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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
九重世界

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360 夜明け

 真っ白な世界だ。


 全てが真っ白に変わっている。


 何処までも白――真っ白が広がっている。


 ここは何処だろうか?


 皆はどうなったのだろうか?


 何が起きたのだろうか。


 間に合わなかったのだろうか。


 ここに広がっているのは虚無だろうか。


 ここは――とても虚ろだ。


 何も無く、とても真っ白だ。


 本当に何も無い。


 何も無い世界に自分だけが立っている。


 最後に――どうなったのだろう。


 記憶が虚ろだ。記憶を探る。銀色の……そうだ! 思い出す。


 僕は白と黒のマナを纏った槍で無の女神を貫いたはずだ。確かにマナの結合は砕き、無の女神が喰らい集めていたマナはバラバラになったはずだ。

 レームのおかげで届いたはずだ。


 ……だけど、この世界は何だろう。


 銀のイフリーダの姿も見えない。


 一緒に居たはずのスコルの姿もだ。


 ここは何処だろう。


 彷徨う。


 何処に行けば良いのかも分からない。

 ここが何処かも分からない。


 ただ、彷徨う。


 真っ白で虚ろな世界だ。


 何処まで彷徨っても真っ白な世界が広がっている。


 本当にここは何処なのだろうか。


 彷徨う。


 ただ、彷徨う。


 まるで、迷宮の底を彷徨っていた時のようだ。だが、あの時は周囲に魔獣が居た。今は、その魔獣すら見えない。


 ここに存在するのは、まるで自分だけのようだ。


 虚ろな世界を彷徨う。


 辺り一面、代わり映えのしない真っ白な景色のため、進んでいるのかどうかも分からない。もしかすると進んでいるつもりで同じ場所をぐるぐると回っているだけなのかもしれない。


 ……。


 それでも彷徨う。


 同じ場所にとどまっていても仕方ない。ここが何処かも分からない。こんな何処かも分からない場所でとどまっていても誰かが救援に来てくれるとは思えない。


 ならば進むだけだ。


 幸いにも僕は食事を必要としないし、疲れることもない。いくらでも進み続けることが出来る。


 心が折れない限りは進むことが出来る。


 彷徨い歩く。


 空を飛んで確認しようとするが、その翼が開かない。ここでは良く分からない力が働いているのかもしれない。


 とにかく歩こう。


 歩く。


 彷徨い、歩き続ける。


 もうどれだけの時間歩き続けたのか分からない。


 それでも彷徨い、歩き続ける。


 ここには太陽の光も月の輝きも星の煌めきも、何も見えない。


 虚ろな世界だ。


 指標がなければ時間も分からない。


 まだ、ちょっとしか時間が過ぎていないのかもしれないし、もう何日も経っているのかもしれない。


 分からないが進む。


 諦めることはない。


 進めば何か変わるはずだ。永遠は無い。


 どんなものにも終わりはある。


 ただ、彷徨う。


 真っ白な虚無の世界を歩く。僕が諦めることは無い。


 そうだ。僕は諦めない。


 歩く。

 何処までも歩く。

 いつまでも歩き続ける。


 そもそも、この真っ白な世界はどうなっているのだろう。


 足元を見る。

 足元が真っ白だ。


 改めて自分を見る。

 手を広げたつもりが、そこには何も無い。


 ……自分がない?


 自分の体が無い。

 自分すら真っ白だ。


 何故、気付かなかった?


