344 魔王が創り壊したもの
レームが動く。
動く四角い金属の塊は素早い。四角い金属の腕を振り回し、レームを殴りつける。
レームが転がるように動き、躱し、投げ捨てられたもう一つの剣を拾う。そして、そのまま振り返り、二本の剣を交差するようにして金属の塊へと切りつける。
だが、その交差させた一撃を金属の塊が跳ね返す。随分と硬いようだ。
『くっ』
レームはすぐに後方へと飛び距離を取る。
金属の塊はレームの方を向いている。
その間を狙い、マナを纏わせた矢を放つ。だが、そのマナの輝きごと跳ね返される。
『硬いですね』
『ああ。あれを突破するのは大変そうだ』
硬い。そして素早い。
『ちょっと、どうするの!』
本当にどうしよう。
倒す方法が浮かばない。
近寄って何とかする?
レームの一撃にも反応するような相手に何をするというのだろう。難しい。
単純だが、これ以上無いくらいに嫌な敵だ。もう魔王は目の前だというのに、この程度の相手に邪魔されて進めないなんて……。
魔王の門番は伊達じゃないということか。
どうすれば……?
その時だった。
「任せるのです」
矢が飛ぶ。
矢は僕たちの横を抜け、金属の塊に当たる。その矢はむなしく跳ね返されるが、金属の塊の注意を引くことには成功したようだ。
金属の塊が矢の飛んできた方へと向き直り、動き出す。
その後も次々と矢が飛ぶ。その矢は全て金属の塊の体に跳ね返されてしまうが、注意を引くことには成功している。成功し続けている。
金属の塊が扉の前から動き、次の国へと迫る。
「ここは任せて、早く行くのです」
矢が飛ぶ。
金属の塊の注意を引くように矢が飛ぶ。
矢は跳ね返されている。
「この程度に負けないのです。早く行くのです」
次の国が勝てるとは思えない。
レームの動きに反応するほど素早く、そしてマナの矢すら跳ね返すほど硬い。
『行こう』
レームが僕の肩を掴む。
『しかし……』
『彼が引きつけてくれている間に魔王を倒し、戻ってきて皆で倒す。それが一番だ』
……。
それで良いのだろうか。
次の国を見る。その目は諦めていない。
……そうだ。
次の国の意思を無駄にしてはいけない。進もう。
「必ず戻ってきます」
「気にせず進むのです」
そうだ。
次の国を信じる。そう、これは信じることだ。
レームが扉に手をかけ、それを押し開ける。
それに気付いた金属の塊がこちらへと振りかえる。だが、その金属の塊に次の国の矢が飛ぶ。動く金属の塊は、それに注意を逸らされる。
進もう。
進むべきだ。
レームが開いた扉の先へ抜ける。
すぐに真っ赤な猫とレームも扉を抜けてくる。
先へ。
扉を抜けた先は……階段だった。
上の階層への階段。そう階段だ。
『もう! また階段!』
真っ赤な猫はうんざりとした様子で叫んでいる。
階段を上がる。
そして扉。
扉だ。
扉の向こうに気配がある。強大なマナの気配だ。
間違いなく、この扉の向こうに居る。
待っている。
『ソラ』
レームがこちらを見る。レームも気付いている。
『ええ。この向こうに居ます』
『魔王? ちゃっちゃと倒して、あの蜥蜴を助けに戻ろ!』
居るのは魔王だけじゃない。
『感じるのじゃ。我を感じるのじゃ。我が自分でなくなるような、自分を見失ってしまいそうな力を感じるのじゃ』
銀のイフリーダは気付いている。
銀のイフリーダは銀のイフリーダだ。決して無の女神インフィーディアなんかじゃない。負けて欲しくない。
『ソラ、開けるぞ』
『ええ。頼みます』
レームが扉に手をかける。
そして、ゆっくりと押し開けていく。
扉が開かれていく。
音が流れてくる。
扉が開かれていくとともに音が聞こえてきた。
部屋の中央に蓋の開いた四角い機械、その前に男が座っている。男は機械を必死に叩いている。音はその機械から流れているようだ。機械の横には女がうっとりとした様子で目を閉じ、流れる音に耳を傾けている。その姿は銀のイフリーダによく似ている。
「思ったよりも早い。下の階のゴーレムを突破出来るとは思わなかったが……これは意外だ」
男は音の流れる機械を叩きながらそんなことを言っている。
この部屋に居るのは、この男と女の二人だけだ。スコルの姿は見えない。
「スコルは……」
「ディザスターなら反乱軍の鎮圧に向かわせた。まさか、それが陽動だったとは思わなかったが」
男は音の流れる機械を叩き続けている。
反乱軍?
良く分からないが、スコルとは戦わなくても済みそうだ。好都合だ。魔王を倒した後に事情を説明して分かって貰おう。
『ねぇ、この男が魔王?』
真っ赤な猫の言葉に頷きを返す。
『やっぱり似てるのね』
真っ赤な猫の言葉。誰に、とは聞き返さない。分かっている。似てて当然だ。
僕の体を使っているのだから。
「倒しに来た」
男はこちらへと振り返らない。音の流れる機械を叩き続けている。
「もう少しで演奏が終わるんだ。それまで待てないか」
「ふざけるな!」
素早く矢にマナを纏わせ、放つ。
男を目掛けて矢を放つ。
だが、その矢は、目を閉じ音を聞いていた女に掴まれ、阻まれる。
「使徒とは思えぬ弱き力なのじゃ」
「神の使徒も人手不足か。ますます、あのゴーレムをどうやったのか気になるな」
神の使徒?
この男は何を言っている。
この魔王は何を言っている!
「僕は神の使徒なんかじゃない。僕は、ソラだ!」
魔王に叫ぶ。
僕はこの男に全てを奪われた。
僕が自分の記憶だと思っていたものも――全て偽りだった。
何も無かった。
僕を創ったのはこの男だ。
そして、今の復讐に生きている僕を創ったのも、この男だ。
魔王アイロ。
倒すべき存在。
乗り越える存在。
それが出来て、僕は本当の人になれる。
だから倒す!




