六十九、しるこ伝説概論
※登場人物
先生役=しるこババア(以下、ババア)
生徒役=志瑠小太郎(以下、小太郎)
ババア「しるこ伝説の内容は把握しておるじゃろう? 要約して言ってみい」
小太郎「えっと、神がいて、女が世界を創って、神が封印される」
ババア「ま、まあ、随分と短くまとめたもんじゃが、合っておる。わしの記憶とも同じじゃ」
小太郎「記憶と同じ?」
ババア「順を追って話すぞよ。まず、この物語は非常に短いが三部構成になっておる。一部目が孤独な神の姿。二部は、女が顕われ世界を創り、しるこが光に満ちる話。そして三部は、しるこ太郎が顕われ、神を封印する話じゃ。結びとして、しるこ神社が建造された話が添えられておる。ここまでは良いな?」
小太郎「はい……」
ババア「お主、以前、しるこ神社には何が祀られておったか覚えておるか?」
小太郎「もちろんですよ。大きな鍋です。遠くの海に投げ捨てられてしまいましたが……」
ババア「その通りじゃ。じゃが、今はしるこの神の像が安置されておる。そして驚くことに、一部の人間達は既に鍋が祀ってあったことを忘れておる。それだけではない。この古文書のしるこ太郎の記述が消えたこともあった。これがどういうことか分かるか?」
小太郎「歴史が、創り変えられている……」
ババア「そうじゃ。創造主月の世界から来た女の望みは、しるこ太郎の存在しない、しるこの神を中心とした光あるしるこの世界。それが、この物語の一つの終わり方。では、しるこ太郎よ。否、もう一人の創造主よ。お主は、何を望む」
小太郎「……神を封印する?」
ババア「そう。それがもう一つの物語の終わりじゃ」
小太郎「要するに、神が僕を殺すか、僕が神を封印することで夢は終わるということですね」
ババア「噛み砕くとそういうことになるな。じゃが、分からんことがある。この物語の中心となる『しるこの神』は何者なのかということじゃ。伝説では神は女が世界を創るよりも以前から存在したことになっておる。伝説が真実や願望を投影したものだとするならば、お主達がこの夢を見るよりも以前から存在していた何かの象徴なのでは?」
小太郎「それは、たぶん……」
ババア「何じゃ?」
小太郎「あれ? すみません。何を言おうとしたか、忘れてしまいました……何か大切なことだったような気がするのですが……」
ババア「大切なこと?」
小太郎「ああ、いえ、何でもないです……ただ、僕と僕の側の反対勢力が神の封印をどんなに望もうと、大きな鍋が既にないです。あんなもの、今のしるこ町で作れるとも思えない」
ババア「お主がいない間に封印の方法を散々考えた。そして思い当たった。この町には、とてつもなく巨大な鍋があるじゃろうが。あの、屋根のない建造物……」
小太郎「あ、まさか」
ババア「そう。しるこ会館。別名、シルコロシアムじゃ!」




