228 金獅子
「えーっと、そのヒトシュの人は何処に居ますか?」
「この城の中に……案内するのです」
炎の手さんが案内してくれるようだ。
「スコル、ありがとう。遊んでくるといいよ」
「ガルル」
ここまで運んでくれたスコルが小さく頷き、何処かへと駆け出す。お昼ご飯を探しに行ったのだろうか。今度は変なものを拾ってこないと良いな。
とりあえず帰ってきたら体を洗ってあげよう。
「私は食事にするのだ」
「お、何を食べるんだよ。うちにも頼むぜ」
カノンさんとセツさんはご飯にするようだ。なんだかんだで仲の良い二人のようだ。
……食事?
そういえば食事の用意は誰がやっているのだろうか? 語る黒さんかな? 語る黒さんは語る黒さんで治療から食事から、と一人でやることが多く大変そうだ。
「食事の用意は語る黒さんですか?」
そこでカノンさんが腕を組み得意気に胸を張る。
「料理の仕方は習ったのだ」
どうやらカノンさんが自分で作っているようだ。本当に何でも出来て凄い人だ。
「おっ、それならうちの分も頼むぜ」
「何を言っているのだ。作り方を教えるので自分の分は自分で作るのだ」
「おいおい、うちのこの手じゃ、そんな器用なこと出来ないぜ」
セツさんが翼を広げて不器用さを訴えている。
器用に棍を扱っていた人が不器用だとは思えない。
「うん。ならお前は食事抜きなのだ」
カノンさんは腕を組んだままニヤリと笑い、城の方へと大きな蜘蛛足を動かして歩いて行く。
「お、おい、待てよ。カノン、待てよ」
その後をセツさんが追いかけていく。
本当に仲の良い二人だ。
さて、と。
自分も城の中に、その例のヒトシュに会いに向かおう。
「戦士の王、まずはこちらなのです」
炎の手さんの案内で奥の部屋へと進む。
そこで待っていたのは……。
「ああ、王様じゃん」
亡霊だった。
ここは城の中にある鍛冶作業場だ。
「えーっと……」
「まずは武器なのです」
炎の手さんが山のようになっている剣の束から一つの剣を取り出す。剣の束だ。自分がヒトシュの地に行っている間にどれだけ作り続けていたのだろうか。
「あ、ああ!? 王様、また武器を壊したんだ」
亡霊はこちらを見て笑っている。何がおかしいのだろうか。
「今回は違いますよ」
炎の手さんから剣を受け取る。それはヒトシュの地に旅立った時と変わったように見えない、量産品の剣だった。
「これは?」
「品質を一定に保つ練習で作った剣なのです。以前のものと品質は変わらないのです」
つまり、普通だっていうことだ。
「あ、ああ。そうだ、王様、ちょうど良かった。これを見てくれよ」
亡霊が見せてくれたもの。
それは胸元に大きな傷のある漆黒の鎧だった。そして、何故か角が折れている。
と、そこで気付く。
腰に差している黒い剣。
マナを受け付けない。
もしかして、この鎧の角を削って短剣を作ったのか? 間違いなくそうだろう。なるほど、あの鎧の金属で作られた短剣なら、優れた性能だったのも頷ける話だ。
「その鎧が?」
「ああ。王様が持って帰ってきた鎧さ。王様でも身につけられるように間接部を加工したのさ。これなら、これから王様が成長して大きくなっても大丈夫なのさ」
亡霊がフードを跳ね上げ、得意気に鼻の下をこすっていた。
鎧、か。
「ありがとうございます。今度、活用しようと思います」
だけど、今は鎧よりも剣と槍なんだよね。
それに鎧は重くなりそうで、今の自分には使いこなせない気がする。
とりあえず受け取った量産の剣を背中の鞘に差し込む。剣はまるで最初から鞘に合わせて作ってあったかのようにしっかりとはまる。
同じ品質を目指したと言うことだが、同じものが自分の手元に戻ってきたようにしか感じられない。これはこれで恐ろしい技術だ。
金属に通した熱、空気の送り方、金属の調子によって品質はいくらでも変わるはずだ。なのに違いを感じられないなんて……。
量産品なのに、恐ろしく手間がかかっている。
「それでは、改めて案内するのです」
改めて、その負傷していたヒトシュのところへと案内してくれるようだ。
炎の手さんの後をついていく。
案内されたのはリュウシュの皆さんが眠る時に使っている石のように硬いベッドが並ぶ部屋だった。
そして、そこに居たのはうんざりしたような顔の語る黒さんと、その語る黒さんに話しかけている若い男だった。
若いと言っても自分ほどじゃない。でも、中年と呼ぶにはかわいそうな年齢だ。
語る黒さんがこちらに気付き、安堵のため息を吐き出す。
「戦士の王、良かったのです。待っていたのです」
「あー、語る黒さん、今、戻りました。その人が例のヒトシュですか?」
語る黒さんがヒトシュの男性を振り払い、こちらへとやって来る。
「そうなのです。何を言っているのか分からない、しかも付きまとわれる、眠る暇も無いと困っていたのです。ここは戦士の王に任せて、私は眠るのです」
リュウシュの皆さんはお昼近くまで眠ることが殆どだ。早朝を過ぎたくらいの、今の、この時間に起きているのは辛いだろう。
……それを言ったら炎の手さんも同じか。二人ともお疲れ様です。
「分かりました。自分が話を聞きます。語る黒さん、お疲れ様でした」
「ええ、戦士の王、頼んだのです」
語る黒さんは一つため息を吐き出し、部屋を出て行った。
さて、と。
さあ、この人はどんな感じなのだろうか。
「えーっと、言葉は通じますか?」
真っ赤な猫耳のローラに習ったヒトシュの言葉で話しかける。
「おお! やっと言葉の通じる人が!」
どうやら通じるようだ。
今は元気なようだが、スコルが運んできた時は負傷していたということだし、何があったのだろうか。
「それで……」
「すまない、少年。先ほどの方にお礼を伝えてくれないだろうか。それと、出来れば、ここの王と話が出来ないだろうか? 王がいないというのであれば、誰か、ここをまとめている人と話がしたい」
男がこちらへと駆けてくる。
勢いが凄い。
さらさらの金の髪をもった荒々しくも整った容姿の男だ。ヒトシュにしては、そこまで横暴な感じはしない。
いや、話を聞かず、一方的に自分のことを言い出すのは同じか。この辺はヒトシュの習性なのかもしれない。
「戦士の王、このヒトシュはなんと言っているのです?」
隣に立っていた炎の手さんが聞いてくる。
「えーっと、とりあえず助けてくれたお礼が言いたい、と。それと、後はここの偉い人と話がしたいらしいです」
それを聞いた炎の手さんは、ため息を吐き出し、ゆっくりとこちらを見る。
じーっと見つめている。
「えーっと、炎の手さん?」
「ここで一番偉いのは戦士の王なのです。『王』に任せたのです」
えーっと。
とても偉い人に対しての態度じゃないと思います。
面倒ごとを押しつけられた気分です。




