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小人族御伽草子 呪いの珍皇子  作者: おかやす
第3章 楓機構
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47 神子の役目

 桔梗の家に連れて行かれた僕は、湯に入れられて体を清めた後、神子(みこ)の服を着せられた。

 神子は、神官の中でも特別な役職だ。

 神と直接言葉を交わせる存在であり、神をその身に宿すことができ、女であれば神の子を身ごもることもできる。特殊な才能、というか性質、が必要な役職で、誰もがなれる役職ではない。

 そして、神子がいる町を神が訪れた時は、神子が神の相手をするのが約束だ。


 もしも神子が気に入られなければ、その町は神に滅ぼされても文句は言えない。

 だが気に入られれれば、神子を通して神の恵みを受け発展することができる。


 僕が神に名指しされたと聞き、領主は僕を神子にした。神は気まぐれだ、僕が粗相をすれば町ごと滅ぼすだろうし、気に入ればなんらかの恵みを与えてくれるかも知れない。僕が何の役職もない身では、神の恵みは僕にしか与えられない。神子にすることで、僕が気に入られた時に町が神の恵みを受けられるようにするための、一か八かの賭けなのだろう。


 「ほう……」


 化粧を施され、神子の衣装を着た僕が姿を表すと、三体の神は相好を崩し僕を見つめた。


 「楓です。この町の……神子として務めております」


 僕は神の視線を受けながら、必死で声を絞り出し挨拶した。

 夢で見たあの三体の神だった。なんで、どうして、と恐怖で逃げ出したくなったけど、必死で思い留まり神に平伏した。


 「男、と聞いていたが?」

 「美しい少女のようではないか」


 相好を崩した三体の神の横で、領主と隼人が緊張した面持ちで控えていた。


 僕は、隼人の目の前で、神の相手をするのだろうか。


 そう思うと泣きたくなった。神にとって人の性別はあまり意味がない。それよりも大切なのは、その身に宿す力、神官は霊力と言っているけれど、それが好みに合うかだけだ。

 要するに、神子は生贄だ。逆らわず、求められるままにこの身を差し出すしかない。僕がしくじれば町ごと滅ぼされる。隼人だって命を落とす。だから僕は神子として、何としても神を満足させなければならない。

 だけど、せめて隼人が見ていないところであってほしかった。


 「は、我らの中にも、この者の美しさに惑わされる者が多くおり、これは神子にするしかないと……」

 「なるほどな」


 領主の言葉に神が笑う。隼人は硬い表情のまま唇を噛んでいた。


 「さて神子よ、その務め、果たすが良い」


 神が空になった盃を差し出した。僕は一礼し、酒瓶を手に神の前に進み出て、盃に酒を満たした。


 「震えておるな。神を迎えるのは、初めてか?」

 「は……はい……」


 お願い、見ないで隼人。僕は何だってするから。隼人と桔梗と、この町のためになんだってするから。

 だからお願い、もうこれ以上、僕を見ないで。


 「なかなか(うい)やつではないか」

 「ほれ、もっと近くに寄らんか。そのように遠くては話しづらいぞ」

 「それとも、ここに、誰ぞ見られたくない者でもおるか?」


 神がおかしそうに笑った。


 「め、めっそうもございません。私は……神子ですから」


 ああ、気づいてるんだ、と僕は思った。神は笑いながら、横目で隼人を見ている。僕と隼人がどういう関係か、神は察し、あえて隼人の前で僕を嬲るつもりだ。


 「ほれ、早うせぬか」

 「そうとも。我らはこの町へ来る直前に、森で悪霊と戦ってきたのだ」

 「骨の折れる相手であった。神子よ、今宵は存分に我らを癒してもらうぞ」


 三体の神が、僕に鋭い目を向ける。

 神が戦った悪霊。

 それはきっと、僕とそっくりの姿形をしていたに違いない。


 ──滅びよ、お前は存在してはならぬ。


 その時初めて、僕はあの言葉に従って滅びなかったことを、心の底から後悔した。


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