、動こうとして、足がもつれた。崩れた石畳に足を取られたらしい。

「あっ」

 骨の王が最初に砕いていた石の床。まさか、そんなところにはまるなんて……。


 踏ん張り、なんとか転けることだけは回避する。


 しかし、そこに骨の王の石の両手剣が迫る。


 骨の王はすでにこちらの目の前まで来ていた。


 思考が加速する。


 石の両手剣がゆっくりとした動きで、こちらに迫ってきているのが見えた。


 何でゆっくりに?


 周囲が、全てが、ゆっくりと動いていた。


 死の間際になると時間が引き延ばされる現象があると聞いたことがある。今、自分に起こっていることがそれなのだろうか。


 でも、これをどうすれば……。


 石の両手剣は必殺の軌跡を描いている。


 自分の力では回避出来そうにない。


 イフリーダの力を借りれば、今の状況でも回避が出来るかもしれない。


 しかし、ここでイフリーダの力を使ってしまえば、勝つための手段が無くなるかもしれない。


 それでも死ぬよりは……?


 ……。


 ……。


 本当に自分の力では回避が出来ない?


 そうだろうか?


 思い出せ、考えるんだ。


 大蛇の一撃を受け流した技、神技パリィ。


 加速した時間の中で左手に持った石の短剣を迫る石の両手剣に合わせる。


 タイミングが合えば出来るはず!


 相手の力をそのまま利用して、相手に返す。


 動けッ!


 そして、石の短剣が石の両手剣を弾き飛ばした。


 ただの石の短剣が、恐ろしい膂力によって迫っていた石の両手剣を弾き飛ばしたのだ。


『ソラよ、よくやったのじゃ!』

 そして体が動く。


 加速していた時間が終わり、目で追うのがやっとの世界が戻ってきた。


 その中を勝手に動いた体が駆け抜ける。


『神技――!』

 気付いた時には、うっすらと輝く折れた剣が骨の王の頭を跳ね飛ばしていた。

じゃいあんときりんぐ

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