表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
希望の谷

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

202/365

199 届かなかった

 神技リベリオン。


 相手が強ければ強いほど、その差を埋める――こちらの力が増す反逆の神技。


 この一撃が、自分の足りない力を補ってくれる。


 氷雪姫の一撃が黒い鎧を斬る。


 ヤツの兜に取り付けられた角が切断され宙を舞い、黒い鎧の胴に深い傷を作る。


 硬く全てを跳ね返す鎧に傷を穿つ。


 ……。


 だが、それだけだ。


「まさか、この漆黒の鎧に傷を付ける者がいるとは……実力を見誤っていたようだ」


 それだけだッ!


 届かなかった。


 届かなかったッ!


 黒い鎧が片手で持った戦斧を振り上げる。


 やばいっ!


 とっさに氷雪姫を持ち上げ、上段水平に構える。


 その一瞬の間に戦斧が振り下ろされた。


 氷雪姫で黒い鎧の一撃を受け止める。


 黒い鎧の戦斧と氷雪姫がぶつかり合う。氷雪姫の纏った冷気が戦斧を伝い凍らせていく。


「なかなか面白い武器(・・)を持っているようだ」

 受け止めた氷雪姫に強く激しい圧力がのしかかる。


 とっさにもう片方の手で氷雪姫の刃を持ち、その力を受け止める。


 こちらは両手、相手は片手なのに、その力に、氷雪姫が押し込まれそうになる。


 相手は重さも速度も乗せることが出来ない、ぶつかり合った状態なのに、片手なのに、なのに力で負けている。


 氷雪姫が相手の戦斧に負けているとは思わない。相手の戦斧には氷雪姫が持つ特別な力が宿っているようにも見えない。


 ただの、大きく、重く、硬い斧だ。


 だが、これは……。


 氷雪姫ごと押し込まれそうになっている。


 武器の質や技術以前の問題だ。


 単純な力で――基礎の部分で相手に負けている。


 そして――


 氷雪姫が砕けた。


 相手の戦斧を受け止めていた部分から砕け、氷となって舞い散る。


 このまま戦斧を振り下ろされたら、自分の体は真っ二つに切断されてしまう。


 ……。


 一瞬。


 だが、一瞬、相手の動きが遅れた。


 とっさに転がるように後ろへと逃げる。


 何が、何が黒い鎧の一撃を遅らせた?


 見れば、黒い鎧の戦斧を持った手が凍り付いていた。


 氷雪姫が持っていた氷の力が黒い鎧の一撃を遅らせたのか……。


 でも、それだけだ。


 黒い鎧が戦斧を持った手を振り払う。それだけでまとわりついていた氷が吹き飛んだ。


 氷雪姫の力でも、一撃を、たった一撃を防ぐことしか出来なかった。


 黒い鎧が戦斧を構える。


 後ろに逃げ、相手との距離をとった。だが、そんなものは巨大な戦斧の前では一瞬で消えてしまう距離だ。


 どうする?


 目の前で戦斧を構えた黒い鎧は強敵だ。


 ……カノンさんに勝った相手だ。強敵なのは分かっていたはずだ。


 でも、この強さは予想外だ。


 もう武器がない。緑鋼の槍は半ばから斬られ、氷雪姫は砕け散った。錬金小瓶の破片を使った盾もない。


 もう武器がない。


 何か神法を、見よう見まねで攻撃の神法を使う?


 相手の鎧は硬く、神法を受け付けない。


 ……詰み、だ。


 今の自分では勝てない。逃げるべきだ。命さえ繋げば、いつか勝つことは出来る。


 今は逃げるべきだ。


 逃げ道を探し、周囲を見回す。黒い鎧と一緒に居た爛れ人たちは戦いから逃れるように伏せて動かない。海草の森の方なら……。


 と、そこで真っ赤な猫耳の存在に気付く。


 真っ赤な猫耳は驚いた表情のまま、こちらと黒い鎧を見比べている。


 ここで逃げれば、真っ赤な猫耳を見捨てることになる。自分が逃げれば、この真っ赤な猫耳は助からないだろう。だが、真っ赤な猫耳は命をかけると言っていた。覚悟の上のはずだ。


 真っ赤な猫耳は、こちらの視線に気付いたのか、その顔をこちらへと向けた。


 真っ赤な猫耳の驚いた表情がゆっくりと変わっていく。


 笑顔だ。頷き、全てを受け入れ、理解し、それでも微笑んでいる。自分が逃げるつもりになっているのが分かったのだろう。それでも微笑んでいる。


 その笑顔を見た瞬間、決まった。決めた。


 氷雪姫を構える。氷雪姫は、刃が砕け、その半ばから先がなくなっている。この氷雪姫はもともと折れた剣だった。今の半分しか刃がない状態は――馴染みのある長さだ。


 もともとの折れた剣と同じだ。


 うん、使い慣れている。


 刃が折れていても、

 刃が砕け散っていても、

 それでも戦える。


 真っ赤な猫耳が大きく、その目を見開く。


「な、なんで逃げない!」

 真っ赤な猫耳が叫ぶ。


「勝つから、です!」

 だから、叫び返す。


「そのまま逃げるつもりならば見逃そうと思ったが……」

 黒い鎧が動く。


 見ろ、見ろ、見ろ。


 早いと言っても限度がある。動きには予兆が――兆しがある。


 一瞬にして間合いを詰められ、その流れのまま振り下ろされた戦斧の一撃が迫る。


 受け止めては駄目だ、受け流せっ!


