259 戦
目の前に立っているのは銀色の髪を持った少女。
銀のイフリーダ。
まずは一射。
祝砲代わりに弓を空へと向け、放つ。矢が暗闇の空へと吸い込まれていく。
『では、行きます』
『うむ。かかってくるのじゃ』
銀のイフリーダが、その髪と同じ輝きを持つ銀の槍と銀の剣を構える。銀のイフリーダとの距離は一歩でも踏み込めば届く――剣の間合いだ。
かかって、か。
でも、こちらの武器は弓と矢だけだ。
その利点は離れたところから攻撃できる――それだけだ。銀のイフリーダの言葉通りに突っ込む必要はない。距離を取るべきだ。銀のイフリーダも、そう考えているはず。
だから、あえて踏み込む。
弓に矢を番え、そのまま身を沈め、一歩前へと踏み込む。
『なんじゃ、と!』
銀のイフリーダが驚きの声を上げる。だが、すぐに反応する。銀のイフリーダはこちらの半分くらいの小さな背の高さでありながら、大きく剣を持ち上げ、手首を回し、石突をこちらへと向ける。
殴られる。
だけど!
世界樹の弓で銀の剣の柄を受け流す。刃の部分でなければ、こんなものっ!
そして、そのまま弓を回し、弦を引き絞る。
矢を放つ。
『弓と矢の扱いを知らぬと見えるのじゃ!』
近距離――いや、零距離。密着して放たれた矢。
放たれることによって本来ならば加わるはずの加速の力が得られない。
銀のイフリーダはニヤリと笑い、その体で矢を受け止める。銀のイフリーダの体であれば、この程度は跳ね返せると踏んでのことだろう。
でもっ!
衝撃。
銀のイフリーダの体が吹き飛び、宙へと舞い上がる。
この弓はマナが伝わりやすい世界樹製の特別な弓。
矢を放ったのではない!
矢を放つと同時にそこからマナの衝撃を流し込んだ。矢はマナの力を送るための導線でしかない。
……。
空中にあった銀のイフリーダが、その身を猫のようにくるりと回し、ゆっくりと着地する。
……負傷はしていないようだ。
銀のイフリーダを吹き飛ばしたことで間合いは開いた。槍も剣も届かない距離だ。
『よくも……やってくれたのじゃ』
銀のイフリーダが猫のような瞳をつり上げ、こちらを見る。
『少しは驚いてくれた?』
笑う。
銀のイフリーダを見て、笑う。
表情。
そうだ、表情を作る。作ろう。
『我の力を侮ると後悔することになるのじゃ』
銀のイフリーダが動く。
銀の剣を宙へと投げ、そして銀の槍を水平に構え、身を深く沈める。
侮ってなんていない。銀のイフリーダの力は僕が一番知っている。
そう、それこそ、本当に身をもって知っている。
だから、弓に矢を番える。
『ふむ。おぬしは、この距離、弓の間合いと見ているようじゃ』
銀のイフリーダが吹き飛んだことで間合いはかなり開いた。いくら長さのある槍とは言っても、ここまでは届かない。
『じゃが、それは間違いだと思い知るのじゃ!』
銀のイフリーダが突きを放つ。
槍が伸びでもしない限りは届かない距離だ。だが、僕は躱す。
自分が立っていた場所を何かが抜ける。それは銀の槍が生み出した衝撃波だった。
彼女たちが神技と呼んでいるマナの力を使った技だろう。
でも……。
『その力は知っている』
銀のイフリーダの手の内は知っている。
『ふむ。躱すとは……じゃが、まだまだこれからなのじゃ』
銀のイフリーダから何度も突きが放たれる。そのどれもが間合いを――距離を無視した攻撃だ。
届かないはずなのに、まるで槍が伸びているかのように届く驚異の連続突き。
躱しきることは出来ない。
何度も突きを受ける。その度に体が削られ、肉片が飛ぶ――飛び散る。
『最初から、そんなにマナを消費して大丈夫?』
技を使えば使うだけマナを消費する。マナ生命体である銀のイフリーダにとって、それは自分の命を削るのと同じことだ。
『ふむ。人の心配よりも自分の心配をするのじゃ。こちらの消耗よりも、そちらが削れる方が早いのじゃ』
体が削れていく。
だけど、銀のイフリーダも分かっているはずだ。マナ生命体にとって体なんて意味を成さない。
こんなものはっ!
体が再生していく。マナが削られた体を埋めていく。
その上からさらに削られていく。
その恐ろしい破壊力の連続突きを無視し弓に矢を番える。その矢に添えた手が削られ、吹き飛ぶ。その側から手を作り、伸ばし、弓を引き絞る。
関係ない。
弓を強く、強く、強く引き絞る。
マナの力を込める。
放つ。
マナの力を纏った矢が空間を穿ち飛ぶ。
『無駄じゃ!』
だが、その矢はいつの間にか、銀のイフリーダのその手に握られていた銀の剣によって軌道を逸らされていた。
神技パリィ。
矢ですら弾くとは……。
武器の持ち替えも早い。こちらが気付く、その前に、ま……!
『終わりなのじゃ』
いつの間にか目の前に銀のイフリーダが立っていた。その手には銀の剣が……っ!
『終焉の神技オメガクラスタじゃ!』
無数の斬撃が飛ぶ。
剣の軌跡が無限とも思える煌めきを描いていく。
自分の体が細切れになっていく。
砕け散る。
でも……。
それだけだ。
僕の中に蓄えられたマナの煌めきが体を作り直していく。再生していく。
『まだまだ大丈夫です』
それを見た銀のイフリーダは後ろへと飛び退き、片目を閉じてこちらを見る。
『おぬし、どれだけのマナを蓄えているのじゃ』
『そうですね。この階層の魔獣全てを喰らい尽くすほどだと思います』
銀のイフリーダが猫のような耳をぴくぴくと動かし笑う。唇の端を持ち上げ笑う。
『化け物め、それがどれだけのマナの量だと思っているのじゃ』
『まだ、これからですよね』
だから、こちらも笑う。
楽しい。
ずっと楽しくて、楽しくてしょうがない。
あの銀のイフリーダと戦えている。
僕が戦っている。
こんな体になったけれど、こんな体になったから戦えている。
対等だ。




