七十四、勝利確信は危険の合図
しるこババアは、万が一のために出口に結界の準備をすると言い、会議場を後にした。ジョニーもゾンビを誘導し、廊下へ行った。
白玉と一対一だ。僕はおたまに力を込めた。
「私と一対一で勝てるとでも? 神に比べれば弱いとでも考えているのでしょう。確かに神は一瞬で海全体をしるこにするほどの力の持ち主だ。私にはそんなこと出来ない。しかし彼は、その力の正しい使い方を知らない。私は違うぞ。この力の利便性は高い」
白玉は本当に良く喋る。いい加減、聞き飽きた。僕はその不快感という負の感情をエネルギーにして強くおたまを振った。
すると白玉は、「こんな使い方もある」と言って、姿を消した。
白玉のいた場所にはしるこの沼があった。
どこに行った。
そう思った時、床から腕が生えて僕の足を捕まえようとした。
跳んでかわす。腕は白玉のものだった。彼は、床から浮き上がるように姿を現わし、また話を始めた。
「しるこにしてしまえば、床も壁も自由に透り抜けられる。他にも、しるこ化したものを単純な動作ならば遠隔操作することも出来る。つまり、こうだ」
白玉が両腕を広げると、床も壁も天井も黒く染まり、そこから数え切れないほどのしるこの矢が飛んできた。
避けることは不可能と判断し、持参したしるこを撒いて楯にする。なんとか防いだ。だが、この場所は不利だ。外に出た方が良い。
「逃げようとしても無駄だ。とっておきがある」
そう言うと白玉は唸りだした。建物全体が揺れ、あちこちが溶けだす。
溶けて出来たしるこは白玉の体を覆い始めた。天井が落ちる。遠くからも崩れる音がする。僕は廊下に出てジョニーと合流し、出口まで全力で走った。
そして外に出た瞬間、町役場が消えた。
山になっている瓦礫がしるこに姿を変え、盛り上がる。やがてそれは、見上げるほど大きな巨人になった。ただし、頭は普通に白玉のものだ。
遥か頭上から白玉は叫んだ。
「これで偉大な町長さんだ!」
しるこババアが親切に突っ込む。
「偉大とは物の大きさを表わす言葉ではないぞよ!」
白玉はそれを無視して拳を振り下ろした。
辺りの地面が砕け散る。
「ハッハッハ。私こそ、この町の王だ。神をも越える存在だ。あの神は阿呆だ。私がふざけた髪型にセットしてやったら無邪気に喜んでおった」
僕は叫んだ。
「お前が神の髪をアフロヘアにしたのか!」
「所詮あの神はこの町のゆるキャラ程度の存在価値しかない。町を練り歩いて、『しるこプシャーッ』とでも言っていれば良いのだ。私が実権を握る!」
白玉は町を破壊していった。
彼の体はかつて神が作った巨大な腕に比べればまだ小さいが、その性能はかなり高く、こちらの攻撃を跳ね返す。
しるこババアも叫ぶ。
「あの露出した頭が弱点じゃ」
「察してるよ!」
ジョニーがそう返事をし、白玉にしがみ付く。僕も後に続く。
ところが、白玉は虫でも払うかのように僕達を叩き落とし、僕のことを捕まえて握り締めた。
全身が痛む。
このままでは潰される。しるこ力を高めろ。殺意では足りない。もっと黒い感情を抱くんだ。
その時、赤ん坊の姿が見えた。
そして、頭の奥で鍵の開く音が聞こえた。




