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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
禁忌の森

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021 苦難

「朝?」

 シェルターの中へと差し込んできた朝日の眩しさに目が覚める。のそのそと這うようにシェルターから外へと出る。そして、そのまま湖まで歩き、顔を洗い、寝ぼけた頭を覚醒させる。


 目覚めた後、いつものように魚を捕ろうとして、手元に木の槍がないことに気付く。


「ああ、そう言えば、昨日……」

 的代わりにしていた木まで歩く。そこには昨日と同じ姿のままで木の槍が突き刺さっていた。

「ただ木の棒の先を削っただけなのに」

 改めて木に刺さった木の槍を見る。深く、しっかりと突き刺さっている。普通にこれだけのことをやろうとしたら、どれだけの力が必要になるだろうか。


 突き刺さった木の槍を握り、引っ張る。しかし抜けない。


 木に足をかけ、思いっきり引っ張る。

「ぐ、ぎぎぎ」

 そして、木の槍が、抜けた。


 そのまま、その勢いで後ろへと転がりそうになるのを、踏ん張り耐える。

「ふぅ、やっと抜けたよ」

 引き抜いた木の槍を見る。あれだけ強い勢いで木に刺さっていたのに、そこに新しい傷は見えなかった。

 木の槍を構え、突き、振り回してみる。

「うん、問題ないね。ここの木ってずいぶんと丈夫なんだね」


 引き抜いた木の槍を手に、湖へと向かう。いつものように魚を捕ろうとして、木の槍を構え、そして異変に気付く。

「魚の影が見えない」


 探す。


 湖の底まで見通すほどの気持ちで目を凝らし、わずかな動きも見逃さないように、魚影を探す。


 しかし、魚の姿が見えない。


 湖に沿って魚影を探して歩くが、やはり、その姿が見えない。

「何で? まさか、捕りすぎて警戒された?」

 どれだけ探しても魚の姿は見えない。


「何で、何で、何で!」

 魚を探す。


 必死になって魚の影を探す。


 しかし何処にもその姿は見えず、そのまま、その場所へと座り込む。

「こんな、こんな……」

 木の槍に縋るように、うなだれ座り込む。

「何で、こんな、上手くいったと思ったら、すぐに、すぐにっ!」

 拳を振り上げる。


 ……。


『ふむ。ソラよ……』

 そんな自分の姿を心配したのか、こちらへと猫姿のイフリーダがてこてこと歩いてくる。その姿を見て、少しだけ、へこんでいた気持ちが和らぐ。


 振り上げた拳をゆっくりと降ろし、大きく息を吸い、吐き出す。


 そして、立ち上がる。

「うん、イフリーダ、大丈夫だよ。ある程度は予想していたことだからね。ちょっと予想していたよりも早かっただけ、うん。それに最悪、湖に潜って魚を探してもいいからね」

 まだ、大丈夫だ。


 この程度では、足は止まらない。


「今日は食事抜きかな。まずは、昨日作った土器を確認して、それを焼こう」


 粘土で作った器はほどよく乾燥しており、軽く叩いてみると、かつんかつんと良い音を立てていた。


 その中から特に出来が良い土器を4つほど選ぶ。


 釜の中に残っていた炭を掻き出し、その奥に乾燥した4つの土器を並べる。土器を並べた後、蓋をするように枯れ枝を詰めていく。そして、火を点ける。

「これで上手くいくと嬉しいな」

『ふむ。楽しみなのじゃ』

「そうだね。楽しみだよ。ということで練習を始めようかな」


 力を入れずリラックスした状態で木の槍を構える。


 放つ。


 ただ投げ放っただけの木の槍が空気を切り裂き、渦巻くような風とともに飛ぶ。


 木の槍が的代わりの木に深く突き刺さる。貫通こそしていないが、恐ろしい威力だ。

「ただの木の槍でこれって、凄いよね」

『うむ。故に神の技なのじゃ』


 木に足をかけ、木の槍を引き抜く。


 そして、もう一度、構えて投げ放つ。


 木の槍は、今度も、的代わりの木にしっかりと深く刺さった。

「これなら、いける」

 力をこめないと引き抜けないほど、強く、深く、刺さった木の槍を見る。そして、イフリーダの方を見る。

「明日、挑戦するよ。魚が捕れなくなった以上、狩り場を広げないと不味いからね。体力が残っている今しかないと思うんだ」

『うむ。分かったのじゃ』


 その後、様子を見て釜の火を消し、冷やす為の時間をおいてから、中の土器の様子を確認する。

 煤で汚れた土器。


 一つがひび割れて壊れ、一つはぐにゃりと形が曲がってしまっていた。

「これは駄目だ」

 残った二つを取り出す。


 煤で汚れている為、ぱっと見でしか分からないが、しっかりと焼けているように見える。そのまま湖まで運び、洗う。

 湖で洗っていると、そのうちの一つが水漏れすることが分かった。穴が開いているようには見えなかったが、底の方からポツリポツリとしずくがこぼれている。

「はぁ、こっちは食べ物とかの保管用かな」

 もう一つの土器は、水漏れすることなく、その中にしっかりと水を貯めている。

「こっちは成功だね。これは一度沸騰させた水を保管する用かな」

『ふむ。ソラよ、どうなのじゃ』

「一部が成功で、一部が失敗かな。今回失敗した理由を考えて、次はもっと上手くやるよ」

『うむ。それが良いのじゃ』


 その後、明日に備え、木の槍の手入れを行って眠りについた。


 そして、翌日。


 目が覚め、シェルターの外に出てみると、その近くに小動物の死骸が投げ捨てられていた。

「これは……?」

 思わず森の方を見る。そして、もう一度、小動物の死骸を見る。首筋に何か尖った、鋭い牙のようなもので貫かれた痕がある。そして、その首筋からお腹へと切り裂かれ、一部、中の内臓がはみ出ていた。


「ありがたく貰っておこう」

 小動物を取る。そして、まな板代わりの石の上に置く。


 かなり切れ味が蘇った折れた剣を使って毛皮を剥ぎ、内臓を取り出し、洗って串を通す。体の中に、本来あるはずのマナ結晶が見えなかった。この小動物を狩った生き物が、マナ結晶だけは取り出したのだろう。


 火を起こし、小動物の肉を焼く。

「うん。戦いの前の活力だね。空腹で戦うことになると思っていたから、ありがたいよ」


 焼けた小動物の肉を囓る。


 味は……前回と変わらない。

「調味料が欲しいなぁ」

 それでも夢中になって食べる。


「一番、重要な調味料はあるんだけどね」

 昨日は何も食べていない。空腹が一番の調味料だ。


 食事を終え、戦いの準備を行う。手には木の槍と折れた剣。背中に9本の木の槍を縛り付ける。結構な長さがある木の槍を持っているため、機動力が犠牲になってしまうが、こればっかりは仕方ない。

「考えて動こう」


 戦うための準備を終え、東の森へと踏み入る。

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