八十二、目指せ、世界新記録!
やはり、僕達の作戦は完全に知られていた。
僕とジョニーはすぐに逃げようとした。今ならしるこの神との距離がある。
ところが、しるこババアが確実に追ってくるまで引き付けろと囁いた。併せて、爆弾は捨てるなとも言う。こんな重い荷物を持って走るなんて不利だ。
「よいか、そろそろ行くぞ。左のその道へ走るのじゃ…………今じゃ!」
僕達は一気に走り出した。
しるこヶ丘には登らず、西から丘を迂回するように進む。
しるこの神は追ってきた。ただし、禅在はついてこない。
「お婆々様! どうしますか。作戦は完全に知られていました」
「うむ。お主の母の千里眼は高性能じゃったなあ。今も見られているじゃろう」
「婆さん。暢気なこと言ってるな! さすがにこの状況はまずいだろ!」
僕達は全力で走りながら会話をした。
「良いか。走りながら良く聞け。これは予想通りの展開じゃ。確かに作戦は完全に知られていた。むしろ、お主の母を相手に隠れて作戦を遂行するなぞ不可能じゃ。じゃから偽の計画を組んだ。あやつらは、祭りを『待つ』と言った。実際、ジョニーの家に不意打ち出来たじゃろうに、それをしなかった。ならばいつ動く?」
僕は即答する。
「一対一の決闘に来ないことは知っていたのですから、今日!」
「冴えておるのう。走って脳の血の巡りが良くなっているのではないか? そして先程も言った通り、今もお主の母はわしらの会話を聞いておる。じゃが、神はわしらのすぐ背後におる。今更、新たな情報を得たところで何も指示は出来ん。ジョニー質問じゃ。お主ならば、今日の早朝、決戦の待ち伏せにあの神を送り出す時、どんな指示を出す」
名指しで質問されたジョニーが苛立たしげに返事をする。
「あ? 回りくどい! 正解は?」
「おそらく、楽しんで来い、暴れて来い、しるこで殺せ、そんなところじゃろう。見よ! 神は嬉しそうに追い掛けて来ておるぞ」
しるこババアは嬉しそうにそう言うが、僕はそれどころではなかった。
「振り返る余裕はないですよ! それで、この後はどうするんですか?」
「このままシルコロシアムへ行くぞよ。そして一旦は全員で中に入り、その後、一人は残り神の足止めをして、二人は丘を登り崖を爆破する」
「一人で足止めですか? しかも爆破の前に逃げるのですよね。無茶ですよ」
「そうじゃな。それも爆破の前ではない。直前じゃ。逃げるのが早過ぎれば、神はシルコロシアムの外壁と床以外をしるこにして、階段でも作って余裕で脱出するじゃろう。とは言え、この量の爆弾を一人で運び、設置、爆破なんていうのは、余程不可能じゃ」
ジョニーが叫ぶ。
「足止めは俺が向いてる! 餅でグルグル巻きにすりゃあ良いんだ!」
「わしもそう考えておった。任せたぞよ! では小太郎、わしらは崖爆破じゃ」
「シルコロシアムから爆弾設置場所までどれくらい距離があるんですか?」
「丘を半周と上り坂を合わせて、約六キロじゃ! ジョニーを死なせたくないのならば十分とは言わず、目標五分で走るぞよ!」
現実世界に帰ったら、陸上選手になろう。




