304 遊びは終わり
新しく現れた毛玉鎧もレームの一撃によって沈む。やはりあまり強くない。どの毛玉鎧も同じくらいの強さのようだ。
「なんと弟たちが!」
「魔王軍だな!」
そこに新しい毛玉鎧が二つ追加される。六人兄弟ということならこれで最後だろう。
『最後みたいですよ』
『あ、ああ。そのようだな』
レームは少しだけほっとしているようだ。
『毛むくじゃらで気持ち悪いのも終わりなのじゃ』
『臭そうだよね』
銀のイフリーダと真っ赤な猫は好き勝手に酷いことを言っている。
「弟たちよ、起きろ!」
「我らの力を見せる時だ!」
新しく現れた二人の毛玉鎧の言葉に反応して倒れていた毛玉鎧たちがよろよろと起き上がる。
『ま、まだ起き上がれるんだね』
『あ、ああ。この頑丈さだけは目を見張るものがあるな』
どの毛玉鎧たちも気絶していたと思ったのに……回復が早すぎる。
「ああ、弟よ、すまない」
「助かったぞ、弟よ」
「弟たちの声で目が覚めたぞ」
「弟たちもやられていたのか!」
目覚めた毛玉鎧たちが集合する。
「ん? 弟はお前だろう?」
「いや、何を言っている弟よ」
「いやいや、お前の方が弟だろう」
「遠慮なく兄と呼んで良いぞ」
何やら毛玉鎧たちは誰が弟かで言い争っている。
『ソラ、どうする?』
『蹴散らして良いのでは?』
このままにしても延々と同じことを繰り返していそうだ。
レームがゆっくりと動く。それに気付いた毛玉鎧たちは、やっと言い争っている場合じゃないと気付いたようだ。
「弟たちよ、魔王の騎士が!」
「そうだ、弟よ、言い争っている場合ではない!」
「ああ、弟よ! 我らの必殺の技を」
「ああ、弟たちよ行くぞ」
「弟たちよ、例のあれだ」
「ああ、この兄に任せるのだ」
とてもうるさい。
そして、毛玉鎧たちが丸くなる。手足、膝を抱え、丸まる。
「行くぞ!!!!!!」
六人が叫ぶ。
そして、縦横無尽に転がる。
六つの毛玉鎧が本当の球となって転がる。
おそろしいはやさだ。
レームを見れば、呆れた様子で肩を竦めている。
転がり迫る毛玉鎧。レームが素早く剣を逆手に持つ。そして、柄を、石突を伸ばす。
転がり迫る毛玉鎧の一つが石突と衝突する。
「ごぱぁ」
毛玉鎧の回転が止まる。
「ごぽぉ」
次の毛玉鎧が回転の止まった毛玉鎧にぶつかる。
「ごぺぇ」
次の毛玉鎧もぶつかる。
「ごふぅ」
次々とぶつかっていく。
「ごっぷ」
毛玉鎧の球が連なっていく。
「ごぷぷ」
最後の毛玉鎧がぶつかる。
連なった団子が出来上がる。毛玉鎧がばらばらと崩れ落ちる。
『曲芸だな』
『ですね。これが剣の石突ではなかったら大変なことに』
『ふむ。槍で串刺しにすれば良かったのじゃ』
『串刺し団子ね!』
本当にただの曲芸だ。
「くっ、お、おのれ……魔王軍め……」
倒れていた毛玉鎧の一つがよろよろと立ち上がる。本当に頑丈な連中だ。
『やれやれだな』
レームが肩を竦め、剣を構える。
……。
僕は、そのレームの肩に手をのせ、前へと出る。
「そ、そこの従者! お、お前、な、何を!」
立ち上がった毛玉鎧がこちらを見ている。
その毛玉鎧の顔に、顎に、下から上へと銀の手による拳を――思いっきり打ち上げる。毛玉鎧が飛ぶ。
空へと打ち上がる。
落ちてこない。
飛ぶ。
「ま、まだやる?」
よろよろと起き上がろうとしていた毛玉鎧たちが必死に首を横に振っている。
そして、やっと毛玉鎧が落ちてくる。それを片手で受け止める。死んではいない。
「偉い人、よ、呼んで来て」
倒れていた毛玉鎧たちが必死に頷き、立ち上がる。本当に頑丈だ。そして、そのまま逃げるように駆け出す。
「し、しばらく待ちましょう」
「はぁ、どうなってるんだよ」
フードのサザがため息を吐きながらその場に座り込む。状況が把握できていないだろうに、なかなか豪胆だ。
皆で門の前で座り、くつろいでいると、武装した一団がやって来た。今度は先ほどとは違い、金属製の鎧だ。革製品から金属製品に品質が向上している。特に一団の中央を歩いている初老の男の金属鎧には豪華な装飾が施され――その姿はとても偉そうに見えた。
武装した一団の先頭には先ほどの毛玉鎧の姿が見える。この毛玉鎧が、この一団を呼んだのだろう。
『ガーヴ将軍……』
レームが呟く。
『知っているの?』
『何言っているの! 有名じゃない』
真っ赤な猫でも知っているくらい有名な人物のようだ。
「襲撃してきた魔王軍とは君たちかね」
将軍が話しかけてくる。いきなり攻撃を仕掛けてこないのはこちらを侮っているからだろうか。
「い、いいえ。魔王軍では、ない。襲撃は、そちらから」
一応、答えるだけ答えてみる。
「ふむぅ。それは本当かね」
将軍が先頭に立っている毛玉鎧に話しかける。
「え、あの、はい。い、いえ、違うでありますです」
毛玉鎧が困ったようにキョロキョロと周囲を見回しながら頷いている。
「こ、こちらが本気なら、そ、そっちは全滅している」
「それは面白い」
将軍が目を細める。
それを見たレームが剣に手をのせ、立ち上がる。そして、軽く一礼をする。その次の瞬間には動いていた。
剣を抜き放ち、将軍へと斬りかかっている。
「む!」
将軍が剣を抜き、その一撃を受け止める。
『さすがだ』
そう、この将軍はレームの一撃を受け止めた。
「なるほど。なかなかの一撃のようだ。だがっ!」
将軍がレームの剣を弾く。慌ててレームが後方へと飛ぶ。そして、レームは、その剣を鞘に収めた。
「む。まだ勝負は……」
レームが将軍の剣を指差す。
将軍が自分の剣を見る。そこには小さなヒビが入っていた。
「これは参った!」
将軍が腹を抱えて笑う。楽しそうに笑う。
「なるほど、確かに、確かに。魔王軍ではないようだ」
将軍が笑っている。




