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小人族御伽草子 呪いの珍皇子  作者: おかやす
第3章 楓機構
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64 人形・楓 八

 何度も吐きながら、それでも神を食らい尽くした。

 それは、祈り無き者が、祈りである神を取り込んだということ。僕の中に新たな矛盾が生まれ、相克の力が生じた。

 ガコン、と止まっていた鼓動が動き出す。

 ガリガリ、ガリガリと、何かが無理矢理動かされているような音が響く。僕の体は修復されていき、やがて全ての傷口が塞がった。


 「ちっ……なんだよ、このクソ不味さは」


 神にとって僕は美味らしいが、僕にとって神はゲテモノだった。口に入れるだけで吐き気がする。だが今はこれを食べるしかない。神の力をこの身に取り込み、己の力とするために。


 「……来たか」


 血まみれで立つ僕の前に、残る二体の神がやってきた。

 楓を求めて。

 僕の中に生まれた、至高の味の、毒酒を求めて。


 「こいよ、次の獲物は、お前たちだ」


 飛びかかってきた神の残骸に、僕は食らいつく。僕の力をむさぼろうとする神の残骸に噛みちぎられ、引きちぎられながら、神を捕まえてバリボリと噛み砕き、自分の中に取り込んでいく。

 七日七晩の死闘の末に、僕はどうにか二体の神を食らい尽くした。


 「ククッ……」


 楓機構は動き出した。

 ガラガラと鼓動がする。以前とは桁違いの力が生まれている。神の力で蘇った楓機構は、以前とは別物だ。これが動く限り、僕は動き続ける。生きてもいない、死んでもいない、でも僕は動き続ける。今なら滅びた数万の手足を蘇らせることだってできる。だけどそんなことはしない。僕は僕だけでいい、置き換え可能な手足など無くていい。


 「まずは……」


 僕は落ちていた枝を拾った。切っ先が鋭い方を自分の胸に向け、思い切りつき立てる。


 「ち……くしょう、痛みはあるのかよ……」


 僕は痛みに耐えながら、空いた穴に手を突っ込んで胸の奥をまさぐった。

 あった。

 それをつかみ、無理矢理引きずり出す。それは、楓機構の中核となる部品の一つ。鬼を倒し、無用となった楓機構に自殺を命じる、初代一寸法師が組み込んだ安全装置。

 そんなものはいらない。僕は引きずり出したそれを岩に叩きつけ、破壊した。

 ガラガラと鼓動がして、僕の傷を癒していく。なるほど、この程度の傷だとあっという間に直るのか。さすがは神の力だ。


 「で、次は……」


 そしてもう一つ、やることがある。

 僕は岩の上に腰を下ろし、虚空に向かって呼びかけた。


 「やあ」


 誰もいないその空間、その遥か先に、かつて僕の手足だった者がいる。

 神子・楓。

 女となり、妻となり、母となった、僕の複製。


 「僕の代わりに、幸せになってくれてありがとう」


 神子・楓の顔が恐怖に歪む。なにせ原本と複製だ、僕と彼女はつながっている。僕が何をしていたのか、これから何をしようとしているのか、口に出さなくとも彼女には伝わる。

 明日は娘の出立の日、せめてそれまではと、彼女は僕に哀願する。


 「そう。それはおめでとう」


 僕は楓とのつながりを切った。

 楓が止まる。動力を止められた手足は、自ら動くことができずに崩れ落ちる。周りにいた神官が慌てて駆け寄り、知らせを受けて家族が駆けつけてくる。

 僕は、最後に駆けつけてきた大きな男の姿を見る前に、視界を絶った。


 「さて……」


 何の感慨も湧かぬまま、僕は立ち上がり背伸びをした。

 見上げると、満天の星空。

 そこは神々の世界。あそこへたどり着くには、さてどうしたらいいのだろうか。


 「ま、そのうち考えるか」


 僕はとりあえず、血まみれの体を洗い服を手に入れるため、神域の柵を再び乗り越えることにした。


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