 何故、今まで気付きもしなかったのだろう。


 自分の体を触れようとして、その手も体もないことに気付く。

 そうだ、腕が無い。

 手が無い。

 体が無い。

 右手も無い。

 そこにあったはずの銀の手は――もちろん、無い。


 何も無い。


 無いことに気付いて、初めて、それを思い出すなんて、本当に、ここは何処だ。


 忘れていた。


 真っ白な虚ろな世界。


 そうだ、おかしい。

 歩いている場合じゃない。


 マナだ。


 何故、忘れていたのだろう。


 マナを見る。


 僕はマナが見える。見えるはずだ。


 この世界は――


 気付く。


 やっと気付く。

 初めて気付く。


 マナ、マナ、マナ、マナ。


 ここはマナの世界だ。


 マナを見たことで、この世界の真の姿が見えてくる。


 何故、忘れていたのだろう。

 僕は目を潰し、マナを見ようと――見ることに特化していたはず、なのに。

 ここはおかしい。


 そう、おかしかった。


 マナで見れば、この虚ろな世界にも存在しているもののあることが分かった。


 中心に巨大な光の柱。

 そして、そこから伸びるように七つの光。


 それぞれ赤、青、緑、黄、紫、黒、白に輝いている。色のついたマナの光は、等間隔で輪になるように並んでいるのに、何故か、その途中の一か所だけ距離が離れていた。


 力を感じる綺麗な輝きの輪だ。


 ここはこんなにもマナに溢れ、マナが輝いているのに、何故、分からなかったのだろう。


 忘れていたのだろう。


 そして、ここは何処だ?

 思い出せ。

 考えろ。


 僕は何をしていた?


 そうだ。

 僕は戦っていた。

 無の女神と戦っていた。

 そして、無の女神が世界を虚無に堕とそうとしていた。だから、それを防ぐために銀のイフリーダの助言の元、僕は無の女神のマナを止めようとしていたはずだ。

 レームの命をかけた行動によって無の女神のマナは停止し、それを白と黒のマナを纏わせた槍で貫いたはずだ。


 そうだ、その後、どうなったのだろう?


 その結果が、このマナの世界?


 ……。


 もしかして、ここは無の女神のマナの中なのか?


 何故?


 何故、そんな場所に?


 槍で貫いたことで取り込まれたのだろうか。


 だけど、分かってしまえば何ということも無い。

 やることは一つだ。


 強く輝く中央のマナを目指し歩く。


 もう彷徨うことは無い。


 目的地はもう見えている。


 何故、こんなにも分かりやすいものを見失っていたのだろう。見ることが出来なかったのだろうか。


 虚無の力……なのだろうか。

 虚無の力が働いていたから?


 虚無に取り込まれること無く、気付くことが出来て良かった。

 幸運だった。


 歩く。

 どれだけ歩いても辿り着かないような距離を歩く。


 ……。


 見えているのに辿り着けない訳がない。これは錯覚だ。


 いや、距離が虚無に消えているのだろうか。


 でも、届くはずだ。

 道はある。


 歩いて行ける。


 信じて進む。


 歩く。


 信じて歩く。


 歩く。


 歩く。


 歩く。


 歩く。


 そして中央のマナに辿り着く。

 そうだ。


 辿り着ける。

 辿り着けた。


 そして、その中央のマナの中には無の女神が眠っていた。いや、これが無の女神のマナ自身。


 マナ生命体である無の女神の本体だ。


 無の女神は、あの僕たちが見た柱の中では無く、自分自身の体の中に自分のマナを入れていたようだ。


 ……それも当然か。


 迷宮という同じ場所に本体が眠っていれば、他の神に何をされるか分かったものじゃ無い。本体を逃がすのは当然の話だ。


 その無の女神が目覚める。


 いや、ここは無の女神のマナ自身。無の女神の世界だ。最初から僕の存在なんて気付いていただろう。


『何の用じゃ』

 無の女神が普通に話しかけてくる。


 その姿は――やはり銀のイフリーダによく似ている。


 話しかける言葉が浮かばない。

 何といえば良いのか分からない。


 最後の神。

 無の女神インフィーディア。


 人の神からの解放のため、神である自身すら滅ぼすつもりの女神。だが、それは世界すら滅ぼす行動だ。人が神から解放されたとしても、虚無に消えてしまえば――意味は無い。


 意味なんて無い。


 それは解放じゃない。


『我の捨てた分体に助けられ、守られ、生き延びるとはのう』

 無の女神の言葉。


 端末。

 銀のイフリーダだ。


 守られた?


『分からぬか。おぬしが虚無に落ちなかったのは分体が守ったからじゃ。じゃが、所詮は我が捨てた端末。それだけで力を失い虚無に消えたようじゃ』

 虚無に消えた?


 守られた?


 まさか、銀のイフリーダが僕を守ってくれた?


 もしかして、僕が、このマナの世界で存在してられるのは銀のイフリーダが守ってくれたから?

 一部の記憶が削られる程度で済んだのは――いや、それすら取り戻すことが出来たのは……銀のイフリーダの?