 折れた剣で相手の戦斧を受け流す。そのまま回り込むように体を動かし、一撃を回避する。黒い鎧の戦斧の一撃が地面に突き刺さる。


 回避……した。


 何とか一撃を逸らした。


 だが、まだ、たった一撃だ。


 黒い鎧が地面に刺さった戦斧を引き抜く。


 次の一撃を予想しろっ! 自分ならどうする?


 大きく飛び退く。


 その目の前を戦斧の横薙ぎが通り過ぎる。受け流せない一撃。飛び退いていなければ体が上下半分に分かれていただろう。


 考えろ、考えるんだ。


 相手の一撃は、早く、重い。だが、連撃はなく、その軌道も単純だ。攻撃さえ予想できれば回避出来る。


 考えるんだ。


 振り下ろされた戦斧の一撃を受け流す。一瞬でも間を見誤れば切断されてしまう一撃。だが、同じだ。黒い鎧の一撃は単純で、その力に任せたものだ。


 予想通り。予想さえ、判断さえ間違えなければ、回避出来る。


 くそっ。


 相手との力の差に飲まれなければ、その圧力に負けなければ、無茶な攻撃をしなければ、最初から冷静に対処していれば――武器を失うことなんて無かったのに。


 悔やまれる。


 よく見て予想する。


 必至の一撃を、迫る死の一撃を、躱す。一瞬でも判断が遅れれば、間違えば、そこにあるのは死だ。


 それでも、それでもっ!


 相手の攻撃は単純だ。力任せの振り下ろし、横薙ぎ――回避出来るはずだ。


 何とかしてやるっ!


 躱す。


 何とか、躱す。


 ……?


 待てよ。


 何で、そんな単純な攻撃しかしてこないんだ?


 武器の重さに振り回されているから?


 それなら両手で扱えば良い。


 何で、片手で扱っている?


 それにこちらの位置を大まかにしか把握できていないような力任せの一撃……。


 そこに助けられて、何とか回避出来ている。


 何故だ?


 何故?


 相手の腕を見る。片方の腕が動いていない。


 戦斧を片手で持ちたくて持っていたんじゃない。片手でしか持てなかったんだ。両手ではなく、片手だから単純な一撃になってしまう。


 何故?


 そんなのは分かっている。


 カノンさんだ。


 カノンさんがヤツの片手を封じてくれていた。


 ……。


 今、自分の命があるのは、黒い鎧の一撃を何とか回避出来ているのは、全てカノンさんのおかげだ。


 そして、黒い鎧の動きを見て分かったことがある。あの兜で顔を隠し、分からなくなっているが、多分、ヤツは目が見えない。だから、大まかな位置への攻撃しか出来ないんだ。


 それでもこちらを圧倒するほどの強さ。


 ……でも、もし、最初から、このことが分かっていれば、手元に武器が残っている状態だったなら、まだ勝てたかもしれない。


 冷静に行動していればっ!


 せっかくカノンさんが作ってくれていた好機を無駄にしてしまった。


 どうすれば、どうやって勝てば……。


『うむ。苦戦しているようなのじゃ』

 と、そこで頭の中に声が響いた。

『イフリーダ!』

『うむ。待たせたのじゃ。よく生き延びたのじゃ』

 銀のイフリーダが姿を現す。まるで最初からそこに居たかのように自分の隣で笑っている。


『さあ、アレを倒して、その奥に眠る強大なマナを手に入れるのじゃ』

 頷く。


 銀のイフリーダが自分の首に手を回す。


 体が動く。


『まずは、そこの小動物に話しかけるのじゃ』

 小動物って……。


 真っ赤な猫耳のことか。


「おーい、聞こえる?」

「と、突然、何?」

 真っ赤な猫耳はよく分からないという表情をこちらに向けている。自分だって、この真っ赤な猫耳に話しかけるの理由なんて分からない。


「聖者の遺産を探す理由って何?」

「今は、そんなことはっ!」

 話しかけながら駆ける。


 黒い鎧の動きが鈍い。どう反応したらよいのか迷っているような動きだ。


 駆け、駆けながら、地面を蹴り上げる。


 土と一緒にキラキラと輝く何かが舞い上がる。盾に使った錬金小瓶の破片?


 黒い鎧が何故か錬金小瓶の破片に反応し、そちらへと戦斧を振るう。

『目が見えぬあやつには、あれが、あの先に人が居るように見えているのじゃ』

 何故、錬金小瓶の先に人が居ると?


 分からない。分からないが、これは大きな隙だ。


 駆け、黒い鎧の懐へと入り込む。


 しかし、武器がない。せっかくの好機。しかし、何も出来ない。

『イフリーダ!』

『うむ。任せるのじゃ』


 銀のイフリーダが自分の体から離れる。


 何を?


 何が?


 そして、そのまま銀のイフリーダが黒い鎧に取り付いた。


 その瞬間、黒い鎧の体が、びくんと跳ね、そのまま崩れ落ちた。


『イフリーダ、何を?』

『マナを喰らったのじゃ。これは、もう、ただの抜け殻なのじゃ』


 確かに銀のイフリーダはマナの結晶を喰らう。でも、そんな生きている人から喰らえるのか?


『マナの流れを乱す鎧が厄介だったのじゃ。じゃが、ソラがそれに傷を作ってくれたことで通すことが出来たのじゃ』

 黒い鎧の胸についた傷を見る。


 自分の一撃が、神技リベリオンが穿った傷。


 無駄ではなかった?


 でも、それでも、銀のイフリーダが居なければ勝つことは出来なかった。


 こんな方法、自分一人では使えない。


『さあ、ソラ。これが守っていた強大なマナを手にするのじゃ』


 ……。


 首を横に振る。


 考えている時じゃない。そうだ。今は最後の強大なマナを手に入れないと……。

美味しいところを持っていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