318 全てせぴアイロ
「さ、サザはどうするんです?」
獣国を抜けたところでフードのサザに聞いてみる。
「お前たちは?」
しかし、逆に聞かれてしまった。質問に質問で返されてしまった。
……でも、だ。
「公国という場所に、行ってみようと思います」
素直に告げる。
「そうか」
フードのサザが腕を組み、少し何か考えるようなそぶりを見せる。フードのサザが片耳を失った場所。公国は自分たち以外を受け入れない閉鎖した場所だと聞いている。獣人を下に見ているとか、そんな感じだっただろうか。
そして、フードのサザがこちらを見る。
「一緒に行くよ」
え?
公国に行くと決めた時点でフードのサザとは別れることになると思っていた。だから、この答えは意外だった。
「し、しかし……」
フードのサザのなくなった耳の辺りをフードの上から見る。
「言いたいことは分かる。でも気にするな。お前たちの武器の手入れは必要だろう?」
確かに、その通りだ。フードのサザが居てくれれば矢の補充、武器の手入れ――助かることは多い。
「それに、だ。あの国と仲良くなるために向かう訳じゃないだろう?」
フードのサザは、僕の額の辺りを、角を見ている。この姿では、公国の住人と出会っただけで戦いになりそうだ。
サザは分かっているのだろう。
「わ、分かりました」
フードのサザの言う、その通りだ。
公国に向かうのは獣国のように協力を得るためじゃない。
……結局、獣国では協力を得ることは出来なかった訳だが――過ぎたことを、起きてしまったことを考えても仕方ない。
今は公国だ。
公国に向かう理由はセツの言っていたことを確かめるためだ。仲良くするためじゃない。
もし、何かを言ってきたら、敵対するようなら――我慢する必要は無い。
蹴散らすだけだ。
はね除けるだけだ。
フードのサザが頷きを返す。
「公国に向かいます」
目指すは公国。
目的地を公国に定め、旅を続ける。
平原に戻り、そこから公国を目指して進んでいく。
道案内はレームと真っ赤な猫だ。
旅を続ける。
そして、その旅の途中のことだった。
「ほらよ」
フードのサザからある物を受け取る。
それは光り輝く魔獣の鱗を連ねた帯のようなものだった。何処かで見たような鱗だ。
「こ、これは?」
「額当てだよ。お前の、そのそれ、目立つだろ? これを付けておけば装飾に見えるだろうからさ」
フードのサザから額当てを受け取り、身につける。大きさはちょうど良い。ちょっとおしゃれでつけている感じに見える。確かに、これなら、額にある角も装飾の一部だと思って貰えるかもしれない。
でも、だ。
サザはこの額当ての素材を何処で手に入れたのだろうか。倒した魔獣? 確かに旅の途中で魔獣と戦っている。しかし、このような鱗のある魔獣とは戦っていない。なかなかに力を感じる鱗だ。
「こ、これを何処で?」
「あ、ああん? 何処かの偉そうにしている偽物から貰ったのさ」
……。
……。
見覚えがあるはずだ。これは獣王が身につけていた外套と同じ素材だ。フードのサザは貰ったと言っているが、本当に貰ったわけじゃないだろう。
なんということだ。
獣王は国を無くし、剣も壊され、王冠も潰され、そして外套も奪われた。本当に散々だ。
……。
酷いものだ。
だけど同情はしない。
協力ではなく、敵対を選んだのは向こうの選択だ。
これが選択の結果なのだろう。
旅を続ける。
魔獣を狩り、マナ結晶を手に入れ、食らい、旅を続ける。
そして湖が見えてくる。
湖沿いの道を歩いて行く。
『後、どれくらいですか?』
『もうすぐだと思うな』
『そうね! もう! すぐそこ!』
真っ赤な猫は何処か楽しそうだ。跳ねるような様子で湖沿いの道を歩いている。
『ふむ。猫が浮かれているのじゃ』
『だれが、猫よ、誰が! ちょっと懐かしんでいるだけだから!』
真っ赤な猫はこの道を知っているようだ。
跳ねている。
『え?』
そして、その真っ赤な猫の足が止まる。
『どうしました?』
『どうしましたって、あれ、あれ! あそこ!』
真っ赤な猫が器用に前足を持ち上げ、湖の向こう側を指差している。いや、指というよりも伸ばした爪だろうか。
真っ赤な猫が示した先、そこでは一台の馬車が走っていた。だが、様子がおかしい。
感覚を広げ、よく分かるように感じてみれば、馬車の周囲に魔獣のマナが見えた。どうやら魔獣に襲われ、追いかけられているようだ。
『また、ですか』
魔獣に襲われているのを見るのはこれで何度目だろうか。以前の、ヒトシュの地から帰る時の偉そうな人たちも、獣国の前で再会したフードのサザも、魔獣に襲われていた。
『それだけ、凶暴な魔獣が増えているということだろうな』
それだけ良くあることになっているということなのだろう。
『確かにそうですね』
確かにそうなのだろう。だけど、それはこの地に住んでいる人たちも分かっているはずだ。それでも馬車で出かける必要があった? そういうことなのだろうか。
『ちょっと! のんびりと会話してないで! 助けないと!』
真っ赤な猫は今にも飛び出していきそうな勢いだ。
しかし、僕の中にはためらいがある。
ここは、もう公国の近くだ。その住人を助けてもろくなことにならない気がする。もめ事にしかならない気がするのだ。
……。
『ちょっと! ちょっと!』
……。
それでも、か。
『助けましょう』
『ああ、そうだな』
レームが頷く。
何かあったら、その時だ。
助けない後悔よりも助けた後悔だ。




