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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命

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342 この世にある地獄の海

 道を探そうと動く。


 しかし、次の国が動かない。


 ……。


 そういえば、マナの言葉で話しただけで次の国に分かる言葉では話していなかった。

「あの螺旋階段への道を探しましょう」

 次の国に伝える。


 だが、次の国は動かない。


「えーっと、どうしました?」

 次の国は、じっと、遠く、中央にある螺旋階段を見ている。

「どうし……」

「あそこに行ければ良いのです」

 次の国は螺旋階段を指差す。

「ええ、そうです。そのための道を……」

「無ければ作るのです」

 次の国が一本の矢を取り出す。その矢には丈夫そうな結った紐が結ばれていた。


 ……。


 今、何処から取り出した?


 いや、それよりも、だ。これなら螺旋階段のある場所へと渡れるかもしれない。何故、次の国が、こんなものを持っていたのかは分からないが、これで渡ることが出来るということが重要だ。


 問題は次の国の弓の腕前だ。


 螺旋階段のある中央の島までは結構な距離がある。以前にリュウシュの国で見た次の国の弓の腕前では届かせるのは難しいだろう。

「大丈夫ですか?」

「任せるのです」


 次の国が足元の床を鏃で叩き割り、そこに矢を差し込む。こちら側の床に差し込んだ矢にも紐が結びつけられている。


 そして、その紐の逆側が繋がった、もう一本の矢を弓に番える。


 次の国が弓を引き絞り、溜める。


 狙う。


 そして、放つ。


 矢に結びつけられた紐が伸びていく。


 黒いマナの池を飛び越えていく。


 伸びる、伸びる。


 これだけの長さの紐が何処にあったのかと思うくらいの勢いで伸びていく。


 そして螺旋階段の前の床を砕き、そこに刺さる。


 長さは丁度。


 こちらから向こう岸に一本の線が架かった。


 ……。


 次の国には驚かされる。


 矢を届かせたこともそうだが、硬そうな床を割るほどの威力で矢を飛ばした力量は驚きだ。それに紐を用意していた準備の良さ。そして、この黒いマナを危険なものだと考え触れずに渡ろうと判断したこと。


 驚きばかりだ。


「これで大丈夫なのです」

 次の国が胸を張っている。無駄に偉そうで、得意気だ。


 ……。


 ただ、まぁ、あれだ。


 紐を持っているなら、そのことを教えて欲しかった。


『へぇ! なかなかやるじゃない! でも、お先!』

 真っ赤な猫が次の国を称賛し、翼を広げる。


 そして、羽ばたかせ飛び上がる。


 空を、黒いマナの池の上を飛んでいく。


『僕も行きます。向こう岸の矢が抜けないか確認します』

 自分も翼を広げ、真っ赤な猫の後を追う。


 そう、僕や真っ赤な猫は空が飛べるのだ。


 紐があるのならば、それを持って空を飛べば良い。


 ま、まぁ、近道が出来たと思うことにしよう。


 黒いマナの池の上を飛び、向こう岸に降り立つ。そして、刺さった矢を確認する。しっかりと地面を抉り突き刺さっている。簡単には抜けそうに無い。なかなか優れた技量だ。


 ……。


 いや、正直に言えば、僕でも難しいくらいの()がかった技だと思う。


 こちら側で――螺旋階段の前で二人を待つ。


 まずは次の国が。紐の上を滑るようにするすると器用にこちらへと渡ってくる。こうしてみると、蜥蜴にしか見えない。


 蜥蜴だ。


 次にレームが紐を伝って来る。危なっかしい手つきでゆっくりと進んでいる。こういったことには慣れていないのだろう。


 鎧が重いのか、紐がたわみ始めた。


 レームが慌てて紐を伝う速度を上げる。だが、紐のたわみは大きくなっていく。


 こちらまではもう少しだ。だが、レームが動く速さよりも紐のたわみの方が大きい。このままだと不味い。


 そして、向こう岸の矢が抜けた。


 紐が落ちる。


 レームが飛ぶ。


 僕が駆ける。


 そして手を伸ばす。


 レームも手を伸ばす。


 翼を広げ、飛ぶ。


 そして、レームの手を掴み、向こう岸へ、螺旋階段のある島へと投げ飛ばす。


 レームが無事に島に乗ったのを確認する。


 だが。


 だが、だ。


 レームを投げ飛ばすために無理をしてしまったのが悪かったようだ。飛んだ勢いが殺せない。このままだと自分が黒いマナの池に落ちる。落ちてしまう。


 落ちる。


 駄目だ。


 覚悟を決めろ。


 意識をしっかりと持て。


 僕は、僕だ。


 そして、黒いマナの池に落ちる。


 体が沈む。


 黒いマナが体を侵食してくる。自分が分からなくなってくる。


 レームが叫んでいるような気がする。


 体が沈む。


 真っ赤な猫が叫んでいるような気がする。


 だが、意識が、色々なものが流れ込んできて、良く分からない。


 分からない。


 体が沈む。


『しっかりするのじゃ!』

 声。


 銀の右手が光り輝く。


 僕は、僕は、僕は……っ!


 意識をしっかりと、そうだ。


 僕は僕だ。


 この黒いマナから……。


 と、そこで気付く。


 この黒いマナが何で作られているのか、何を元にしているのか。


 色々な意識、思い。


『助けて』

『死にたくない』

 生きたいという意識。


『守らないと』

『代わりに……』

 強い想い。


 色々な意識が、淀み、歪み、混じり合っている。


 これは……生き物だ。


 人、動物、植物、魔獣、ありとあらゆる生き物が混じり、マナとなっている。そこにはヒトシュもリュウシュもメロウもヨクシュもない。全てが――マナを持った命が、魂が、混じり合っている。


 こんな、こんなものを使って何をするつもりだ。


 どれだけの命の上に、どれだけの命を使って、何をするつもりだ。


 銀の手を伸ばす。


 伸ばし、崖を掴む。中央の島へ這い上がる。

『ソラ、大丈夫なのか!』

『ちょっと大丈夫なの!』

 すぐにレームと真っ赤な猫が駆けつけてくる。


『え、ええ。何とか』

 声を出すのもやっとだ。いや、声を出すことで自分が、自分という僕が認識され、意識が戻ってくる。


 混濁したものが、消えていく。


 改めて黒いマナの池を見る。


 これは酷い。


 地獄だ。


 これはこの世にあってはならないものだ。

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