7 白峰寺
坂出駅前のレンタカー店で車を借り、私と零は白峰寺へ向かった。
およそ十五分ほどで到着した。
四国八十八カ所霊場の第八十一番札所。本尊は千手観世音菩薩。わりと広い境内に七福神と十二支が祀られたお堂がいくつか立っており、寺なのか神社なのかよくわからない。しかも相模坊大権現なんていう名で天狗まで祀られている。神仏習合もここまでくるとちょっと考えものではないだろうか。
「そういうことは、宗教についてちゃんと勉強してから意見した方がいいですよ」
「ごもっとも」
白峯神宮と白峰寺の関係も知らなかった私だ。神仏習合も高校でちょっと習ったぐらいの知識で語るのは不遜というものだろう。
私が素直にうなずくと、零は「謙虚な人は大成しますよ」などと上から目線で物を言う。「からかうな。怒るぞ」と言い返すと、「ごめんなさい」と可愛らしい顔でクスクス笑った。
零は本尊他、神仏が祀られているお堂には目もくれず、白峰御陵、すなわち崇徳院のお墓へまっすぐに向かった。私も零について行ったが、途中にある階段でへばってしまい、「ち、ちょっと待ってくれ」と途中で足を止めて呼吸を整えねばならなかった。
「情けないですよ、この程度の階段で」
「いや、もう歳だし」
「まだ三十代半ばですよね?」
「三十超えたら中年のおじさんさ。はあ、若い者にはかなわん」
「もう、困った人だなあ」
零は笑いながら、へばった私に手を伸ばした。
手を握り、その柔らかさにどぎまぎした。これ本当に男の手だろうか。しかしそれを悟られるとまたからかわれそうだ。私は「サンキュ」とできるだけ平静を装ってお礼を言った。
「こんな風に手をつないでいたら、恋人同士と思われちゃうかな?」
「あのな」
「ちょっと嬉しいですか?」
「からかうな」
結局からかわれた。手を放そうかと思ったが、零がギュッと握っているので離しづらい。まあいいか、と私は手をつないだまま零と一緒に歩いた。
零に引っ張られるようにして階段を上ると、ようやく御陵だった。天皇の陵墓、ということで宮内庁が管轄しているようで、奥まで入ることはできなかった。
「これが、日本史上最大の怨霊のお墓か」
「はい、そうです」
もっとも、と零は軽く肩をすくめた。
「すでに神として祀られ鎮められていますから、怨霊というと怒られるかもしれませんね」
零は御陵の前に立ち、ノートを出して何やら書き出した。陵墓のスケッチらしい。
「うまいもんだな」
「ありがとうございます」
零がにこりと笑い、のぞき込んでいる私の顔を直視した。
すぐ目の前に美少女の顔。
いやいや男だから、と思ったものの、こんな可愛い顔が目の前にあったらどぎまぎしてしまう。
五分ほど待っていたが、「僕しばらくここにいるので、ぐるっと回ってきていいですよ」と言われた。どうやら邪魔をされたくないんだなと思い、山門で落ち合う事を約束して零と別れた。




