73 再会
「お目覚めー?」
笑いを含んだ男の声が耳朶を打つ。頭痛とめまいをなんとかこらえて目を開けると、「いかにも」な若い男が五人、私を取り囲むように立っていた。
「こんなところで寝てるなんて、ひょっとして誘ってるのぉ?」
男たちがゲラゲラ笑う。逃げなきゃと思ったけどもう遅かった。
「や、やめて!」
両側に男が座り、私は腕を抱え込まれた。正面の男が「聞こえませーん」と下卑た笑いを浮かべ、私の胸元に手を伸ばす。
ぷちり、とブラウスの三番目のボタンが引きちぎられた。
「いやっ……」
上げかけた悲鳴は、右の男の手に塞がれた。
「たまには熟女もいいよなあ」
「けっこう美人じゃね?」
「胸、でけー!」
ブラウスの上から乱暴に胸を揉まれた。逃れようと必死で暴れたけれど、男性五人が相手ではどうにもなからなかった。
ベンチの上に押し倒され、三人がかりで体を押さえつけられた。タイトスカートが破れる音がして、私は両足を力任せに開かされた。
「暴れるなって。すぐ終わるよ」
「そうそう。男に飢えてるんだろ? 満足させてやるって」
冗談じゃない。こんなクズみたいな男の相手をしなきゃいけないほど不自由はしていない。
「うっ……ううっ!」
男の手がスカートの中に入ってくる。両足に力を込めたけれどまるで歯が立たない。ちくしょう、このクソガキどもが、と心の中で罵ったが、何の役にも立たなかった。
「あん?」
ショーツを半分ほど脱がされたとき、私の腕を押さえつけていた男が声を上げ、公園の向こう側の闇へ視線を向けた。
「どうした?」
「いや、誰か来た」
「ああん?」
男たちが一斉に視線を向けると、闇の中から大男が姿を現した。
今年の初め、羽田空港で見た、あの美少女と共にいた男だ。
両手に大きなエコバックを持っている。こんな夜中に買い物帰りだろうか? 私たちを見て「おやぁ?」とわざとらしく声を上げ、ためらうことなくズカズカとこちらに近づいてきた。
「なんだてめぇ?」
私を犯そうとしていた男の一人が、威嚇するように大声を上げ、立ち上がった。
そして、有無を言わさず殴り倒された。
「通りがかりのワルモノだ」
バキリ、と嫌な音がして、男は声も上げずに地面に倒れそのまま動かなくなった。
大男がニヤリと笑う。その笑みは言葉通り「ワルモノ」そのもので、私を犯そうとしていた男たちなど、この男の前ではチンピラですらない、ただの子供だった。
一分後。
残りの四人もそれぞれ一撃で叩きのめされ、ピクリとも動かなくなった。
「なーんでえ、弱っちい」
大男はつまらなそうに舌打ちすると、呆然としていた私に視線を向けた。
値踏みするようなその視線に、ぞくりと体が震えた。
「ふーん……あんた、ベッピンさんだな」
無遠慮に私の顔を覗き込んでくる大男。私は息を呑み、ブラウスの前をかき合わせて後ずさりした。
「あ、もしかして、お楽しみを邪魔した?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
私が思わず声を荒げると、大男は「そりゃよかった」とゲラゲラ笑った。
「ね、ねえ……この人たち……大丈夫なの?」
私はピクリともしない男たちを見て、大男に問いかけた。同情する気はないし、自業自得だ、ざまあみろという気持ちはある。だけど死んでいたりして、私が犯人扱いされるのは困る。
「まあ、平気じゃね? 目撃者もいないし」
「そんな無責任な」
「……あー、なるほどな。自分が犯人扱いされるのが嫌か」
大男が私を見下ろしながらニヤニヤ笑った。私が言葉に詰まると、大男はさも可笑しそうに声を上げて笑った。
「わかったわかった。ならうちにこいよ。犯人の家を知っていれば、警察が来てもタレこめるだろ?」
「そ、そういう意味じゃ……」
ズバリと言い当てられ、私は冷や汗が出た。だけど大男は気にした様子もなく、「いいから来いよ」と私を誘う。
「心配するな、襲ったりしねえ。それに一人暮らしってわけじゃねえ。安心しろって」
ええ、そうでしょうね、と私は言葉には出さずにうなずいた。
あんな美少女と同居していたら、私になんて興味を示すはずがない。
なぜだろう、私はほぼ初対面の相手に対し、嫉妬のような気持ちを覚えていた。
私はどうにもならない悔しさを感じながら、歩き出した大男についていくことにした。




