クリスマス・イルミネーション
今日って何の日か知ってる?
ふふ、貴方には特別に教えてあげる。
クリスマスっていう、大切な人と幸福を分かち合う日なのよ。
一橋 大牙、36歳。
彼はとぼとぼと、終業後、横浜の繁華街を歩いていた。
(はぁ、明日も仕事か……)
年末年始の休みまで後三日。
歳を重ねると、この休みだって寝て終わる。
簡素な自分の世界は灰色で、軽快に鳴っている町のBGMの正体だって分からない。
ぼーっとしながら歩いていると、走って来た小さな女の子と正面からぶつかった。
「っと! ごめんよ、怪我はない?」
声を掛けたが、女の子は人見知りをして、ベソをかきながら母親の元に戻っていく。
大牙は、その光景を他人事として眺めた。
母親がやけに大きな袋を持っていたけど、なんだろう?
ぼーっとしていると、いきなりBGMの音が大きくなる。
大牙はびっくりして呟いた。
「うわっ、なんだよ一体」
シャンシャン……
軽快な鈴の音が混じった音楽が盛り上がり、繁華街の電気が一気に消えた。
そして次の瞬間、ぱっと明かりが付いた。
「Merry Xmas!」
合図に合わせて、イルミネーションがキラキラと輝いて、幻想的な空間を作り出す。
「あっ……。そういえば今日って……」
そう、クリスマス。
周りを見ると、この演出を待っていたであろう人々の上げる歓声や、自分と同じ様にクリスマスを思い出して立ち止まる、社会人の姿。
さっきの女の子は、母親にプレゼントを受け取って、頬を赤らめて喜んでいる。
幸せと、幸せを思い出す人々の姿がそこにはあった。
イルミネーションの光の中、大牙はスマートフォンを取り出す。
「もしもし母さん? うん、元気だよ。えっとさ……。Merry Xmas」




