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小人族御伽草子 呪いの珍皇子  作者: おかやす
第3章 楓機構
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55 神子・楓 質

 三年ほど、穏やかで平和な時間が過ぎた。

 隼人と桔梗の間には二人の子が生まれ、前領主の死去に伴い隼人が領主となった。神子がいる町の領主として近隣の町からは敬意を持って接せられ、私は神の恵みを分け与えるものとして、かしずかれる身となった。

 禁忌の森は、悪霊と鬼を追い払った三体の神が鎮座する場となり、神域として人の立ち入りが禁止された。年に一度、冬至の日に祈りを捧げに出向いたが、神が私の前に現れることはなかった。


 私は神子として淡々とその務めを果たし続けた。

 それが激変する、神の言葉が届いたのは、四年目の夏だった。


 「神子を、領主の隼人に下賜する」


 朝の祈りの最中に降りてきた神の言葉に、私は仰天し、神殿は大騒ぎとなった。思わず「どういう意味か」と問うたところ、私が身に宿す神の力を後代に伝えるべく、隼人との間に子を成せと言われた。


 「悪霊に対して、今の人は弱すぎる。神の力を持つお前が子を成し、人を強くせよ」


 神の言葉を私の一存でなかったことにはできない。私はどうにもやりきれない気持ちで、隼人と桔梗に神の言葉を伝えた。


 「わ、私が捏造したんじゃないからね!」

 「わかってるわよ、そんなことは」


 思わず付け足した言葉に、桔梗が呆れ、次いで声を上げて笑った。


 「別に私は構わないけど」

 「構ってよ……」


 かつての私は、隼人を心から愛していた。しかし四年も経ち、神子としての務めを果たす日々を送る今、個人的な想いを優先する気はない。それに何よりも、隼人と桔梗の仲にヒビを入れるような真似はしたくなかった。


 「私が子を産んで、世嗣ぎ争いとかになったらどうするの?」

 「それは困るわね。その辺は、事前に取り決めておかないとね」

 「……隼人の気持ちが私にだけ向いたりするかもよ?」

 「そうなったら女の戦いね。負けないわよ」


 どう煽っても、桔梗は反対する気はないようだ。本気か演技か計り兼ねていると「まあ、あなたたちが結ばれることに思うことはない、とは言わないけど」と前置きし、桔梗が真面目な顔で続けた。


 「神の命に、逆らえるわけないんでしょ?」

 「……まあ、そうだけど」

 「だったら観念するしかないわ」


 それにね、と桔梗は隣に座る隼人を指差した。


 「どうせこの人は、あなたに未練タラタラなんだし。いっそくっついてくれた方がスッキリするわ」

 「え?」


 私が驚いて桔梗の隣でずっと黙っている隼人を見ると、隼人が気まずそうな顔をして目を逸らした。


 「そうなんでしょ、あなた」

 「いや、その……なんだ……」


 その顔を見て、私は桔梗の言うことが本当だと確信した。


 「うわ、隼人、それはないでしょ。桔梗に悪いと思わないの?」

 「お、お前が言うか?」

 「言いますとも。ちゃんと気持ちの整理つけてくれてると思ってた。あーもー、情けない」

 「きっとあなたのそんな気持ちを、神が見透かしたのね」


 それから桔梗と二人で隼人をなじり、「隼人(おとこ)って情けない」という結論に達した。

 その結論に満足したところで、本題である。桔梗の言う通り、神の命には逆らえないのだから、私は隼人の子を産むしかない。

 正妻は桔梗とし、世嗣ぎとしては桔梗の子を優先する。

 私が産んだ子は桔梗の子が生きている限り領主の後継者たる資格は持たず、神の命を果たすための特別な地位を設け、成人とともに町を出る。

 大きなところではそんな取り決めを交わし、その他の細々としたことは神官と隼人の側近との間で取り決めることにした。


 「少し形は違うけれど」


 あらかたの取り決めを終えたとき、桔梗が感慨深そうにつぶやいた。


 「私たちがなりたかった関係に、やっとなれそうね」


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