六十七、遅れてきたアイツ
飲み込むことを拒否しようと、際限なくしるこが口に流れ込んでくる。
こんな死に方をするなんて。ここで死んだら現実の僕も死ぬのだろうか。
もうそんなことを考え始めていた。
助けてくれる人は誰もいない。諦めるしかない。
そう思った時、白い縄のようなものがしるこの神に巻きつき、神が飛ばされた。続けて白い投げ縄状のものが飛んできて辺りのゾンビを縛り付けた。
何が起こったのか分からず、それらが飛んできた先を見る。そこにはウエスタンハットを被った男が立っていた。
男は僕に向かって声を掛けた。
「小太郎。待たせたなあ」
僕は叫んだ。
「ジョニー!」
「白玉団子でダメージを与えられるって聞いたんでな。こいつでも攻撃できるかと思って試してみたら、ビンゴだった。その神は餅で捕らえられる」
ジョニーは僕のことを沼から引っ張り上げ、親指で神を指し示した。
「固めの餅で固定したが、一時的なもんだ。逃げるぞ」
僕とジョニーは走った。
その時、神が吼えた。地面から何匹ものゾンビが現われ、追いかけてくる。僕は素手で、ジョニーは餅で、ゾンビ達をなぎ払った。しかし、数が多い。何匹かのゾンビがジョニーの背後から飛び掛かる。
「ジョニー、避けろ! そいつらに触られるとしるこになるぞ」
僕は叫んだが、既に遅かった。ジョニーの背中に一匹のゾンビが負ぶさっていたのだ。ジョニーはそれを素手で捕まえて背負い投げ、僕に向かってこう言った。
「あ? 人がしるこになる訳がないだろ」
まあ、正論だけれども。
しるこ力を高めて一気に駆け抜け、どうにかゾンビを振り切ることが出来た。
僕は息を切らしていた。それに対してジョニーは涼しい顔だ。
「ジョニーは本当にいたんだね」
「当たり前だろ。何言ってんだよ」
「ごめん。記憶が曖昧で……それにしても待ち合わせに遅れ過ぎだろ」
「待ち合わせは三時だったっけか? もう七時だな。悪い、四時間も遅れた」
「一年数ヶ月と四時間だ。でも、なんで僕が家にいるって分かったんだよ」
「ああ。小汚い婆さんに、お前が自宅に現われるって占って貰ったんだ」
婆さん? 占い? 思い付くのはあの人しかいない。
「その人はどこにいるんだ!」
「俺んちにいるよ。留守中に勝手に住み着いたみたいだ。あれは路上生活者だな」
早速、ジョニーと一緒にジョニーの家に向かった
とても懐かしく感じる平屋の一戸建て。かつてはここで半月以上もシルコやしるこレンジャー達と共同生活をしたこともあった。
家に上がり、奥の襖を開けると、老婆が座っていた。
それは、紛れもない、しるこババアだった。
「よくぞ戻ってきた。しるこ太郎よ……」




