表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小人族御伽草子 呪いの珍皇子  作者: おかやす
第3章 楓機構
61/114

60 人形・楓 四

 鬼と戦いこれを撃退した初代一寸法師は、やがて復活する鬼との戦いに備えて無数の策略を張り巡らせた。その策略の最後の最後に、余った材料で作り上げたものがあった。

 それが「楓機構」。

 発想は実に単純。一対一で敵わないのであれば、数の力で押し切る。永遠に生まれる力をもって鬼にかすり傷を与え続け、積み重ねることで致命傷とする。

 その役割を担ったのが、「楓」と呼ばれる人形だ。億を超える人形が、永遠に生まれる力をその身に宿し、鬼が倒れるまで戦い続ける。倒れても、壊れても、宿った力によって修復され、鬼を倒すまで動き続けるよう命令を与えられた。


 「そのうちの一体が、僕なんだろ?」


 僕を貪り続けた神に聞かされたことを話すと、二代目は静かにうなずいた。


 「え、なに、そんなエゲツない仕組みだったの?」


 鬼は詳しい仕組みを知らなかったらしく、僕の話を聞いてげんなりとした顔になった。


 「さすがに……億単位のコレに囲まれたら、死ぬな」


 神は言っていた。数で押し寄せる「楓」のことは、少し前から神や鬼の間で噂になっていた。そのうっとうしさたるや比するものがなく、関わり合いにならぬのが一番である、と言われていた。

 だが、神にも物好きがいたらしい。

 たまたま出会った「楓」を食してみたところ、その身に宿す「力」が、エネルギー体である神にとってこの上ない美味であったという。まさに至高の一品、一度食べたらもう他のものは食べられず、しかも「楓」の力は永遠に生まれ続ける。

 一体捕らえれば、至高の美味が永遠に手に入る。それが神にとって毒だとわかっていても、一度至高の美味を知った神たちは、密かに「楓」を求め続けた。


 「ま、あの三体の神も、そのクチだろうな」

 「そんなにうまいの……これ?」


 鬼が、僕を見てゴクリと喉を鳴らす。鬼も神と同じ。食らうのは人の肉ではく、人のもつエネルギーだ。


 「やめとけ。麻薬みたいなものだ、て言ったろ? 楓を味わった神は、ほとんどが狂ってる」

 「……鬼も?」

 「鬼は死んでる」


 楓機構は鬼を倒すための仕組み。その身には鬼が思わず食べたくなるような珍味が練り込まれ、しかしそれは鬼にとって猛毒で、弱い鬼なら一口で命を落とす。


 「どこまでもエゲツないな。お前の先祖はどういうやつなんだ?」

 「天才だよ。紙が破れた、な」


 天才と何とかは紙一重。何とか、すなわち、狂人。初代一寸法師は、その域にまで達した天才だったようだ。


 「オイラも昔は尊敬してたんだがなあ。さすがにここまでくると、ドン引いた」


 楓機構のことを知った二代目は、放置してはおけぬと後始末に乗り出した。それがおよそ百年前。神や鬼にも「楓」を問題視する者がいて、そういった者たちの協力を得て、世界中に散らばっていた「楓」たちを滅ぼしていったという。


 「にしても、永遠に生まれる力、て何だ?」

 「それだよなあ……」


 鬼の問いに、二代目は頭を掻く。


 「源泉は矛盾の力。相容れないはずのものを一つにして、そこで生まれる相克の力を利用している、とは聞いている」


 命ある土塊。死ぬために生きている人形。無数でありながら一つ。そんな、ありえない存在が「楓」。


 「けど、はっきり言ってわかんねえ。神にも鬼にも、理解できたやつはいないんだよ」

 「なんだそりゃ。それじゃ……」

 「聞きたいこと、あるんだけど」


 僕は、口を開きかけた鬼に割って入った。

 悪いけど、そんな話はあの三体の神に散々聞かされた。いまさらどうだっていい。僕がいないどこかで、勝手に議論してればいい。

 僕が聞きたいのは、たった一つ。


 「僕が倒す鬼は、どこにいるの?」


 鬼を倒すために作られた楓機構。ならばその一部である僕は、鬼を倒すために生まれたはず。それが僕が生まれた唯一の理由で、すがるべき使命のはず。

 僕が生まれた理由は、使命は、今どこにいるのか。

 そんな僕の問いに、二代目は静かに、きっぱりと答えた。


 「倒した」

 「……倒、した?」

 「ああ、二百年前にな」

 「二百年……前?」


 楓機構が動き出したのは百年前。神はそう言っていた。嘘ではないだろう。嘘をつく理由がない。だとしたら楓機構は、動き出した時にはもう存在理由がなかったというのか。


 「知らなかったのか? わりと有名なおとぎ話になってるんだけどな」

 「ひょっとして……橘姫と神の卵の……あの……おとぎ話?」

 「ああ、そうだ」


 知ってるとも。あのお話のことなら知ってるとも。隼人と桔梗と三人で、よく読んだもの。隼人が鬼になって、桔梗がお姫様になって、僕が小人になって、そうやって鬼退治ごっこをしてよく遊んだもの。


 「なんだよ、それ」


 ガコン、と大きな音とともに、僕の鼓動が止まった。


 「じゃ、僕は……なんで、生まれたんだよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