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しるこ地獄  作者: gojo
第四部 しるこ地獄
91/93

八十九、最後にすべきこと

 …………


 ……………………


 体がベタベタする。


 しるこの感触とは違う。


 目を開けると、ジョニーが目の前におり、僕の体には餅がこびり付いていた。


「どうなっているんだ……」


「おう、目を覚ましたか。爆発が起きた直後に、通用口から餅を投げ縄にしてお前の体を拾ったんだよ。幸いしるこの神はお前の体から離れていた。いやあ、奇跡の一瞬だったね」


「神は? 小次郎はどうなった!」


 僕の言葉を聞いたジョニーは無言で僕の背後を指差した。

 振り返ると、そこには岩の乗った巨大な鍋、シルコロシアムがあった。岩の形は綺麗に蓋の形をしており、隙間なくシルコロシアムを封じている。


「俺はさあ、土砂で埋まるような感じになると思ってたんだけど。凄えな、これ」


「お婆々様の指定した爆弾の設置箇所は絶妙だったんだね……」


 しるこの神、小次郎は封印されたんだ。


 感慨深くその光景を見つめていると、ジョニーがまた話し掛けてきた。


「折れた足を餅で固定しといたぞ。ギプスみたいなもんだ。それで歩けるはずだ」


「餅はそういう使い方をするものじゃないだろ。食べるものだ」


「しるこを散々投げ倒してたお前が言うなよ。さて、俺はリアルに帰るかな」


「僕とお母さんと一緒に、しるこの海に飛び込むか?」


 そう言うと、彼は笑いながら手を振った。


「いや! 実は俺の帰る海はそこじゃねえんだ」


「え? 意味が分からないよ。どういうことだ?」


「こっちの世界に来るとき、しるこがなかったから雑煮で毒を飲んだんだ。お陰で俺はしるこ町の隣、雑煮町に辿り着いた。そこからこの町まで走って来たんだよ。つまりだな。俺の出口はそっちにある。雑煮町の雑煮の海に飛び込むつもりだ」


 そ、そうなんだ。隣に町、あったんだ。へえ。そう思い、尋ねる。


「だからジョニーは餅を持っていたんだね」


「そうそう。なんせ、俺の本名は雑煮、雑煮伊衛門だからな」


「ありがとう。ジョニーえもん」


「うるせえ。あばよ。現実世界でまた会おう」


 ジョニーは二本の指を額の近くで軽く振り、去っていった。


 さて、僕も帰らなくてはいけない。


 母を現実世界に連れ戻す。それがこの世界に来た本来の目的だ。

 僕は、母はどこにいるんだ、と強く念じた。すると頭の中に光が灯り、景色が見えてきた。人のいなくなった商店街、溶けた町役場、崩れたしるこヶ丘、その映像はしるこ町のあちこちの廃墟を巡り、最後に僕の家を映した。

 母が一人でしるこを食べている。

 最後の最後で千里眼を使いこなせるようになったみたいだ。


 僕は立ち上がった。全身痛むが普通に歩くことは出来そうだ。

 そして、家へ向かった。



 僕が自分の家を思い出すと、それは決まって夕暮れ時の景色だった。

 しかし今、目の前にある僕の家は昼の光を浴びて、明るい。

 扉を開ける。


「ただいま」


 そう言っても返事はない。


 居間の襖を開ける。

 母は、まだしるこを食べていた。



 いつものように不味そうに。



「小次郎を封印したよ。お母さん、一緒に帰ろう」



 地獄はもうすぐ終わる。


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