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87 ダークウェブ

 零の家に警察官が来たのはお昼ごろ。

 一ヶ月ほど前に行方不明になった学生五人について話を聞きたいと、ミトに任意同行を求めたという。


 「ミトは……何も言わず、警察に行きました」


 屋敷で一人、不安に思いつつ待っていると、二時過ぎに警察から、ミトを殺人容疑で逮捕したとの連絡が入った。

 動転し、どうしていいかわからずオロオロしていたら、十名近い警察官がやってきて屋敷の中を一通り捜索し、五時過ぎに引き上げて行ったそうだ。


 「何かの間違いですよね……ミトは、人なんて殺してませんよね?」


 すがりついて泣く零をなだめすかし、寝室で休ませた。

 不安で仕方ないのか、泣きじゃくり続けて眠る様子のない零。私は少しでも眠るよう零に言い聞かせ、手土産として持ってきたワインを少し多めに飲ませた。


 「今は少し休みましょう。落ち着いたら、旦那さんに連絡したら?」

 「そう……です……ね」


 夫のことを思い出し暗い顔になった零だが、しばらくしてウトウトとし始め、コテン、と倒れ込むように眠ってしまった。


 「さてと……」


 時計を見ると午後九時。案外時間がかかってしまった、ギリギリのタイミングだった。

 私は零の寝室を出ると、居間へ行き零が飲んだワインのグラスを洗った。

 バレはしないと思うが、念入りにグラスを洗い、睡眠薬が検出されないようにしてから片付ける。それから、居間の電気を消して二階の小さな部屋に入り、カーテンを閉め施錠した。

 息を潜めて待つこと、二、三十分。


 「……来たわね」


 玄関を乱暴に開ける音が聞こえたのは午後十時。何か言い合う男の声と、家探しを始めたらしき音が聞こえた。私が隠れている部屋のドアノブが音を立てた時は緊張したが、まもなく「いたぞ、ここだ」と、零の寝室がある方から呼びかける声がし、複数の足音がそちらへと走り去った。


 耳を澄ませていると──零の悲鳴と、男たちの哄笑が聞こえてきた。


 私はそれを聞きながら微笑み、開いたままのパソコンに視線を落とした。

 ダークウェブ。

 人の欲望が渦巻くネットの闇。普通の方法ではアクセスできない闇の空間に、とある依頼が顔写真付きでアップされていた。


 『この美少女を好きにしていい。その様子をネットにアップしてほしい』


 写真は零。このお屋敷の写真と住所も含めてアップされている。今日の午後十時に門と玄関を開けておくから、好きなだけどうぞ……そんな依頼に怪しむコメントが多数アップされていたが、それでもチャレンジする者がいたようだ。


 「マジだった!」「これは大当たり!」「すげえ美少女!」といったコメントがあがった。


 それとともに、獣と化した男たちの「実績」がネットにアップされ始めた。女であれば見るに堪えない凄惨な写真と動画。たちまちアクセス数が急増し、囃し立てる書き込みであふれかえった。


 「ざまあみなさい」


 私はそんなつぶやきとともに、パソコンを閉じた。

 零が忌々しかった。憎いとすら思った。徹底的に貶めて、ボロボロにしてやりたいと思った。零の全てをぶち壊して、二度と立ち直れないようにしてやりたかった。


 なぜ……?


 ふと冷静になり首をかしげることもあったが、決まってココココッとあの音が響き、私の疑問をかき消した。

 零の悲鳴が聞こえてくる。

 私はそれを聞き流しながら、台所から持ってきたワインを開けて口に運んだ。


 「いい気味」


 人形が。たかが人形が。何もかも手に入れて裕福な人生を送るなんて、絶対に許せない。

 憎しみがこみ上げてくる。ココココッ、と音が響き、私の心と身体を満たしていく。

 楽しくて楽しくて仕方ない。

 どうしてこうも楽しいのかと考え、ああそうだ、と答えが見つかったその瞬間。


 ──もう少し待ちたまえ。


 そんな声が聞こえたような気がして、つかんだ答えがするりと私の手から逃げて行った。


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