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Episode1.便利屋セルフィ、依頼を受ける

毎朝8時頃更新。設定はゆるゆるです。



「報酬十万ギールですって!? 破格すぎるわ!」


 セリフィーヌは声をあげた。手元の封書を握りしめたまま、イスから立ち上がってテーブルに膝をぶつける。痛みに顔をしかめつつも、興奮は収まらない。


 依頼内容は“失せ物探し”。送り主は王宮で、なんと報酬が十万ギール。これだけあれば、父がこさえた借金の全額返済も夢じゃない。


「受けなきゃ損でしょ……!」


 セリフィーヌは頷いた。早急に準備して、できるだけ早く王宮へ向かわねばならない。



 彼女の名は、セリフィーヌ・ノアール。貧乏伯爵家の令嬢だ。

 家柄こそそれなりに由緒正しいが、財政状況は火の車。父は働き者だが人が良すぎて騙されやすく、母は典型的な浪費家で、揃って金勘定が苦手。

 結果多額の借金を負い、食卓に並ぶのはパンと具のないスープだけ。


 そんな生活を支えるのが、彼女の“副業”だった。

 表向きは物静かな令嬢、裏ではこっそりと「便利屋セルフィ」として、浮気調査や人探しなど、いわゆる探偵業と呼ばれる依頼をこなしている。


 なにせ彼女には、生まれつき“人の心の声が聞こえる”という不思議な力があるからだ。


 ただしその能力には制限がある。

 手を握る、指先が触れる、肩がぶつかる。などなど、心の声を聞くには相手と接触する必要がある。


 

(まあ、勝手に聞こえちゃうよりはいいわよね。昔は戸惑ったものだけど、今は触る前に覚悟を決められるし)


 子どもの頃、貴婦人が落としたハンカチを拾って渡したとき、「ああいやだ。みすぼらしい娘。もうこのハンカチは使えないわね」という心の声が聞こえたときは、わりと本気で傷ついた。

 以来、この力は家族以外には秘密にしている。そうでなくとも、こんな便利で恐ろしい力を持っていると知られた日には、権力者に一生を縛られる最悪な未来しか見えない。


 そういう訳で、この不思議な能力と、貧乏貴族という理由から社交界を避け続けていたセリフィーヌだったが、報酬が十万ギールとなれば、そんなことも言っていられない。王宮はきっと想像以上に恐ろしい場所だろうが、背に腹は代えられないのだ。



 セリフィーヌは改めて依頼内容を確かめる。


 依頼内容は【首飾りの捜索】。

 王家に代々伝わる宝飾品で、行方不明になってから一ヵ月が経つという。既におおよその場所は探したのだろうが、それでも見つからないために、便利屋セルフィに白羽の矢が立ったのだろう。


 封書の最後に署名があった。


「第二王子、エリオス殿下……」


 思わず声に出してしまう。

 噂によると、礼儀正しく品行方正。けれど、どこか冷たい人物だと聞いている。新聞で肖像画を見たことがあるが、美しい銀色の髪と琥珀色の瞳に、整いすぎた精悍な顔立ち。固く引き結ばれた口元は、とてもじゃないが“親しみ”とは縁遠いタイプに見えた。



(でもまあ、便利屋セルフィは平民だし。首飾りさえ見つけてしまえば、一生関わりあうこともない相手よ。私、接客業には慣れてるし!)


 セリフィーヌは自分を奮い立たせるように、ポンと頬を叩いた。


 王宮か。まさか自分が、あんな煌びやかな世界に足を踏み入れることになるとは。


 胸が高鳴る。お金のためとはいえ、ちょっぴり冒険の始まりのような気がしてくる。


(首飾り、絶対に見つけてみせるわ! 借金完済のために! ひいては家の再建のために!)


 彼女の頬には、希望と欲望が混ざった笑みが浮かんでいた。


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