『おぬしはそこで待つのじゃ。我が消えれば全て終わる。お前たちが望む、人の神からの解放じゃ』

 無の女神インフィーディア。


 この世界に残る最後の神。


 その顔は全てを諦めたもののそれだ。


 僕たちの敵。

 倒すべき最後の敵。

 魔王と組み、僕を陥れた女神。


 なのに、そのはずなのに。


 無の女神は銀のイフリーダとよく似ている。

 銀のイフリーダの本体なのだから、それも当然なのかもしれない。


 僕は……憎むことが出来ない。

 出来なかった。

 迷宮で全てを奪われた時は復讐を誓った。


 でも、だ。


 僕の中に眠る魔王の記憶。

 銀のイフリーダ。


 それに、だ。


 そこで気付く。


 ああ、そうか。

 そうだ。


 そうだった。


 分かった。


 話しかける言葉、だ。


 あるじゃないか。


『人だけではなく、神も解放する』


 そうだ。

 その通りだ。


 違和感があったんだ。


 何故、人を神から解放するのに、全ての神を滅ぼす必要があるんだ。


 ともに生きられるなら、それでも良いじゃ無いか。


 全てか無か、じゃない。


 神も救う。そのマナに縛られた生から解放する。


『おぬし、何を考えているのじゃ』

 無の女神が僕を見る。


『マナを解放する。マナの無い世界を創る』


 無の女神が笑う。

『くくく、何を言うかと思えば、そのようなことを。無駄じゃ。マナを無くす? それこそ我らを滅ぼすことに他ならぬのじゃ』


 そうだ。


 神はマナ生命体だ。


 それは僕だって同じだ。


 マナが無くなれば生きていけない生命体だ。


 だけど、だから、こそだ。


『それでも生きられる世界を創ります』

『無駄じゃ』

『無駄じゃないです』


 無の女神が大きくため息を吐き出す。


『違う、見るのじゃ』

 そう言って無の女神が指差したのは、ここの周りに配置され、等間隔に並ぶマナの光だ。いや、一か所だけ離れている。等間隔になっていない。

 まるで、そこだけ光が抜けているようだ。


 ……。


 七つの光。


『あの光がここに集まれば全ては無に還るのじゃ。おぬしが何かを成す以前の話じゃ』


 光。

 マナの光。


 外で見たのと同じ光景だ。


 無の女神が喰らった八つのマナが無の女神自身のマナに取り込まれれば世界が虚無に堕ちる。

 同じだ。


 ……だけど。


 ここには外で見えていたマナの光が一つ足りない。


 そう、欠けている。


 何故?


 何故だ?


 いや、わかりきっている。


 レームだ。


 レームが可能性を残してくれたんだ。


 レームの命がマナの一つを抑えてくれている。


 出来るはずだ。

 きっと出来るはずだ。


『止めます。あのマナを止めます』

『無駄じゃ。おぬし一人のマナでどうするのじゃ。一つか二つ止めたところで虚無は止まらぬ』

『それでも止めます』

 僕の力では全てのマナを止めることは出来ないだろう。


 それでも、だ。


 無の女神はため息を吐き出し、首を横に振る。

『おぬし自身のマナは強大じゃ。じゃが、抑えることが出来るのは一つじゃ。どれだけマナが強かろうと、おぬし一人では無理じゃ』


 レームが行ったように、その者の命を燃やして抑えこまなければ駄目なのだろう。僕の命は一つしか無い。抑えこむことが出来るのは、後、一か所だけだ。


 僕が一か所を抑えこんだところで、残りの六のマナが集まり終わってしまう。


 でも、このまま何もしないなんて――出来ない!


『それでも、です』

『ふむ。集まるマナが減れば、虚無の力は弱まるじゃろう。もしかすると世界全てが虚無に堕ちずに済むやもしれぬ。じゃが、そのようにして、半端に残った世界でどうするのじゃ。人なぞ、生きることも出来ぬ世界であろう。それは全てが虚無に堕ちるよりも残酷なことと思うのじゃ』


