271 禁域へ
レームが金色の篭手に包まれた骨の拳をこちらへと伸ばす。
だから、銀の右手を伸ばす。
拳と拳を打ち合わせる。
『ソラ、酷い格好じゃないか』
『レームほどじゃない』
二人とも姿も形も変わってしまっている。それでも友情は変わらない。
『そこに何故、我を混ぜるのじゃ』
拳を打ち付けられた銀のイフリーダがぼやいている。
『それは、イフリーダも仲間だからかな』
銀のイフリーダが肩を竦めている。それはもちろん頭の中に浮かぶ姿でしかない。
『ソラ、今、何か少女の幻が見えたのだが』
しかし、その姿はレームにも見えたようだ。レームは、一度死んだことで、もう一つの瞳を得たのかも知れない。
『レーム、紹介するよ。銀のイフリーダだよ。僕の銀の右手が彼女だよ』
『あ、ああ。そうなのか。ソラは……なんというか、相変わらずだな』
骸骨の顔でありながら、何処か呆れた様子を漂わせ、レームがこちらを見ている。
『うむ。もっと言ってやるのじゃ。こやつは随分と非常識なのじゃ』
レームと銀のイフリーダが会話をしている。
なんだか不思議な光景だ。
『それで、ソラはどうするつもりだ?』
拳を下ろした骸骨姿のレームが改めてこちらを見る。以前は見下ろされる形だった視線が同じ高さになっている。
相手は骨だけれど。
『禁域の地の奥に向かう』
僕が成長して同じ高さになったのだったら、どれだけ良かったか。
『禁域の地の奥へ? あのソラの名前を騙っているものを何とかしないのか?』
『そのために、だよ。あいつが目指しているのは迷宮の奥深く――神の打倒だ。だから、僕は禁域の地の奥へ行く必要がある』
『分かった。付き合おう』
骸骨姿のレームが頷く。
そして、周囲を見回す。
『ソラ、少し待って貰っても良いだろうか?』
『良いけど、どうしたの?』
レームが片手を上げる。
その手に墓標のように刺さっていた剣たちが集まっていく。
『皆を連れて行く。自分と一緒に戦った仲間だ。本当はこの戦いに参加してくれた全てのものを連れていきたいが、それは、その思いだけにする』
剣が集まり、そして消えた。
何処に消えたのだろうか?
知らない間にレームは不思議なことが出来るようになったようだ。これも一度死んだことによる変化なのだろうか。
『すまない、待たせた』
首を横に振る。
『待ってないよ。行こう』
歩き出す。
……と、そうだ。
『レーム。そこに暴れ馬が。レームが乗りなよ』
暴れ馬をレームに譲ろう。
『良いのか?』
『良いんだ。確かに馬の魔獣は便利だけど、僕は思い出したんだ。レームと出会って思い出したんだ。だから、暴れ馬はレームが乗るべきだ』
思い出した。
僕にはスコルが居る。
確かに都市の廃墟で出会った時は最悪の出会いになったけれど。でも、レームと出会って思い出したんだ。
スコルと確かな絆があったはずだ。
思い出した。
だから、僕はこれで良いんだ。
それに……。
『僕には新しく翼があるからね。それにだよ、今の僕は随分と歩くのも速くなったんだよ』
『分かった。ソラの言葉に甘えるよ』
金色の騎士鎧を着込んだレームが暴れ馬に飛び乗る。暴れ馬は大人しくしている。その顔を金色の篭手が撫でる。
暴れ馬はぶるりと体を震わせ、いなないている。
『ソラ。良い馬だ』
『そうだよ』
二人で駆ける。
いや二人じゃない。
レームと、レームの仲間と、イフリーダと、それに暴れ馬だ。
皆で駆ける。
目指すは禁域の地の奥。
平原を駆ける。
何故か、平原に転がっていた鎧がなくなっている。まるで僕たちのために道を開けてくれたかのようになくなっている。
駆ける。
平原を抜ける。
丘を越え、森を目指す。
禁域の地。
始まりの場所。
僕にとって全てが始まった場所。
懐かしい場所。
駆ける。
森に踏み入る。
以前はあった境界線が消えている。それだけの月日が経っているのだろう。境界線が消え、混じってしまっている。
もう区切られていない。
こうなってしまうと、どこからが禁域の地なのか分からなくなる。森に入ったところからが禁域の地で良いのだろうか。
いや、違う。ここは、もう禁域ではないんだ。
開かれた場所だということだ。
だから、これからは――ここからは、ただの森だ。
まずはかつての拠点を目指そう。
そして、そこが危険な場所になっているようなら、出来る限り見つからないように、その場所を避け、奥へと向かう。
見つかる?
誰に見つかることを恐れている?
……まだ、信じて貰える自信が無い?
首を横に振る。
危険は避けよう。




