表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小人族御伽草子 呪いの珍皇子  作者: おかやす
第3章 楓機構
62/114

61 人形・楓 五

 初代一寸法師は天才すぎた。それゆえに、彼が残した策略は子孫たちにも正しく伝わらず、また鬼に悟られるのを防ぐため秘匿されたものもあった。

 楓機構も、そんなものの中の一つだ。

 二百年前、鬼を倒したお姫様と同じ名前の人形たち。お姫様が鬼を倒せず、鬼が「神の卵」と呼ばれる巨大な力を手にした時、動き出すはずだった仕組み。そして、鬼が倒されたと同時に、不要になった仕組み。

 それが、百年も遅れて動き出し。

 さらに百年たって、僕が生まれた。

 いいや、作り出された。僕は人じゃない。土塊にかりそめの命を与えられ、終わった役目を果たすべく作り出された矛盾の塊。


 「そう……僕は、やっぱり何もしなくていいのか」


 領主は、隼人の父は正しかった。僕に与えられた役割はない。ただただ生きて、朽ちて、死ぬだけの、生まれた理由のない人形。どこからどう見ても人だけど、でも僕はただの人形だった。


 「お、おい、どこへ行くんだ?」


 立ち上がり、歩き出した僕に鬼が声をかけた。


 「帰る」

 「帰る? どこへ」

 「町へ」


 それでも僕はまだ生きている。だから、僕がいた場所へ帰る。そこで何の役目がなくても、ただ朽ちて死ぬだけだとしても、僕は僕がいた場所へ帰りたい。


 「やめとけ。お前の居場所は、もうないぞ」


 二代目が僕の背中に告げた。


 「それに、機構が止まった。次に傷ついたら、お前は滅ぶ」

 「止めたのは……君か?」

 「いや。役目が終わると同時に機構は止まる、そういう仕組みだ。安全装置もあるしな」


 それは、不要になった楓機構が暴走するのを防ぐ仕組み。鬼を倒し、もはや戦う必要がなくなったとき、楓機構に埋め込まれた自殺命令が動き出すことになっていた。


 ああ、あの日、僕が死のうとしたのはそういうことか。


 遠い記憶を呼び覚まし、僕は納得した。

 あの日、突如として僕に滅びろと命じた声。あれが安全装置だった。抗えない強烈な声に、僕は自我を失い、自ら滅ぶべく川に身を投げた。

 だけど僕は生き延びた。埋め込まれた自殺命令はなぜか無効となり、僕は未だに滅んでいない。


 「お前だけが動き続けていた。はっきり言って謎だよ」

 「あいつらは? あの悪霊たちは?」

 「あれは、お前の手足(・・)だ」


 女王蜂と働き蜂。僕とあの悪霊たちとの関係はそれだった。手足が壊れても、僕がいればまた生まれる。僕が動き続ける限りあれらは動き続け、僕を守るためにあれらは戦う。


 「もっともお前は、手足に役目を乗っ取られたけどな」


 ああ知ってるとも。僕を蹂躙しながら神が教えてくれたから。神は、禁忌の森で僕の手足(・・)と戦い、僕という甘い蜜がいないことに気づいた。だから、僕の手足(・・)を切り離し、僕と入れ替わることを餌に協力させた。

 そして僕と入れ替わった一体が、今は側室として隼人のそばにいる。


 「僕が……僕が、僕のいるべき場所に戻って、何が悪いんだよ!」


 僕は大声でそう叫び、走り出した。

 会えばわかってくれると思った。隼人なら、どちらが本物の僕かわかってくれると思った。意味もなく生まれ、成すことのない命だけれど、こんな僕を隼人は愛してくれた。

 楓機構は止まった。

 僕の命は、この先どれだけあるかわからない。

 だから、せめて最期は、愛する人のそばにいたい。神殿の片隅のあの部屋でもいい、なんだったら牢獄の中でもいい。


 町に帰り、隼人の近くで、この命を終えたい。


 僕は、ただただ隼人に会いたくて、その一心で走り続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