 ……。


 マナを抑えこめば虚無の力は弱まる。それは間違いない。


 でも、だ。


 無の女神が言うように一部だけが――世界という空間が一部だけ残っても、それは終わりだ。

 この世界自体を存続させたいだけなら、それで良いかもしれない。


 でも、人の住めない世界で、ただ世界の一部だけを存続させてどうしようと言うのだ。


 そう、僕が目指しているのはそこじゃない。

 それでは意味が無い。


 でも、どうする。


 僕一人の力では無理だ。


 足りない。


 仲間が必要だ。


 みんなの力が必要だ。


 でも、ここには僕しか居ない。

 ここまでの旅で助けてくれた、みんなが。

 力を貸してくれた、みんなが。

 不思議な縁によって出会った、みんなが。


 ここには……。


 みんなが……。


 ……。

 ……。


 その時だった。


 虚ろな世界に新しいマナの光が生まれる。


 それは僕が知っている姿をしていた。


 それは……。


『うん。ソラが望み、願ったからこそ、たどり着けたのだ』

 それはカノンさんだった。


 蜘蛛の体に人の上半身を持ったメロウのカノンさん。そのカノンさんが、何故か、この虚ろな世界に立っている。


『カノンさん?』

『そうなのだ。私が来たのだ』

 カノンさんが笑う。


『おっと、うちも居るぜ。カノン一人にイイカッコはさせないぜ』

 もう一つ、マナの光が生まれる。


 それは青い翼と鳥の頭を持ったヨクシュ――セツさんだった。


 死んだはずの二人。

 僕が倒した二人。


 その二人が、僕の目の前に立っている。


『任せるのだ』

『うちが止めるぜ』

 二人が周囲のマナの光へと走る。


 そして、マナの光が二つ、消えた。

 これで残り五つ。


『くくく、何やら面白いことが起きているようじゃ』

 無の女神が笑う。

『何が面白い』

『ふむ。おぬしの中に残っていたマナの残滓が意思を持って現れるとは愉快じゃ。マナしか無い、ここだからこそ、か。しかし、まだマナの光は残っているのじゃ。無駄じゃ』


 マナの残滓。


 僕が倒したからこそ、その場にいたからこそ、二人の助けを得ることが出来た。繋がっている。

 繋がっていた。


 奇跡なんかじゃない。


 歩んできた道があったからこそ、だ。


 後、五つ。


 そして、その時だった。


 空間に亀裂が走る。


 虚ろな空間が黒いマナによって斬り裂かれ、開いていく。

 そして、その斬り裂かれた空間から現れたのは――


 ……。


『ガルルル』

 スコルだった。


『グアウグアウ』

 スコルだけじゃない。赤竜も一緒だ。


『スコル、赤竜!』

 二人が現れた。


 それを見た無の女神が笑う。楽しそうに笑う。

『二つのマナが消え、力が弱まった故、入り込まれるとは油断したのじゃ』


 カノンさんとセツさんが道を開いてくれた。そして、スコルと赤竜に繋がった。


『二人ともっ!』

 スコルが小さく頷き、吼える。そして、そのまま光るマナへと駆けていく。赤竜もその後に続き、もう一つの光るマナへと飛ぶ。


 二人ともやるべきことを分かっている。


 知っている。


 それがどんな結果になるかも分かっているのに、僕に力を貸してくれる。


 そして、二人は命の炎を燃やし、光るマナを抑えこむ。


 マナの光が二つ、消える。


 スコル。

 僕が初めて出会った魔獣。最初は敵対していたけれど、戦って、一緒に戦うようになって、あの氷の城で心が通じた。本当に信頼出来る仲間になった。


 赤竜。

 かつてのアイロの仲間だった赤い竜。魔王になる前のアイロが、その親を殺したことで仲間になった。巡り巡って、僕も同じことを……。

 それでも次の国と一緒に僕たちを助けに来てくれた。


 その二人が命を燃やした。


 二人が消えた。


『これで、残りは三つだ!』

 世界は終わらない。終わらせない。


 その虚ろな世界が揺れる。

 閉じようとしていた斬り裂かれた空間が再び開かれる。


 そこから現れたのは――


 一本の剣を咥えた真っ赤な猫だった。

 いや、違う。

 白銀に煌めく剣を持った赤髪の少女だ。


 獣のような耳を持った、その赤髪の少女を僕は知っている。


『もう! 大変だったんだから! これが必要でしょ!』

 ローラだ。赤髪の少女ローラ。


 赤髪の少女がこちらへと剣を放り投げる。


 白銀に煌めく剣を受け取る。


 そう、剣だ。


 僕はこの剣に見覚えがある。


 あの禁域の地で初めて手にした――折れた剣だ。

 折れた剣の刃が加工されている。


 これを行ったのはサザだろう。サザが、あの神が眠る棺を素材として創ったものだろう。


 神殺しの剣。


『それとこれもです』

 その赤髪の少女の後ろから青髪の少女が現れる。彼女から手渡されたのは歯車の球体だ。何処かに消えていた球体が、ここにある。

 青髪の少女ラーラ。魔王アイロの妹と同じ名前を持ったローラの妹。


『ん、どうしたの?』

 ローラには、その姿は見えていないようだ。もしかするとローラの中に残っていたラーラの残滓が、最後の輝きを放っているのかもしれない。


『いや、二人には、ローラとラーラには助けられていると思っただけです』

『ふふん! 当然! なんたって私は天才だから! ラーラはその私の妹だから』

 真っ赤な髪の少女が胸を張る。


『それでどうすればいいの?』

 どうすれば……。


 光っているマナを抑えこむ。だけど、それは命の炎を燃やすことだ。


 それは……。


『ふーん。多分、あの光っているのを止めればいいのね』

 真っ赤な髪の少女がマナの光を見る。

『いや、それは……』

『あのね! 私は!』

 真っ赤な髪の少女がこちらへと詰め寄る。


『私も、あの骨の王子様もそうだけど……私たちはもう終わっているの。本来ならとっくに終わっていたの! だから、これは恩返し? ううん。私がやりたいからやることだから!』

 真っ赤な髪の少女が笑う。


 そのままマナの光へと歩いて行く。こちらへは振り返らない。


 そして、マナの光が消えた。


 その後を追うように、青髪の少女が、こちらへと小さく頭を下げ、もう一つの光るマナへと歩いて行く。


 マナの光が消える。


 二つのマナの光が消えた。


 残るマナの光は一つ。

 これが消えれば、無の女神のマナだけになる。

 僕の手元にあるのは導きの球体と神殺しの剣。


 後は、最後の一つ……。


 その無の女神から光が、そのマナから光が生まれる。

『喰らったはずのマナを道として、何をするつもりじゃ』


 現れたのは学ぶ赤と語る黒、次の国の三人だ。


 蜥蜴のような姿の種族――リュウシュ。


 三人は、無の女神が喰らった水流と門の神ゲーディアのマナを道として、この虚ろな世界に来たのかもしれない。いや、もしかすると、その神自体の最後のあがきとして送り込まれたか。


『ソラ、何も言えないのです』

 学ぶ赤が頭を下げる。それに続くように語る黒も頭を下げる。二人が頭を下げたのを見て、慌てて次の国も頭を下げる。


 戦ったこと。


 仕方なかったことだと思う。


 人は弱い。魔獣と戦うには神の力が必要だった。


 生きるためには、生き残るためには仕方ないことだった。


 だから、僕は、そのことについては何も言わない。

 リュウシュのみんなには助けられた。みんなの助けがあったから、僕は生き延びることが出来た。それを否定したくない。


『頭を上げてください。僕はリュウシュという種族が好きなんです』

 陽気な性格の種族だ。そして義理堅い。


 力は弱いかもしれない。でも、協力することを知っている。


『ソラにはかなわないのです。リュウシュを守ってくれてありがとうなのです。これは最後の恩返しなのです』

『はい』

 笑う。


 僕と、学ぶ赤と語る黒と、ちょっと居心地が悪そうな次の国と、みんなで笑う。


 そして三人が最後の光るマナへと歩いて行く。


 リュウシュの力は弱い。それでも最高の力を持った三人がマナの光を抑えこむ。


 ……。


 そして、全ての光が消えた。


 残るのは無の女神のマナだけだ。


 無のマナ。


 この虚ろな世界の本質。


『最後です。皆の力で、皆が助けてくれて!』

『まだじゃ! まだ我自身のマナがあるのじゃ!』


 僕は首を横に振る。


 終わっている。


 全ての道筋が見えている。


 青髪のラーラが持ってきてくれた歯車の球体。導いてくれている。アイロ――魔王が力を貸してくれているのかもしれない。


 神殺しの剣を握る。


 これで終わりだ。


 虚無の世界を斬る。


 全てが終わる。


 虚無の光が消えていく。

 無の女神インフィーディアのマナが消える。


 消えていく。


 魔王と一緒に生き、魔王のために神を殺し、世界を虚無に堕とそうとした女神のマナが消えていく。


 世界が暗闇に包まれる。


 終わった。


 終わったんだ。


 でも、これで終わりじゃない。


 最後にやることが、やるべきことが残っている。


『どうするのじゃ』

 声が聞こえる。


 懐かしい声。


 無の女神とよく似た声。


『マナの無い世界を、マナを必要としない世界を創る』

 破壊する白銀のマナ。創造する黒のマナ。


 そして、ここには全てのマナがある。


 今しかない。

 今しか出来ない。


 皆の力で抑えこんでいたマナが溢れる。マナたちが僕の周囲を巡る。くるくると楽しそうに回る。


 九つの力が重なる。


 新しい世界を。


 マナのない世界を。


 本当の意味で人が解放される世界を。

 人が自分たちの足で歩いて行ける世界を。


 神もマナから解放される世界を。


 重なった九つのマナが爆発する。


 僕が世界となり、全てを解放する。


 そして、僕を核として、新しい世界が生まれる。


 それはマナの無い世界。


 大地となり、風となり、海となり、空となる。


 命が生まれる。


 海が雨となり大地に自然があふれ広がっていく。


 小さな命。


 悠久の時を経て大地に生まれた命が広がっていく。


 それは人。


 マナの無い世界に生まれたマナを必要としない人。


 人の世が始まる。


 長い長い年月をかけて人の世が、文明が生まれる。


 鍛冶仕事に精を出す大柄な女性。何か変わった壺を創ってニヤニヤとしている人。その人を見て大きなため息を吐いている学者風の女性と無駄に偉そうな人。二人で向かい合って微笑みながら紅茶を飲んでいる仲の良さそうな姉妹。多くの人に囲まれ皆のために頑張っている王子様。色々な人が見える。


 人の世は巡り、流転する。


 人の世界。


 僕は眠る。


 優しい世界を夢みて眠る。


 世界は解放され生まれ変わった。


 僕はまどろみに落ちる。幸せな夢の中、世界へと溶けていく。


 新しい世界。


 これが人の世の夜明けだ。




◇◇◇


 これにてソライフ、完結です。


 全八章、三百六十五話、八十万八千八百八十八文字にて完結です。途中で休まなければ一年ぴったりで終わったんですね。

 まだまだ物語は続きそうですし、最後の余韻も薄いかもしれません。それでも、この物語はこれで終わりです。


 どうでしょう? 面白かったでしょうか?


 書いている自分としては……何というか、ガ○ブレイズウエストみたいな立ち位置の作品になってしまった気がします。商業作品だったら、すぐに打ち切られていそうな感じですよね。それでも最後まで続けることが出来たのは趣味で書いていたから、こそ、でしょうか。

 毎日更新ということもあり(もちろん、書き溜め無しで、毎日、毎日、話を考えて書いていました)それだけで読んでくれていた人も居たのではないでしょうか。

 普通に読めるし、毎日更新だから読んでいる、という人は多かったんじゃないかと思います。ただ、そういうのって、忙しくなって話を追うのが億劫になったり、最新話に追いついてしまったりすると、そこで飽きて切っちゃうパターンも多いんですよね。

 何というか、その程度の作品に思われていたような気もします。


 もちろん、書いている自分は一生懸命です。自分の作品が駄目だと思っている訳じゃあ、断じてありません。そりゃあもう、そんなことを思っていたら毎日更新なんて出来ない訳です。毎日更新って、それくらい、本当に大変なんです。それでも、面白くなるように、何とかならないかと頭を絞っている訳で……。

 絞りすぎてきゅうきゅう言ってそうです。

 きゅうきゅう。

 そういう訳で、この経験が次に生きて、もっともっと面白い作品が書けるようになれば、と思っています。


 長くなりましたが、改めて。

 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。皆様の応援のおかげで最後まで書き切ることが出来ました。


 もし良ければ、次があれば、次の作品にも付き合っていただけたなら幸いです。




 はぁ、これでやっとゆっくりとゲームをすることも、ゆっくりと眠ることも出来そうです。


 それでは、また。

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