287 星火燎原
爛れ人たちはこちらへと祈りを捧げているように見える。
こちらと敵対する気は無いようだ。この状態なら、この爛れ人たちを蹴散らすのは簡単だろう。それこそ草を刈るように簡単に蹴散らせるだろう。だが、敵意のない相手を蹂躙していくのは何か違う気がする。
「な、なに? ど、どうして?」
話しかける。答えを求めて話しかける。だが、反応は返ってこない。爛れ人は頭を下げたままだ。こちらの言葉が分からないのだろうか?
……。
しばらく待っても答えは返ってこなかった。
……仕方ない。
このまま、この場を抜けていこう。
頭を伏せ、丸くなっている爛れ人の横を抜けていく。反応はない。一心不乱に祈っている。
僕に祈りを捧げて何になるというのだろうか。こちらに何かの救いを求めているのかもしれないが、僕が出来ることなんて殆ど無い。それこそ、喰らうことしか出来ない。
丸くなった爛れ人を横目に海草の森を進む。
『戦いが避けられたのは良かったよね』
『ふむ。これらはマナが濁っていて不味そうなのじゃ』
銀のイフリーダは臭いものでも見るかのような目で爛れ人たちを見ている。
確かに。爛れ人のマナは濁っている。でも、心なしか以前の時よりも濁りが少なくなっているような気がする。いや、だけど、以前の時は今ほどしっかりとマナが見えていなかった。もしかすると気のせいかもしれない。
分からない。
海草の森を進む。
しばらく歩き続けると岩壁が見えてきた。岩壁にはところどころ大きな横穴が開いている。あの横穴の中が爛れ人の巣なのだろう。
わざわざ巣に踏み込む必要は無い。このまま進もう。
横穴の開いた岩壁を横目に海草の森を進む。すると、その横穴から爛れ人たちが現れた。次々と這い出てくる。
どうやって感知したかのか、こちらの存在に気付いているようだ。こちらを目指して蠢いている。
現れた爛れ人の中には槍だけではなく巨大な金属の棍棒を持った個体もいる。
今度こそ戦いは避けられ無いだろう。
倒すしかない。
世界樹の弓に矢を番え、引き絞る。まずは先制攻撃だ。狙う。
そして放つ。
マナの力を纏った矢が空間を斬り裂き飛ぶ。そして、そのまま爛れ人たちを貫くかと思われた矢が弾かれる。
見れば爛れ人を守るかのようにマナの力を秘めた壁が生まれていた。この壁が矢を弾いたのだろう。
『神法?』
『うむ。そのようじゃ。これらが神法を使えるとは思えないのじゃ。何かが隠れているのじゃ』
銀のイフリーダの言葉に頷きを返し、周囲を探る。
だが、どれだけ探知範囲を広げてもそれらしきマナは感知できなかった。見えるのは魔獣と爛れ人だけだ。
自然現象?
そんなはずがない。
何らかの意思が働いて爛れ人たちを守っている。だが、それが何なのか分からない。
横穴から這い出た爛れ人たちが武器を手にこちらへ迫る。何かに誘導されるように僕の方へと駆けてくる。爛れた体で鈍重なように見えて意外と早い。
すでに弓の間合いではない。世界樹の木剣を握る。マナを消費してしまうので出来れば使いたくなかったが仕方ない。
このまま倒す。
……。
剣の間合い。
巨大な金属の棍棒を持った個体が動く。
来るか!?
……。
その個体が巨大な金属の棍棒を投げ捨て膝を付いた。そして、祈るように頭を下げ、丸くなる。
え?
こちらへと迫ってきていた爛れ人たちが次々と膝を付き丸くなっていく。
その姿はまるで僕に祈りを捧げているかのようだった。最初に出会った集団と同じだ。
『どういうこと?』
『わからぬのじゃ。先ほどまではこれらに敵意があったのじゃ。明確な戦意を感じていたのじゃ』
そう、武器を持って襲いかかってきていた。
それがどうして、急に?
何だろう、この反応は。
何か、何だか、気持ち悪い。
戦って勝った。戦って負けた。意思と意思のぶつかり合い――それは分かる。必然だ。
何だろう。
どうにも爛れ人の意思がねじ曲げられているような感じがする。いや、この爛れ人に意思と呼べるようなものがあるのかは分からないけれど、それでも気持ち悪い。
この奥に、この谷の奥に進めば答えがあるのだろうか。
……。
首を横に振る。
そこには答えが無いと思う。
そこで待っているものは違うものだ。答えはここにない。
答えが分からないのに、進まないと駄目なのはとても気持ち悪い。
だけど、仕方ない。
進むべき場所はそこにしかない。
僕の知らないところで色々な思惑が交差している。あいつが何を考えているのかも分からない。
ここに働いている意思も力も分からない。
……。
奥に進もう。
丸くなって動かない爛れ人を横目に海草の森を進む。
目的地はもう見えている。
体調不良のため、明日の更新12月13日木曜日をお休みします。
次回更新は12月14日金曜日の予定になります。




