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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
終焉迷宮

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226 二人の戦い

「えー、まずはカノンさんですが……」

 と、そこで炎の手さんの方を見る。炎の手さんが無言で頷く。


「お任せします。その……湧いたお湯をどう使うか分からないですけれど、好きにしてください」


 カノンさんが腕を組み、楽しそうな顔で笑う。

「任されたのだ。すぐに里のものを呼んで完成させるのだ。その前に食事にするのだ」

 カノンさんは満足そうだ。


 これで問題の一つは終わった。


 次の問題だ。


 翼をこすり合わせていたヨクシュのセツさんの方へと振り向く。

「えーっと、セツさんたちヨクシュの皆さんは、配下に入りたいということでしたが……」

「そうそう、うちらは王様の下につきたいってね」

 鳥と同じ形の頭をしているので、その表情はよく分からない。ただ、多分、笑っているのだろう。


「配下というのは分かりませんが、良き隣人としてお互い協力し合って、仲良く暮らしていきましょう」

「王よ、それは……」

 セツさんの父親であるカンさんが鳥の頭はわなわなと震わせている。


「おやじ、王様はうちらに配慮してくれてるんだと思うぜ。いいじゃん、うちはさ、仲良くやるって王様の考え、良いことだと思うぜ」

 セツさんが、その翼でカンさんの背中を楽しそうにばんばんと叩いている。


「こ、こら、セツ、止めなさい。分かりました。このカン、王の配慮、感謝するです」

 カンさんがその鳥の頭を下げる。


「それでは、私はヨクシュの里に帰ります。王よ、何かあれば、そちらのセツに。セツ、王の配下としてしっかりと働けです」

「わーてる、わーってるぜ。しっかりと働くよ」

 セツさんが翼をパタパタと振っている。それを見たカンさんが小さくため息を吐いていた。


「では!」

 カンさんが皆から少し離れ、その翼を大きく広げしゃがみ込む。そして、竜巻のような渦巻く風とともに一気に空へと舞い上がった。

 カンさんは一瞬にして舞い上がった遙か上空で、その大きな手を、翼を広げ、西の森へと飛んでいく。


 空を舞う民――ヨクシュ。確かに、自由に空を飛べるというのは大きな利点かもしれない。正直、少しうらやましいくらいだ。


「さて、と。小うるさいおやじも消えたことだしぃ!」

 セツさんが手に持った棍をこちらへと向ける。

「王様、やろうぜ!」

 鷲のような鋭い眼光でこちらを見る。そして、その嘴を歪めニヤリと笑う。


「やる?」

「ああ、そうだぜ。戦おうぜ」

 セツさんが棍を構える。


「戦う理由は? 僕の力を試すためですか?」

「理由? まさかまさか、今更、王様の力を疑うなんてしないんだぜ。うちの力をその身で知ってもらった方が、配下として動かしやすいと思ってだぜ」

 セツさんは適材適所、適材適所と呟いている。


 確かに、そうなのかもしれない。


 背中の剣へと手を伸ばす。そして、そこに剣が無いことを思い出す。ああ、そうだった。ここに来る時にも同じことをやったのに、なんてことだ。


「すいません。今は剣が無いので、またにしませんか?」

 それを聞いた炎の手さんが大きく目を見開きこちらを見る。そして、大きなため息を吐き出していた。


 いや、今回は、自分は悪くないと思う。


 仕方が無かったんだ。


「えー、王様。剣以外でもいいじゃん」

 セツさんはふてくされたように棍を上下に揺らしている。


「お前の実力を見せるだけなら私が相手をするのだ。食事前の軽い運動なのだ」

 笑いながらカノンさんが動く。

「へぇー、うち相手に軽い運動ねぇ」

 カノンさんとセツさんがお互いに向き合う。


「えーっと、カノンさん……」

「ソラ、気にする必要は無いのだ。こいつは、ただ、戦いたいだけなのだ。救いようのない戦闘狂なのだ」

「おいおい、それをお前(カノン)が言うのか、よ!」

 そして、セツさんが動く。最後の「よ」と同時にカノンさんの人の姿をした上半身、その眼前へと棍が突き出される。離れていたはずの間合いが一瞬にして詰まっている。まるで棍が伸びたかのような、そんな錯覚すら覚えるほどの動きだ。


「ふん、動かないのかよ」

「当てる気のない攻撃に動く必要は無いのだ」

 その言葉とともにカノンさんが細身の剣を引き抜く。その剣は、変わらず、細く長く、反り返り、簡単に折れそうだった。まるで美術品のような、実用性を感じさせない剣。だが、達人のカノンさんが使えば恐ろしい武器と化す。


 そして、戦いが始まった。


 見ているだけで震えが来るような戦い。


 カノンさんの神速の一撃をセツさんが棍で受け、そのまま棍を回し弾く。そして、そのまま棍を叩きつける。カノンさんが蜘蛛の前足を持ち上げ、その一撃を躱す。セツさんの強く重い一撃によって地面が打ち砕かれる。


 その翼で空を飛んでいるだけあって、セツさんはかなりの力持ちのようだ。


「うちの棍は全てを跳ね返す。知ってたはずだぜ」

「腕が落ちていないか確かめたのだ」


 セツさんが棍を水平に構え突きを放つ。何度も突きを放つ。その一撃、一撃をカノンさんが手に持った細身の剣で受け流していく。


 棍の軸がずらされ、棍が滑る。カノンさんが、その隙を狙い剣を振るう。

「あめぇ!」

 滑った棍を地面に、そこを支柱として、セツさんが空へと舞い上がる。


 翼を広げ飛ぶ。


「ちっ」

 カノンさんが小さく舌打ちをし、剣を鞘に収める。空を飛んでいるセツさんには剣は届かない。


 そして、カノンさんが、鞘から滑らせるように剣を引き抜く。神速の抜刀。


 マナの流れが見える自分には、その剣がマナの輝きに包まれたように見えた。


 抜刀された剣から衝撃波が放たれる。空を飛ぶ、セツさんへと衝撃波が飛ぶ。セツさんは翼を広げ急旋回を行い、その衝撃波を躱す。カノンさんは剣を鞘に収め、次々と衝撃波を放っていく。


「空はうちらのフィールドだぜ。そんなお遊び当たらないよ」

「しかし、お前も攻撃できないのだ」

「ああ、そうだね!」


 セツさんが棍を構え急降下する。カノンさんがそれを迎え撃つように剣を振るう。


 剣が、カノンさんの剣が、セツさんの眼前を抜ける。届かなかった? 間を見誤った? 違う。セツさんが空中で制止している。


 そして、そのままカノンさんの背後へと回り込む。

「後ろががら空きだぜ」

「そうでもないのだ」

 カノンさんが蜘蛛のお尻を持ち上げ、そこから糸を飛ばす。とっさにセツさんが棍を構え、糸を受け止める。


「ちっ、相変わらず厄介だよ!」

「それはこちらの言葉なのだ」


 カノンさんとセツさんの戦いは続く。それは真剣勝負なのに、何処か遊びのような、お互いの手の内を見せ合っているような、そんな勝負だった。もしかすると、自分のために、お互いの技を出し合っているのかもしれない。


「それで、戦士の王に聞きたいのです」

 二人の戦いを観戦している自分の隣に、いつの間にか炎の手さんが立っていた。

「えーっと、何でしょう?」

「剣をどうしたのです?」

 炎の手さんがこちらを見ている。


 えーっと、その……。


 今回は壊したわけじゃ無いから!

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