四十五、挑発的発言
しるこの神を中心にして遠巻きに円を描くように陣形をとる。
西側に僕、東側に赤褐色、崖側にシルコと錆色、その向かいにワインレッドと臙脂色がいる。しるこババアは力を使い切っているので戦力外だ。
神は落とし穴から崖側に2メートルほど離れた所にいる。シルコの位置から攻撃をすれば、あわよくば穴に押し込むことが出来るかも知れない。だが、焦る必要はない。時間は十分にある。
僕は少し考えてから、神に気付かれないようマイクに向かって囁いた。
「ワインレッドさん。挑発して下さい。神は挑発に弱い。そっちに進めば落とし穴に嵌ります。進まなかったとしても、そっちに気が行けば隙をついてシルコさんが攻撃できます」
(分かった。やってみよう)
しばらくの静寂の後、ワインレッドが口を開いた。
「この、囲まれマニアが!」
それを聞いた神はキョトンとしている。
錆色が小声で突っ込む。
(おいワインレッド。何言ってんだよ)
(ほら、神は囲まれてばかりだから、そう言われれば悔しいかと思って……)
一理あるが、それは神よりも取り囲む作戦ばかり決行し、かつ失敗している僕達に精神的ダメージがくる。
僕は過去の神の行動を思い返した。同時にシルコが提案をする。
(デ・ベーソッテ言エバ良インデス。サッキ怒ッテマシタ)
そうだ。それが正解だ。
再びの静寂の後、ワインレッドは言った。
「おい、このデ・ベーソ野郎! かかって来いよ」
神は微かにしかめ面をした。しかし、大して効いていないようだ。
さっきはデ・ベーソという言葉に反応したのではないのか?
その時、神が突然笑い出した。
「ハハハ。わかっちゃった。そこにあるんだ……」
嫌な予感がする。全員が唾を飲み込む。
「……ずっと、どこあるかわからなくて、き、気をつけ走ったから、本気、だせなかった。でも、平気。もう、わかった。本気、あばれられる」
僕は声を上擦らせて聞いた。
「な、何を言っているんだ?」
「ハハハハ。なにして、あそぶ? またオニごっこ? それとも、かいすいよく? 海、行く? そこから、とぶ、おちる、いたい。でも、ボクの体、すぐ治る」
「だから、何を言ってんだよ!」
挑発をしてくる神に対して怒鳴ると、神は冷めた目でこちらを見た。
「しるこのやしろ、から、大きなナベ、ぬすまれた。だから、気をつけて、言われた。だから、おまつりの所、行くとき、かえるとき、ずっと、さがした……」
鼓動が早くなる。耳鳴りがして吐き気を催す。しるこの神は静かに口角を上げ、すぐ横の地面、気が付かれてはいけない場所を、指差した。
「そこに…………おとしあながあるんでしょ?」




